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異世界弾丸ハーレム ~最良物件は弾丸の中に~  作者: 昼熊


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19/20

召喚

「何だ、何だ!?」


 取り乱している兵士に構っている状況じゃないな。逃げるとしたら両脇の通路だが、左はあの召喚された転移陣のあった場所だから行き止まり、となるとゾンビが現れた通路はどうなっているんだ。


「ニコユル、あっちの通路は何処に繋がっている!」


(あちらは兵士たちの控室……でしょうか?)


 ごめん、そういや嫌われていたから城の内部あんまり知らなかったんだったな。オハイとキリサは離れすぎている。一か八かあの通路に跳び込むか。


「涙、シンリン弾丸に戻れ、急いで!」


 二人は異様な状況を瞬時に理解して、即座に弾丸に戻ってくれた。


「ぎるぐあいふるうううくおりあいごうううしくるむひあうろぢぃぃぃぃぃぃ」


 地の底から響いいてくるような奇声が皮膚、肉、内臓を震え上がらせる。

 全身が体のあらゆる箇所が、自分の意思に反して小刻みに震えている。声の主が何かはわかる、おそらく楽天が呼び出した生物だろう。

 運良く俺はそいつを視界に納めていない。だが、周りの兵士たちはそいつを目撃してしまったらしく、口をあんぐりと開け放心状態に陥っている。

 涙と涎を垂れ流し、意味不明な言葉を呟いている兵士も少なくはない。

 声だけで震えが止まらない状況で、そいつを見る気には到底なれない。後ろを振り向かずに通路に突っ込むしかないか。


(ね、ねえ、今凄い声したんだけどっ!)


(何、何、何、何……)


「気にすんな。凄まじく気持ち悪い化け物が吠えただけだ。見たら、失禁確実なレベルのな」


 こう言っておけば間違えてもテレビを付けることは無いだろう。

 不快な音が充満した謁見の間に立ち尽くす兵士の間を抜け、通路を目指し全力で駆ける。


「あれー。弐鋲君つれないな。ほら、今私は全裸でポールダンスしているよ! ああ、触手が変なところに、らめえええぇ」


 そんなあからさまな誘惑に誰が引っ掛かるか……ちょっとだけ見てみたい気もするが、絶対嘘だよな。嘘だよな?


(ビョウ、変なこと考えてない?)


(エロの権化……)


 誰がだ。健全な若者なら誰でも興味を抱くことだろ。


(弐鋲様、この状況で余裕がありますね)


「驚いたり怯えたところで良いことなんて何もないからな!」


 軽口を叩けるぐらいの余裕がなければ思考すらままならなくなる。これが独りぼっちなら恐怖で委縮したかもしれないが、弾丸の中には守るべき者がいるからな。

 残り数歩で扉に辿り着く。扉近くにキリサとオハイが放心状態で佇んでいるから、何とか回収してやりたい。兵士たちに思い入れは皆無なので放置確定だが。

 並んでソレを凝視している巫女に手が届く直前、額から矢を生やし、目の前で膝から崩れ落ちる。伸ばした手は虚しく何もない空間を握りしめただけだった。


 あっさりと、いとも簡単に人の命が目の前で消える。声が出そうになったが、懸命に耐える。今、口に出せば弾丸の中にいる幼馴染の二人に伝わってしまう。

 一ヶ月にも満たない期間だったが、寝食を共にしてきた存在である巫女の死を今は知らせない方が良い。

 射抜いたのは間違いなく楽天だ。魅了に加え冥界の生物も呼び出せ、更に神の武器である弩を扱える。どこぞのチートキャラかお前は。

 このままでは俺も射殺されるのを待つだけ。だが、楽天を見るということは、その近くにいる化け物も視界に入れなければならない。

 それは避けたい。となると、見ずに相手の動きを察するにはこれしかない。目を閉じて意識を集中した。そして、前回と真逆で気の探索範囲を広げるのではなく、範囲を絞り気の動きだけを鮮明に感じ取る。


 白い世界に山のように巨大な黒炎が立ち昇っている。輪郭しか知り得ないが、それは蛸の頭部にワニのような口。ぼてっと腹が膨らんだ中年太りのような体型、なのだが腕と足が異様なまでに太い。

 指は蛸の足……いや蛇なのか。先端が二つに割れている。足はよく見ると太股が異様に発達していて四本ある。

 化け物以外の何でもない姿をしているようだが輪郭だけでこれだ。相手の姿を肉眼で目の当たりにしていたら、俺も兵士たちと同じように我を失っていた可能性が高い。

 その傍に突っ立っているのが楽天だよな。兵士たちの気と少し色合いが違うのが気になるが、今それは重要じゃない。


 これで相手の動きを察知できる。無機物である矢を感じることはできないが、俺に狙いを定めているかどうかぐらいの判断は……あれ、弩が光っているぞ。それもやけに眩しい。んんっ? ハーレムヒートも白銀の光を放っている。

