傲慢姫はルールを塗り替える 共通① 謙譲
完璧なアートこそ求められるキャンバリテ王国の庭。
そこに煌めく柔らかなクリームイエローの髪、ホワイトより白い肌
レースのリボンにフリルだらけで、ふんだんに宝石を散りばめたドレス。
それを絵の具で汚しても気にしない、可憐で大雑把なお姫様、アルファナモールがいた。
「ルンルーン」
左手に絵筆を持った姫は、キャンバスに絵の具をぶちまける。
「今日も素敵な絵が出来たわ!!」
今日も信じられないほどアヴァンギャルドな絵が完成した。
家臣達は苦笑い。
「王家の方は皆、左利きで絵が上手いと聞き及んだのですが、前衛的ですね」
勇気ある賢者が嫌味をいう。
「語弊があるわね、私の場合、右利きだから絵だけは教えてくれたお父様が左利きのためよ」
前衛的という言葉に隠された意味に気がつかないアルファナモールは機嫌よく賢者に語る。
「アモル」
“アモル”はアルファナモールの愛称であり、呼ぶのは家族や親しい者だけである。
「お父様!」
アルファナモールはキャンバスに近づく国王を制す。
国王は娘の描いた絵を見て目を血走らせた。
「はあ…お前の絵心にはほとほと呆れた」
「…決められた線を描くなんてつまらないんだもの」
眉をよせむくれ、頬をふくらませるアルファナモール。
「しかたない…我が娘、キャンバリテ王国・王女アルファナモールよ!!修行の旅に出るのだ!!」
こうして、アルファナモールは強制的に城を追い出された。
「うわああああん」
ヴァイオレットブラックの空、ダークグリーンの木におおわれたおぞましい森。
若干12の少女、アルファナモールは泣き叫ぶ。
「自由に描けないなら絵なんて大きらいよ!!」
ザワリと揺れる木々、なにかが出そうな雰囲気アルファナモールは怯える。
「ウマソウニオイスル」
いきなり現れた巨大な木の化け物は、彼女の背後に迫る。
「カーマインより赤く燃え盛りし炎にいだかれし、悪に染まる大樹の精よ黒き墨へと還れ!」
彼女を救ったのは、丈に合わない剣を背負った16程の少年。
「助けてくれて、ありがとう!(なんて格好いいの!!それにあんな大きな化け物を一瞬で燃やしちゃうなんて何者かしら)
貴方のお名前は?」
「ただの冒険者・ブロンジュです」
「私キャンバリテの王女なの
よかったら護衛を頼めないかしら(丁度いい機会だものね)」
「団体行動は苦手で、俺には貴女の警護は勤まりませんよ」
アルファナモールの頼みはあっさり断られた。
「そんな…(レベル1でこんなところ歩いたら消えちゃうじゃう!)」
アルファナモールはエンカウントしないようにじっとうずくまる。
しばらくして遠くから足音が聞こえる。
「大丈夫かぁ?」
「フン、だらしない…」
「やっほー姫サマ」
足音の主である男三人が連れだってアルファナモールを囲む。
三人組の持つ灯りはアルファナモールのランプより明るいため、姿だけでなく色も見えた。
奥の中心にいるのはレジェンドの剣を腰に下げたブロンズの髪の勇者。
右側はパープルの帽子とコート姿でミステリアスな雰囲気のウィザード。
手前の左側には薄着で軟派な男の踊り子。
「あなたたち勇者にウィザードに踊り子よね
どうしてここに?(冒険者のわりにイカツさがなくて皆格好いい
けど彼等私が姫だってよくわかったわね)」
「あー事前に王様に依頼されてたんだけど遅くなってゴメーン」
「お邪魔だったみたいだからな」
「フン…馬鹿め、夜道だというのにフラフラ彷徨くな」
一人は自分のせいだと、もう一人はアルファナモールのせいだと、残りはアルファナモールを助けた冒険者との会話のことで三人とも言っていることがバラバラだ。
「とりあえず自己紹介から、オレはミラン」
「アヴァンだ」
「アールペイン」
「オレ達は姫の絵が上手くなるようにサポートするんだよ~」
「絵の修行が化け物との戦いか、変な話だな」
「一体どんなひどい絵なのか見せてもらおうか」
アルファナモールは噛み合わない三人の問いかけに一言で答えた。
「ほんとよね!!」
アルファナモールはキャンバスをとりだし、やはり前衛的な絵を披露する。
「あっはっはっはっ」
「これはひどい」
踊り子とウィザードは彼女の絵を笑う。
「俺は嫌いじゃない」
「らしくないことを言うなアヴァン」
アルファナモールはなぜ、自分の絵が褒められたのかわからないながらも、嬉しい感想を貰い照れる。
「姫サマはどんなことを考えてこの絵を描いたの?」
「何も考えないわフリーダムよ!」
「自由か…」
ミランにはアルファナモールの言葉が琴線に触れたようで、目を閉じ考えはじめた。
「キャンバリテの完璧主義は私に合わないのよね」
「それには概ね同意する」
アールペインは口の端をギリリと歪める。
まるでキャンバリテ王国が気に入らないと言いたそうな素振りだった。
「じゃ、明日から冒険に行こうか」
(彼等はお金を詰んだから仲間なのよね…
あの冒険者を仲間にするにはやっぱりお金なのかしら)
アルファナモールは先程の冒険者の事を考える。
(どうしたらあの冒険者は私と一緒に来てくれるのかしらね…)
アルファナモールは冒険者に一目惚れしたようで、助けられたときを思い出し、一人で騒いでいる。
「じゃあ、夜が明けたらねー」
三人はアルファナモールがおかしいことについて、何も言わず雑魚寝する。
彼女は自然と眠りに落ちるまでしばらく一喜一憂したのだった。