筒の使い方
二話連続投稿、一話目です
「五神の勇者様は二ヶ月の間はここで暮らすことになります。その間に各武器の取り扱い方と魔物やこの世界の常識について学んでいただきます。もう、夜も更けてまいりましたので、詳しい話はまた明日にでも」
そう言ってニコユルは部屋の隅に移動すると、奥の引き戸を開けた。そこは収納スペースのようで、一枚の板で上下に分かれた押入れにそっくりだった。
下の段から毛布と呼ぶには、はばかれる、ぼろ布を三枚取り出し、そのうちの二枚を俺に差し出す。
「これをお使いください。私は下の段に寝ますので、上の段をどうぞ」
くっ、この状況で俺にぼろ布を二枚差し出してくれるのか。愛想の悪い女性だと思っていたが、実は優しい人なのだな。
押入れで寝ないといけないことに関しては、もう突っ込む気も起らない。あれだ、いきなり魔物がいる草原に飛ばされ、住むところもなく野宿で危険に晒される状況に比べたら、ヌルゲーだよな。そう思い込もう。
「この学生服って結構温かいし、ほら俺って余計な脂肪という断熱材があるから。毛布はニコユルが使ってくれ」
「で、でも、宜しいのですか?」
見るからに断熱性なさそうな法衣だからな。遠慮なく使ってもらおう。
「ああ。使ってくれ」
「で、では、二枚お借りします。一枚だけでも使ってください」
「うん、ありがとう。じゃあ、一枚は遠慮なく」
はにかむように微笑む彼女の横顔を見て、少し和んだ。可愛い顔して笑うんだな。
ニコユルは毛布を二枚下の段に引き、もう一枚を上の段に敷いてくれた。
「さて、さっきは明日と申しましたが、やはり神から与えられし武器、筒の扱い方を説明しておきましょうか。決して空腹を紛らわす為に、おしゃべりをしようという訳ではありません」
さっきから、キュルキュル音がしていたのは彼女の腹の音だったのか。風の吹く音かと思っていたよ。何処まで悲惨な生活をしているんだ。
「確か、ポケットに……おっ、あった。飴玉で悪いんだが食べるか?」
「おおおっ! 糖分ですか! 何日ぶりでしょう!」
身を乗り出して手を握られた。そこまで感動されると若干引く。
取り敢えず苺ミルク味を渡すと、一度祈りを捧げてから飴玉を口に放り込み、至福の笑みを浮かべている。やっぱり、笑った顔はかなり可愛い。見た目に無頓着なのだろうが、少しオシャレに気を使ったら化けそうだな。
まあ、俺は無理をせずに、素朴な感じがする方が好みだったりするが。
「はああっ、美味しかったです! では、ええと、何の話でしたか?」
「この筒の扱い方を教えてくれるって話だな」
「そうでした。では、まず神の武器はそれぞれの神によって異なります。
怒りと戦いの神 ゴクダ 武器は槌
哀しみと慈愛の神 ニムヂ 武器は杭
喜びと豊穣の神 ハエシケ 武器は鎌
楽しみと遊戯の神 ガリケ 武器は弩
趣味と住居の神 イクチ 武器は筒
となっています。そして与えられた武器にちなんだ勇者の名となります。弐鋲様は筒の勇者というわけです」
「これって筒というより……俺たちの世界では銃と呼ばれているけど」
「そうらしいですね。召喚された方は皆そう言っていますが、私たちの国では筒と呼ばれています」
まあ、世界が違えば名称も異なるか……今更だが言葉が普通に通じているな。質問してもいいけど、通じているならそれでいいか。この武器の扱い方を知りたいという欲求の方が優先されるべきだ。
「この武器の正式名称はハーレムヒートと申します」
「ハーレムヒート……ね」
一瞬カッコいいと思いかけたが、ハーレムにヒートって、いや、これは異世界の言葉では別の意味合いがあるのかもしれない。
「ハーレムヒートは六発の弾が込められるようになっていまして、撃鉄を上げて、引き金を引くと弾が飛び出します」
うん、知っている。そこは普通の拳銃と一緒なのか。その方がわかりやすくていい。
「弾が無いようだけど、それは貰えるのかな」
「え、えーと、それはまた後で詳しく説明します」
言い淀んだよな今。露骨に視線を逸らしたし、何か言えない訳でもあるのだろうか。