 神の武器も気を纏っているのか。となると、もしかして発射された矢にも。

 キリサとオハイが倒れている付近に集中すると、額に突き刺さっている矢にも光が残留していた。これは――

 背後から迫りくる一条の光を察知して、俺は軽く横に跳ぶ。自分がさっきまでいた地面に深々と矢が突き刺さっている。普通なら完全に死角だったのだが、自分を中心に気を探ることにより全方向を警戒することが可能となった。


「あれっ? 今完全に捉えたと思ったのに」


「運が良かっただけだよ」


 振り返ることなくそう告げる。格好をつけているわけではなく、目を閉じていることを悟られないようにしているだけだ。


「ふーーん、えいっとうっ」


 今度は続けざまに三発撃ち込んできたか。地面を転がるようにして避け、片膝を突いた状態で左脇の下から銃口を覗かせて、楽天を狙い撃つ。

 運よく近くに着弾すればいい程度の気持ちで撃ったのだが、あっ、デカいのに当たった。


「ぼぶじゅるぐびょはむるぅ」


 あれは化け物の悲鳴なのだろうか、足元から不快感がせり上がってくる。どの程度のダメージかはわからないが、少しは効いているということか。

 意外と時間を掛ければ倒せるかもしれないが――。

 大扉の歪み具合が酷く、打ち破られるのは時間の問題。

兵士たちの何人かは動けないところを、蛇のような指に巻き付かれ、ぱっくりと開いた頭頂部に放り込まれていく。


「やめろおおおっ!」


「誰か、誰かっ! 助けて、助けてくれっ!」


 悲鳴と咀嚼音が混ざり不協和音を生み出している。その音で数人が正気を取り戻したようで、果敢にも化け物に挑んでいるがあっさりと返り討ちに合っている。

 化け物の攻撃手段は蛇の指を伸ばすか、どうやってかは不明だが体液のような物を飛ばしているようだ。大人一人を丸呑みできる大きさの球が、辺りに撒き散らかされてっ、こっちに来た!

 速度はそれ程ではないが、球が巨大過ぎて余裕を持って避けなければならない。

 全力で大理石の床を蹴り、柔道の受け身の要領で躱す。どんっと腹に響くような重低音がしたということは、壁にぶつかったのか。続いて二度、重量のある何かが倒れる音が鼓膜を揺さぶる。

 その瞬間、嫌な予感が頭を過ぎり、薄く目を開いた。


 あー……やってくれたな。退避コースに選んでいた通路に繋がる扉の前に、円柱が二本横倒しになり通行禁止となった。

 これで逃げ道が消滅した。転移陣のある部屋で籠城した場合、あの化け物は入ってこれないが、今にも扉を吹き飛ばしそうな魔王軍が流れ込んでくるだけの話。理想的な袋の鼠状態だ。

 考えろ、考えろ。逃げ道がないなら敵を倒すというのが理想的だが、自分の実力は把握している。奇跡でも起こらない限り無理だろう。


 逃げ道はこの世界に強制召喚された転移陣の部屋へ繋がる通路。あそこは窓もなかったから、通路から脱出することは不可能。

 謁見の間は天井が異様に高く、遥か高みに窓が設置されているが、そこまで行く術がない。10メートル以上跳ぶことが可能なら話は違ってくるが。

 道が無いなら……作るしかないか。気と音を探り、対象の人物に目星をつけた。誰よりも気が大きく、何かを頻繁に飛ばしている個体。

 どうやら、魔法も気として感じ取れるようで、さっきから途切れることのない魔術攻撃を放っているログナライの爺さんらしき人物。その傍に走り寄った。


「爺さん、質問いいか?」


「今、手が離せんのがわからんのか。下らん話じゃったら雷を落とすぞ」


「狩場に転移したあの魔法陣みたいなのを爺さんならこの場に作れないか」


「ふむ、可能ではあるが、あれは複雑な術式の組み立てをせねばならぬから、集中力と時間を必要としてのう、片手間でやれるもんではない」


 俺が何を望んでいるのか瞬時に察したようで、即座に断られてしまった。だが、ここで引いては死を待つだけだ。


「場所を選ばず、持続時間も減らし、運べる人数も削ったら、どれぐらいでやれる。時間稼ぎは俺が担当するという前提で」


 爺さんが目を細めて俺の顔を見つめている。馬鹿にしているのか感心しているのか、それとも別の感情なのか、俺には判断がつかない。


「十分、いや六分でやってみせよう。ただし、発動時間は数秒、行先は何処になるかわからんぞ。魔法陣も四、五人が乗るのが精一杯じゃろう。それで構わんか?」


「ああ、それでいい。頼んだぞ爺さん」


「やれやれ、今回の筒の勇者は中々に人使いが荒いのう」


 愚痴を零してはいるが、どことなく楽しそうな口調だ。そっちは爺さんに任せて、生死を分ける時間稼ぎを始めようか。

 勝てるとは思いもしないが、時間稼ぎ程度なら何とかできる……といいな。


(弐鋲様なら、やれます! 何となくですがっ)


(状況が見えないから何とも言えないけど、ボクは信じているよ!)


(ビョウはやれる子……)


 ありがとうよ。そうだったな、俺一人の命じゃない。弾丸の中には大切な人がいる。

 一人で戦っている訳じゃない。全員の力を借りて、必ず逃げ切るぞ!


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