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無課金勢には辛い世界  作者: 安達怠惰
第一部 チュートリアル
8/31

6 ゴブ友

'15.12.6 ちょっとした矛盾点を解消しました。

 ギギギ。ギギギ。


 俺は今、子ゴブリンと遊んでいる。

 いや、遊ばれている。


 場所はイェーガーさんの家である。

 めでたく客人認定を得た俺は、連れてきた本人であるイェーガーさん宅に世話になることとなった。

 イェーガーさん宅は村の他の家と同じで藁葺き屋根の掘っ建て小屋である。中は先程まで居た族長宅に比べると狭いが、俺一人ぐらい増えても大丈夫なぐらいには余裕があった。

 ちなみに先程の老ゴブリンが族長で、この村を実質的に治めているらしい。本来なら族長とは別に村長のような存在がいるらしいのだが、現在は族長が兼務している状態らしい。

 イェーガーさんはこの村一番の狩人で、村長になるよう説得されているが、本人は現場から離れたくないと断り続けているとのこと。

 何故俺がこんなにもゴブリン村について詳しいのかと言えば、久し振りの客人に気を良くした族長があれこれ訊いてもないのに教えてくれたからである。その間、ずっと眉間に皺を寄せているような表情だった大ゴブリンが俺的には印象に残った。


 そんなこんなでイェーガーさん宅である。

 そこにはイェーガーさんの奥さんと二人の子供がいた。子供は姉弟らしいのだが、四人の背の大きさの違いは分かっても性別の違いなどは全くわからない。誰も彼も同じ顔に見えるのは俺が人間だからなのだろうか? ゴブリンも人間の違いには鈍感なのだろうか? 異種族間の認識について疑問をおぼえる俺だった。


 さて、今晩は客人を迎えて、村総出の大宴会が開かれるらしい。

 イェーガーさんは食材がまだまだ足りないと獲物を求めて出掛けていったし、奥さんは村の女衆が集まって今晩の準備をするからと、これまた村の広場に行ってしまった。

 残された人間一人と子ゴブリン二人。

 人間が珍しいらしく、最初は遠慮がちだった子ゴブリン達も、今では胡座をかいて座っている俺の周りを走り回ったり、膝に乗ってきたりと、随分馴れたご様子。俺も馴れてきたのか、子ゴブリン達が可愛くなってきたころ、小屋の戸の無い入り口付近に人影が立つのが見えた。

 大ゴブリンである。

 そのまま入り口から中を覗きこんで、

「随分ト、懐カレテイルジャナイカ、ニンゲン」

 と、少し馬鹿にしたような語調で言った後、クイッ、クイッと手招きしながら、

「少シ、話ガアル」

 と一方的に言い残して、その場を離れていった。

「サトミ、イクノカ?」

 と姉ゴブリンが訊いてきたので、「まぁ行くしかないよ」と答えると、弟ゴブリンは、ギギギ。と悲しそうな声をあげた。





 大ゴブリンは、イェーガーさん宅のすぐ脇に立って待っていた。

 俺が出てきたのを見るなり、「コッチダ」と背を向けて歩きだす。俺は黙って着いていく。


 ……。

 特に言葉を交わすでもなく行き着いた場所は、村の外れの溜め池のような場所だった。

「ココナラ、誰カ来テモ、スグ分カル」

 と久し振りに口を開いた大ゴブリンは、溜め池のほとりに腰を落とす。仕方ないので俺も若干距離をとって隣に座る。

「本当ノ、目的ハナンダ?」

 大ゴブリンは溜め池を見つめながら質問してくる。

 ……。

 俺は暫し考える。どう答えたらいいのか解らなかったからだ。

 本当の目的だって? そんなんこっちが訊きたいわ!俺は状況に流されてるだけの一般人だっての。

 無言の俺に何を思ったのか、大ゴブリンは目線を溜め池からこちらに向けて、真摯に訴えてくる。

「ドウカ、村ノ者タチニハ、手ヲ出サナイデクレ」

 そう言って頭を下げる大ゴブリン。

 大いなる誤解に基づいて行われた懇願であることが俺にはよくわかっているが、何故そんな誤解をしているのかが全くわからない。俺なんてイェーガーさんが言ってたみたいに子ゴブリンにも勝てそうにないのに。