「それでですね、神から与えられた五つの武器は全て成長する武器です。敵を倒すと相手の生命力を吸い取り、徐々に強化されていきます。強い敵であればある程、大きく成長するのですが、あまり無茶はなさらないようにお願いします」
「了解。初めは地道にいくことにするよ。俺も命は惜しいし」
強大な敵を倒して一気に強くなるという展開に惹かれはするが、ここはゲームじゃないんだ、命大事を座右の銘にして頑張ろう。
「人も同じく倒した相手から命の力を貰い受け強くなりますので、武器も同様だと思っていただけると、わかりやすいかもしれません。弐鋲様の世界で言うところの、レベルアップで強くなるといった感じです」
わかりやすいな、確かに。何度も日本人を召喚しているだけあって、ある程度は日本の知識があるので話が理解しやすくてありがたい。
「それで、ハーレムヒートの能力なのですが、この証明書をご覧ください」
おもむろに胸元に手を入れ、一枚のカードを取り出した。法衣に内ポケットでもあったのか。それは黒いクレジットカードの様にしか見えないが。
「巫女である私と勇者様のどちらかにしか扱えない仕様となっています。証明書を掴んで『ハーレムヒート、能力開示』と唱えてください。慣れてきたら声に出さなくても大丈夫ですが、初めの内は口に出した方がやりやすいと思います」
「やってみるよ。ハーレムヒート、能力開示」
何もない虚空に文字と数字の羅列が浮かび上がった。おおっ、ファンタジーというよりSFみたいだ。ええと、何々――
ハーレムヒート レベル1
射程 1
弾速 1
命中 1
威力 1
弾丸 0
居住性 1
益々ゲームっぽいな。レベル1というのは全く使ってないので当たり前か。
射程、威力、命中、弾丸はそのままだろう。ただ、1というのがどの程度なのかわからない。
でだ、問題はこの『居住性』という文字だ。拳銃の能力項目に全く必要のない項目だよなこれ。
「この居住性って何?」
「えっと、それも後回しで」
「……じゃあ、射程1ってどの程度の距離なんだ?」
「んーと、そちらの世界の単位で1メートルぐらいです」
あれ、今、何かおかしなことを聞いた気がする。拳銃の飛距離が1メートル何てことあるわけが……何故、目を逸らすどころか体ごと横を向く。
「なあ、飛び道具の飛距離が1メートルって剣振り回した方が良くない?」
「だ、大丈夫ですよ。すぐに成長しますから!」
「お、おう。なら、弾速1ってのは」
「一秒で1メートル進むということです」
ん? それってつまり時速だと……3.6kmっておい! どんだけ鈍足なんだよ。
思わずじろりと睨んでしまったが、ニコユルは横を向いたまま冷汗をだらだら流している。
「命中は?」
「百発撃ったら一発当たるかどうかですかね……」
「威力は?」
「大人の男性が殴りかかったぐらいでしょうか」
飛ばない、鈍い、当たらない、成人男性のパンチ力程度。
「殴った方が速くないか」
「せ、成長しますから。ぐんぐん伸びますから!」
この焦りよう、ひじょおおおおうに胡散臭い。
さっきから挙動不審だし、汗の量が半端ないんですが。
「弾丸が0ってなっているけど、弾は貰えるのか?」
「い、いえ、それがちょっと特殊でして。普通の弾は使えないのです、特殊な弾丸を使用します。それは容易に与えられる物ではなくてですね、ええと、その……人間を弾丸にします」
「人間……え、人間って人だよな? えっ、えっ、どういうことだ、流石に聞き捨てならない」
まさか、人を殺してその魂を弾にするとか言い出さないだろうな。もしそうなら、俺は勇者になんてなる気はないぞ。
「そ、そんな怖い顔をなさらないでください。人を殺すとか、そういう意味ではありません。自ら弾丸になることを選んだ人間のみが、弾となることになるのです。初めの弾は――私になります」
「ちょっと待て! いや、弾になるって何だ。つまり、自ら弾になることを選ぶと、身体が弾に変化して人間ではなくなるって……ことなのか?」
そうだとしたら、人の命を奪って弾にすることと何が違うというのか。そんな非道な真似をさせる気も、する気もない!
