2 スマホ
「ステータス」
里見次郎・人間・男・20歳
スキル
なし
それだけである。
面白くもなんともない。転移に際してなんらかのテコ入れというか、ぶっちゃけチートが手に入ると勝手に思っていたが、見た感じそんなことはない。
ちょっと歩いた感じで肉体的なチートはないと考えていたため、知識面か魔法的なチートがあると思っていた。
ないわ。これないわー。
たしかここの世界は剣と魔法のファンタジーって書いてあった。
それならば、俺の読んでいた異世界転移モノだと文化的には中世ヨーロッパな感じで、魔物とか魔王とかいて冒険者やら勇者やらがいる世界ってことだ。
そんななか、ぽんと放り出された現代日本人(ゆとり)。
ムリゲーじゃね?
そういやここに飛ばされるのも機械を通してだし、神様やらにチートあげるよ。なんて言われてもない。
あれ? これってマイバイブル通用しなくね?
マイバイブルの極意その2は「自分の力を確認しよう」である。
力もなにもただの一般人である。飯はコンビニで済ませ、銃器とか武道に詳しいわけでもない。ただ少しオタク気味かなー、とか思うぐらいの一般市民である。
詰んだ。
いやまて、まだそう判断するには何もわかっちゃいない。そうだよ、マイバイブル極意の1「とにもかくにも情報収集」をきちんと行った訳ではない。諦めるのはまだ早い。
よし、そうとなればとりあえずはこのスマホを徹底的に調べてやるぜ!
「フレンド」
あなたにフレンドはいません
泣くぞ。
この前成人したばっかの大の男が涙を流すぞこのやろう。
しかし「この世界にようこそ」以来のちゃんとした文章を目にして違う意味で泣きそうである。
このまま単語ばっか羅列されていったら、やっていく自信がなくなるところだった。運営(?)側もコミュニケーションしていく気はあると思っていいのだろうか? これをコミュニケーションとするならばだが。
よし、次だ。
戻ると書かれた所をタップ。
四分割のホーム画面に戻って「ガチャ」をタップ。
すると画面上には妖精っぽい奴が出現。
吹き出しで「初回限定ガチャ」「何度でも引き直せるよ」と言っている。
おぉー。最近のゲームアプリっぽい。
ならお言葉に甘えて最上級っぽいのを狙ってみるか。
「初回限定ガチャを引く」をタップ。
画面が一瞬、真っ白になる。
そして続くところは画面中央に『散歩貯金』なる文字。その下にはレアリティだろうか、SRと金色に光輝く立体的なフォントの文字が。
画面をタップしてみると「歩くたびにお金が貯まるよ」との説明文と「これにしますか はい/いいえ」の選択肢が表れる。
ヤバい。なにそのチート。歩くだけで金貯まるとかどんなニート製造機だよ。
これか? これが俺に与えられしチートなのか?
悩む。これ以上無いほどに悩み抜いた。
ガチャの性質上、同じものを引く可能性はかなり低いと思われる。ただ、チートとしてはいまひとつというか、それで絶対にこの世界を生き抜けるか? と問われれば疑問符がつく。お金は有るに越したことはないが、平均的一般人であるところの俺としては、身の安全を確保出来るようなチートが欲しいのだ。
ということで泣く泣く「いいえ」をタップ。
するとまた画面は一瞬、真っ白になる。
次の瞬間には『火魔術』の文字が。レアリティはR。
うーん。
おそらくRはレア。SRはスーパーレアだと思われる。
レアリティ的にはSRのほうが高いと思われるので、今の時点ではさっきの選択は失敗だったようだ。
ただ、『火魔術』である。
つまり、魔法的なスキルだろう。
魔法。なんて魅惑的な響き。
表記としては「魔術」であるが。
ちょっとだけ悩んだ。
ただまぁレアリティ的に不満であるし、せっかくの無制限ガチャである。ここは情報収集も兼ねて数をこなしてみることとする。
…タップ。…タップ。…タップ。…タップ。
…タップ。…タップ。…タップ。…タップ。
…タップ。…タップ。…タップ。…タップ。
…タップ。…タップ。…タップ。…タップ。
…タップ。…タップ。…タップ。…タップ。
…タップ。…タップ。…タップ。…タップ。
…………………………………………………。
何十回、何百回と数をこなしたことで解ったこととして、ガチャで引けるものはおそらくスキルと呼ばれるモノなんだろう。そしてレアリティはRとSRの二つだけということだ。実際にはそれ以外もあるかもしれないが(少なくともNはあると思われる)、実際に出現したのはRとSRだけである。つまりこのガチャはレアリティの高いものが出るレアガチャと呼ばれるモノなんだろう。
であればレアリティは今のところSR、R、Nの三種類だと思われる。
Rには『火魔術』をはじめ、『水魔術』、『土魔術』と各種属性魔術。『再生』、『怪力』などなど。
SRには『散歩貯金』をはじめ、『神罰』、『予知』、『花より団子』などなど。
どちらかと言えば、より実践的なのはRの方である。SRはどれも素晴らしい能力ばかりだったが使い所が難しかったり、身を守るという点では相応しくなかったりと、決め手に欠けるものばかりであった。
ここでレアリティ至上主義を返上した方がいいかもしれない。
なんて考えながらも右手の親指は画面をタップし続ける。比率的には9:1ぐらいでR:SRである。Rでは何回か同じものが出てきたし、そろそろ決め時かな、と思ったときスマホが今までとは違う反応をした。
画面が一瞬、真っ白になる。これはいつもの通り。ただ次の瞬間、画面から淡い緑色の光が迸る。
目を瞑るほどではない光がおさまったとき、画面中央には『技能神の加護』の文字が。レアリティはEX。
これはまさか?
きたか? きちゃったか?
画面をもう一度タップ。
すると「技能神から加護があたえられるよ」との説明文。
いまいち説明が意味を成しちゃいないが、そんな些細なことはどうでもいい。
これまでに一度も出ていないレアリティEX。それも神様の加護である。これはかなりチート感がある。
どうする? 決めちゃうか? 決めちゃうのかい? どっちなんだい?
決~めた。
ということで、説明文と共にでていた「これにしますか」との問いに「はい」を選択。
するとどうでしょう。
……。
…………。
特に何も変化なし。
あえて言うなら画面がホーム画面に戻っただけである。
あれ?
あれれ?
あれれれれ?