1 異世界転移…だよな?
生温い風が通り抜ける。
それに合わせて草原が波打つ。
手元にはスマホ。
落とした拍子に傷でもついていないかと確認したところ、重大な事実が判明した。
これ、俺のじゃない!!?
外見は同一の物だと思われるが、スマホの背にまったく見覚えのないマークが描いてある。
神社の鳥居に似たそのマークの下には、見たこともない文字らしきものが書いてある。
メーカーの名前かなんかだろうか?
さて、なぜ異世界へと飛ばされているのか?
おそらくなにかの拍子にあの赤いボタンを触ってしまったのだろう。
それでスマホが光って、異世界にようこそだ。
まじでか?
ほんとうに?
やったぁぁぁぁぁぁァァぁあァぁ!!!
誰でも一度は夢見る異世界転移。
それを俺は行なってしまったのか。
今までその手の小説やら漫画やらを多少は読んだことのある俺としては、非現実だと思いながらもどこか憧れていた。
そんな異世界転移。
異世界転移で良いんですよね? ね?
よし、そう思い込もう。
夢でもなんでもいい。今はそう思い込んで行動しよう。
そうと決まれば、まずは情報だ。
ここがどんな世界なのか。それを知るのは一番重要だ。かのネット小説発の大ベストセラー「異世界に行ったらすべき12008のこと」にも書いてある。
それも冒頭にである。
これからはこの本をバイブルとしていこう。今決めた。
ということでマイバイブルのお言葉である通りに情報を集めねばならない。
周りを見回す。
草原である。
大草原である。
見渡す限り、地平線まで広がる大草原である。
生き物の気配は感じないが、いると思って行動したほうがよさそうだ。
いきなり肉食動物に襲い掛かられる可能性もある。というか非常に高い気がする。
ヤバい。怖い。
こんな大草原のど真ん中に放置プレイとかユーザーに優しくない仕様だな。
いやいや、今は運営(?)に文句を言ってる場合じゃない。
とにかく周りをキョロキョロ。何者かが近付く気配を探りながら一歩一歩足を進める。
どこに行けばいいかなんてわかるわけもなく、とりあえず遠くに見える山々の方へと進む。
…
………
………………
疲れたな。
警戒しながら進むのがこんなにも疲れるなんて、思ってもいなかった。
この疲労感に対して、一向に近付く気配のない山々の影。
うん。休憩しよう。
いくら生命の危機であるとしても、動けないものは動けない。
それに生命の危機だからこそ、焦って行動して疲れきったところをガブリ。とならないためにも休息は必要だ。
周りを最低限警戒しながら、地面に直接座り込む。
丈の長い草が顔にちくちくと刺さるが仕方がない。背筋を伸ばせば目元は草よりも高い位置にくるので最低限の警戒はできる。
その時であった。
「うぉっ!!」
ブルリ。とスマホが震える。
驚いて声が出てしまった。少しばかり恥ずかしい。
辺りを見回し、特に変化はないことを確認してから、ズボンのポケットに入れてあったスマホを取り出す。
「この世界にようこそ」
相変わらず画面にはその一言だけ。
こっちに来る前と同じでスマホはどこをどうしてもフリーズしたままである。
あれ? 震えたよな?
もしかしてあれか? 幻想振動症候群か?
携帯が震えてると思ったらなんでもなかった、という現象か? 名前が中二病ぽかったからなんとなく覚えてるぞ。
まさか異世界でまで現代病に振り回されるとは思わなかった。
くそっ。
そのままスマホをポケットに戻そうとしたときだった。指が画面に触れる。すると今までが嘘のように画面が切り替わる。
「うぉっ!!」
興奮して声が出てしまった。少し恥ずかしい。しかしそんなことなど気にしていられない。切り替わった画面を見つめる。そこには四分割された画面。
左上には「ステータス」
右上には「フレンド」
左下には「ガチャ」
右下には「その他」
それだけの実にシンプルな画面である。
画面の上端には電池っぽいマークとアンテナっぽいマークがあるが、これは見たまんまと判断して今は良いだろう。
となると、まずはそれぞれに対して調べてみるか。
ひとまずは「ステータス」からだ。
この週末で書けるとこまで書きます。
ちなみにストックとかプロットとか一切無いので悪しからず。