西北の敗戦姫 共通①暴食と節制
『だれか助けて!!』
蜂蜜の取れる木が、侵略してきた兵士に焼かれる。
すぐそこまで火の手が迫り、幼い少女の足では逃げることは敵わない。
『ならば、俺の娘になるか?』
――あなたは誰なの?
「おい、朝だぞハチ子」
私が焼ける森を走って助けられるところで目覚めた。
いい夢ではないが、暖かく幸せな気持ちになる。
続きはいつも、我が義兄のハルニオに邪魔される。
「なによハチ男お兄様、私にはリリトカヤっていうお父様がつけてくださった立派な名前があるのに!」
私達は生まれた人間の国が蜂蜜を育てていた領地ハニカムランドのティスクレスという町の出。
「こんなのいつものことだろう。そう怒るな」
だから、自身らを蜂と称することが多々ある。兄の場合は単に貶しているだけだろう。
「怒るのは私の見ていたいい夢の邪魔したからでしょ!」
「知るか、もう朝食の時間だ」
――しかし偶然であっても悪意あるタイミングだわ。
「おはようございます。いい朝ですね父上」
今は真夜中だが、兄いわく我々にとっては人間の夜が朝らしい。
「ああ、良い夜空だ」
人間を嫌う過激派の魔王デガールオンに私達は平伏する。
「あの?」
いつもスカしたハルニオが間抜けな顔をしている。
「いくらなんでも朝は朝、夜は夜でなければややこしいだろう」
天然なのか素なのか、おそれ多くてたずねられない。
「では私は食事をしてくる。お前達も好きに食うがよい」
「は」
魔王は人間を喰らう印象があるが、人間を嫌うデガールオンはむしろ魔族を食べる。
なぜ嫌いな人間を喰らわないのかたずねると、芋虫を嫌う奴がそれを食べるのと同じだと返された。
たしかにそうだが、そんなに嫌う人族である私をなぜ娘にしたのだろう?