「え、いや、違いますよ。あ、そういう風に聞こえましたか」
えっ、あっけらかんと返した。嘘を言っているという感じじゃないな。悲壮さが微塵もないぞ。
「えっとですね、その後の居住性にも絡んでくるのですが、弾の中が居住空間になっていまして、弾になることを選んだ人は、弾の中に住むことが可能になるのです」
「えっ? 何を言っているのかわからないのだけど……」
「弾丸の中は特殊な空間になっていまして、10㎡ぐらいの部屋になっているそうです。出入りは自由ですが、ハーレムヒートから100メートル以上は離れられなくなります」
「つまり、弾丸になることを選んだ人は六畳ぐらいの部屋を与えられるけど、それが弾丸の中ってこと?」
「そういうことです。居住性のレベルを上げることにより家具や設備が増え、住みやすくなります。これぞ、趣味と住居の神イクチ様のお力です」
俺のシリアスシーンを返してくれませんかね。弾丸に住むって何だ。想像の斜め上を行きすぎだろ。あ、いや、まだだ。弾に住むということは発射されたら二度と戻ってこられない――
「ちなみに、射程距離を越えるか、弾丸の中の人が戻りたいと願えば、弾倉に転移されて戻りますので、ご安心ください。あと弾は破壊不可能な物質ですので、壊される心配もありません」
「デメリットは100メートル以上離れられないぐらいなのか」
「そうですね。ですが、四六時中傍にいるということですから、親しくもない人は受け入れがたいことだと思われます」
確かにそれはそうか。部屋は用意するから危険な度に同行してくれ、と言われてOKする人はそうはいないだろうな。
「それに、この世界では筒の勇者は嫌われていますので、大半の人が拒絶されるかと」
そうだった。筒の勇者は世界中の嫌われ者だ。普通の交渉では弾丸になることを受け入れる人はいないと思った方が良い。
「それとですね。弾丸には種類がありまして、住んでいる人の能力に左右されるのです。火の適性が高い人は火属性の弾丸。水の適性が高い人は水属性の弾丸といった感じです」
「弾丸が六つあるということは、出来るだけ違う属性の仲間を得る方がいいってことになるのか」
「そうですね。この世界には魔術が存在していまして属性が七つに分かれています。火、水、風、土、精霊、光、闇です。ちなみに私は光魔法を操れますので光属性ですね」
ゲームや小説で見かけたことのある属性だな。ニコユルが光属性というのが正直意外だったが、光属性と言えば魔物に強いというのが定番中の定番、期待は大だ。
というか、ハーレムヒートの性能が低すぎるから、それぐらいは期待しても罰は当たらない。
「それとハーレムヒートとの適性もありますので、相性の悪い人はどう足掻いても弾丸にはなれません」
いざとなったら弾丸になってもらう人を、金で雇うことも視野に入れていたのだが、無理っぽいなこれは。
「ハーレムヒートの説明はこれで大丈夫でしょうか?」
「うーん。訊きたいことが思いついたら、随時質問するということで構わないかな」
「はい、いつでも質問してください」
神の武器については、使用後にまた聞けばいいだろう。あと、気になることと言えば――
「そういや俺のレベルアップというか能力なんだけど、魔法とか使えたりするのかな」
「いえ、残念ながら選ばれし勇者は神の武器の力を引き出すことは可能ですが、魔術が一切使えません。ちなみにラッスクデ王国では魔法ではなく魔術と呼んでいます」
そうなのか……魔法、じゃない魔術には結構期待していたのだが、属性の弾丸が使えるから、それで納得しておこう。
「魔術ではありませんが、特別な力に一つ目覚めている筈です。魂叫と呼ばれる力に」
その期待できそうな単語に、俺の耳がピクリと動いた。