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ピックアップ作品

【優秀作品】見ず知らずの人たちに声をかけられた

作者: たこす
掲載日:2016/06/14

三郎が主人公です。

「三郎、三郎じゃないか!」


 三郎は、町の中で見ず知らずの男に声をかけられた。

 見た目50代くらいの、冴えないオッサン。

 よれよれのコートを着て、ヤニ臭い息を吐きだしながら三郎の手を握った。


「いやあ、まさかこんなところに三郎がいるなんて」

「誰ですか?」


 三郎は尋ねた。

 彼は有名人でもなんでもない。

 普通の18歳である。


 しかし、冴えないオッサンは「みんなに教えなきゃ」と言いながら三郎の手を握っている。

 正直、三郎は気持ち悪くなってきた。


「は、放してください!」


 なかば強引にオッサンの手を振りほどく。

 オッサンは「おいおい、邪険にしないでくれよ」と言いながら彼を見つめていた。

 三郎は怖くなってすぐにその場を立ち去った。

 幸いにも、動きが鈍いのか追ってはこなかった。


(なんだ? 誰だったんだ?)


 首を傾げながらそそくさと走っていると、今度は若い女に声をかけられた。


「ああ、三郎! 三郎じゃない!」


 そう言って、腕をからめてくる。

 香水のキツイ香りが鼻をついた。


「だ、誰ですか……!?」


 三郎は赤面しながらも、振りほどこうと必死に手を振った。

 しかし、若い女は執拗に腕をからめて離れようとしない。


「あの、放してください」

「嫌よ。はなさない」


 さすがに怖くなった三郎は、思わず若い女を突き飛ばした。


「きゃ!」


 女は軽く悲鳴を上げながら地べたに突っ伏す。

 三郎は「あ」と叫んで手を差し伸べた。


「だ、大丈夫ですか!? ごめんなさい」


 言いかけて、手を差し伸べようとしていた手をすぐに引っ込めた。

 女が笑っている。

 地べたに膝をつきながらも、ニコニコと不気味に笑っている。


 三郎は怖くなって逃げ出した。


 なんだ、なんなのだ。

 さっきから見ず知らずの人が、いきなり声をかけてくる。

 自分に何があったのだ?


 すると今度は中年のおばさんが声をかけてきた。

 ふっくらとした体つきの、高校生くらいの子供でもいそうな中年女性。

 彼女は三郎を見るなり問答無用で抱きついた。


「わあ、三郎ちゃん! 三郎ちゃんだ!」


 ものすごい力に、身体が圧迫される。


「く、苦しい……」

「三郎ちゃん、生きてたんだ。よかったねえ!」


 誰だ?

 いったい誰と間違えているんだ?


 三郎は混乱した。

 さっきから、誰かと間違えられている気がする。

 彼には、3人ともまったく面識はない。


 ただ、三郎という名前だけは合っている。

 わからない。


「苦しい! 放して!!」


 思わず叫ぶと、「あら、苦しかった?」と中年女性が身体を放す。

 その隙に三郎は逃げ出した。


「ああ、三郎ちゃん!」


 中年女性の声を背後に聞きながら、彼はひたすら駆けた。

 おかしい。

 何かがおかしい。


 そもそも、町中で声をかけられることなど今までなかった。

 しかも、自分を知っているなどと。


 町の中を駆け巡りながら、三郎は一軒の家にたどり着いた。


 見知らぬ家。


 なぜ、その家の前にいるのか、三郎にはまったくわからなかった。

 ただ懐かしい。

 その想いだけは心にあった。


 と、家の中から誰かが出てきた。


「行ってきまーす!」


 ランドセルを背負った、一人の少女。

 活発そうな、くりくりと瞳の大きな少女だった。

 彼女は三郎を見るなり、サッと顔色を変えた。


「さ、三郎!」

「──ッ!?」


 パタパタと駆け寄ると、彼に思いきり抱きつく。


「三郎、三郎、三郎!」

「だ、誰……!?」


 そう言いながらも、三郎はなぜか少女のぬくもりが懐かしく感じられた。


「もう、二度と会えないかと思った……」


 ボロボロと涙を流す少女の顔を見て、三郎は「あ」とつぶやいた。


 思い出した。

 すべてを思い出した。


 ああ、そうだ。

 自分は、この家にいたんだ。

 この少女が生まれた時からこの家に住んでいたんだ。


「お母さん、三郎が、三郎が帰ってきたよ!」


 少女は、その小さな腕で三郎を拾い上げると、家の中へと戻って行った。


 その目の端に、郵便ポストに貼られた小さなポスターが映り込む。

 そこにはこう書かれていた。



『迷子猫を探してます。名前は三郎。お心当たりの方は、こちらの住所まで』



 そっか。

 町の人たちは、それで自分を呼んだのか。


 三郎はすべてを悟ると、少女の腕の中で「にゃあ」と鳴いた。





お読みいただき、ありがとうございました。

帰ってきてよかったですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] たこすさんの作品はどれも面白いですね。よくこんなの考えてつくなあ。ラストが秀逸。すごくキュンとしました。
[一言]  冒頭の叙述に何かこう、手を握るも振りほどくも不自然ではないのですが、他に方法論が無かったかなと。内容が秀逸なだけに。それでなくあれだったら(意味が解らないですね)もっと素直に受け入れられた…
[一言] そういう事だったんですか(^^) 読んでてほっこりした気分になりました。
2016/06/15 00:58 退会済み
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