「頭を上げてください。そもそも頭を下げるべきは僕の方ですよ。困っているところを助けてもらったのは僕の方なんですから。だから手を出すとかそんな物騒な事をやるわけ無いじゃないですか」

 とりあえず誤解を解かない訳にはいけないだろう。

「本当カ?」

「本当です」

 やっと顔を上げた大ゴブリンは、泣き出しそうな笑顔を浮かべた。



 それから大ゴブリンと幾らか言葉を交わした。

 そのうちに判明したこととして、この世界では言葉が喋れるか否かで、大きな壁があるらしい。

 そして言葉が喋れるモノ達を《トーカー》と呼ぶらしい。

 《トーカー》には、人間をはじめ、エルフやドワーフ、ゴブリンにオーガ、果てはドラゴンなど、多種多様な種族が存在する。

 それらは同じ言語を用いながらも、それぞれ独自の文字を使用しているという。

 素人考えでは面倒臭いな、と思うだけだが、当の本人達にとっては大事なアイデンティティらしい。まぁ地球では文字どころか言語すら統一できてないんだから、種族すら異なるこっちの世界が言語だけでも一緒なのは俺としては便利なのか、と理解する。

 で、同じ言語を用いているからといって仲良しか、と言えばそんなわけはなく、とりわけ人間は他の《トーカー》達から嫌われているらしい。

 その原因の一つとして、人間は自分たち以外の《トーカー》を認めていないらしい。なんでもそういう教義の宗派が幅を利かせてるらしい。全く傲慢な事であるが、宗教が絡むと人間は何処までも愚かになれるのは異世界であろうと一緒だということだろう。

 なら、なんでそんな人間を客人として迎えてくれたのか、というとゴブリンにとっては同じ《トーカー》であるというだけでその理由としてはバッチリらしい。助けてもらった俺が言うのも変だが甘過ぎだろ、ゴブリン族。

 そんななか警戒心をもっていたのが、この大ゴブリンことホブゴブリンのマルスだという。

 マルスはなんと人里まで行って冒険者として活動したこともあるらしい。田舎であれば人間もそこまで拒否反応を示さないとのこと。まぁ実際問題として周囲に他の《トーカー》達が一杯いるのに、それら全部を敵認定してたらやっていけないってことだろう。これが国の中央とかになると一変するということらしい。

 そうやって冒険者として人間とも交流のあったマルスは、人間の良いところも悪いところも見てきた訳で、他のゴブリンのように楽観的ではいられなかったらしい。

「サトミ。俺ハコノ村デ、唯一ノ、ホブゴブリン」

 だから将来、この村に住むゴブリン達の族長になることが内定しているらしい。

「族長ハ、ミンナヲ、守ルタメニイル」

 つまり、族長見習いとして皆の為に俺の事を見極めなければならなかったということらしい。

「オ前、イイヤツ」

 そうしてマルスはすっと腰布からなにかを取り出した。


 スマホである。

 ホブゴブリンがスマホを操るこの風景、かなりの違和感がある。

「オ前、俺ノトモダチ」

 そういって差し出されたスマホの画面には、文字化けしたような文字で何か書いてある。

「へっ?」

 俺の間抜けな声を聞いて、マルスは不安そうな顔をする。

「トモダチ、コウスルト聞イタ」

 そこまで聞いて俺はピーン、ときた。

 自分のスマホをポケットから取り出し、スリープを解除する。

 ホーム画面から「フレンド」を選びタップ。


 あなたにフレンドはいません


 んなこと言われなくてもわかってるちゅーねん! こちとら伊達に休日に家に篭ってスマホ弄ってないわ。

 と、んなことよりだ。

 あった!!

 無慈悲な宣告文より下、画面の下端に近い部分に何個かタップできそうな所がある。

 そこには、左から、

 「フレンドメール」

 「フレンド追加」

 「パーティー編成」

 「フレンド削除」

 と書いてある。

 早速「フレンド追加」をタップ。するとマルスが差し出したスマホの画面と同じような画面になる。そこには「相手のデバイスと背中同士を合わせてね」と書いてあった。画面の指示に従って互いのスマホを背中合わせにすると、………………。

 特に音がするわけでもなく、勝手にホーム画面に戻るスマホ。

 あれ?

 とりあえず「フレンド」をタップ。

 するとそこには、


 フレンドリスト

 ・マルス


 とあった。

文字数がまちまちですみません。

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