天上の魔王は怠惰をくれる 共通① 勤勉
――生まれた日から私は日の当たらない真っ暗な地下にいた。
裕福な貴族家に生まれた私は赤子の時に神官から呪われていると告げられたらしい。
貴族の子は処刑できないからと何年も幽閉されていた。
『ごめんねエルダ……僕が王さまになったら出してあげるから』
そんなある日、隣国からドラゴンに乗った王子が旅に来て私の魔力に気がつくと城から出してくれた。
そして私は国を捨て、魔法学園へ通っている。
「おはようございます」
「今日の試験を終えれば卒業ねエッタちゃん!」
担任のオル=パルワー先生は三年間、とても優しかったなあ。
「エッタちゃんは問題を起こさないしちゃんと真面目に授業を聞くいい生徒だったわ……」
「先生、試験って個人個人でランダムなんですよね」
「ええ、このペンを両手で持つと紙に試験内容を書いてくれるの」
さっそく私はペンを両手で持つ。すると自動でスラスラと紙に綴られる。
「天空の魔王ドグアオルラを倒すべし?」
「ええ!?」
天空の魔王といえば、天空に浮かぶ大都市惑星ジュグの上でティアラのようなトゲトゲした城住む恐ろしいと存在だ。
「エッタちゃんはまじめで優秀な生徒、きっとできるわ大丈夫よ頑張って!」
■
浮遊魔法で天空までやって来た。そして戦いなど滅多に起きず油断しきってガラ空きのペラペラな警備の城まで乗り込む。
「ままま魔王ドグアオルラ!この勇者エッタに倒されなさい!」
「久々のお客さんですよ魔王様あああ!」
ダークエルフの銀髪褐色青年は叫ぶ。
「なんだって!?」
魔王は手を叩く、初っぱなから魔法使いのみのラスボスバトルが始まるようだ。
「ささ、この椅子にどうぞ」
「あ、どうも」
用意された華奢な椅子にこしかける。
「今朝焼いたクッキーと、ミノタウロシュのミルクたっぷりのカフェオレです」
「わーおいしそ……って違うでしょー!!」
「うん、やっぱりクッキー紅茶だよな、カフェオレはパンだよ」
魔王はカップにティーを注いだら。
「魔王、私は卒業試験で貴方を倒しに来たの!」
「おかしいな。まだ俺は世界征服とか人質幽閉とか人拐いとか村焼いたりしてないんだが」
「村焼いたり人質幽閉とか気に入った娘を拐って民を強いたげるのは人間のほうが早いですよね」
確かに事実っちゃ事実だけど、こんなやる気ない上無害な相手に戦いを挑んでいいのかしら。
でも卒業試験の為だからやっぱり倒さないといけない。
「困ったわ、貴方いい人って感じだから倒せないわ」
「いい人っぽい。それだけが取り柄だからね」
「というか魔王なのにそこらの兄ちゃん並みに弱そう」
「君はまじめで勤勉そうだ」
「世の中には自由に歩きまわれない人がいるんだから、有りがたくも自由に歩ける私は勤勉で結構!」
「あ、そこ久々の来客だからいまワックスかけたばかり……」
私はツルツルの床で転けて、そのまま傾斜を滑る。
「きゃああああ!!」
風が吹く上空、咄嗟にホウキをぶん投げて入り口につかまる。
「大丈夫かい?」
風の抵抗など無視した魔王にあっさり手を引っ張られる。
「ありがとう……」
倒しにきたというのに、なんていい奴。いやいや、このくらい普通なんだからコロッと騙されたりしないわ。
「ホウキで飛べばよかったんじゃないかな?」
「あ」