プロローグ
少年はいつもの通り、村の近くにある山に日が出る前に向かう。まだ肌寒く吐く息は白い。
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少年の家は農家ではなく、このダルム村で一つしかない鍛冶屋の次男だ。長男は跡継ぎとして父親に弟子入りし、鍛冶の技を磨いている。母親は少年を産んでしばらくしてから病で死んだらしい。
少年の家は村の大半を占める農家でもないことから農作業をするわけでもなく、かといって何もせずに食わせてもらえるほど甘い環境でもなかった。いくつかある選択肢の中、少年が選んだのは山に入り、獣を獲る狩人だった。家が鍛冶屋ということもあり、武器を用意しなくてもよかったこともある。
山には獣だけではなく、魔物も出る為、狩人は命の危険のある仕事と言えた。だからと言って山に入らないという選択肢は村人にはなかった。もちろん獣の肉や諸々の生活必需品の材料となるを得る為でもあるが、定期的に魔物を間引かないと魔物が魔物を呼び、手が付けられなくなってしまうためだ。領主の軍はこんな辺境の村のために動いてくれることはなく、冒険者ギルドに依頼する金もない。そうなったら最後、魔物の集団が村に気付いた時、村は壊滅するだろう。狩人はそういった事態を防ぐための自警団的な役割も担っていたのだ。
幸い少年は狩人として優秀であった。最初は近所の狩人に従い、狩りのイロハや魔物の対処方法を叩きこまれ、少年が12歳になる頃には1人で山に入ることを許された。
以降、よほどの悪天候でない限り、少年は山に入り獲物を狩る。そして死ぬまで同じことをする。それが普通の村人の一生のはずだった。
しかし少年は違った。ある存在との出会いにより、ただの村人で終わるはずだった少年の運命は大きく変わることになる。これはその少年「ミュウ」の物語である。