剣術と魔法
翌日俺はハルトについて道場まで歩いていた。
道中ハルトはずっと俺に対して自慢話をしていた。
「ベル。パパはな、昔はこの国の王宮で兵士たちに剣術を教えていたんだよ。パパは昔、本当に強かったんだよ。1対100なんて言うのも余裕で倒していたくらいだからね。まぁ、でもそのあと、モンスターとの戦いで怪我をしてしまってね。今では小さな町の剣術道場の師範を細々とやってるただのおじさんになっちゃったんだけどね。」
後半は現状を嘆いているようなセリフだった。
俺はハルトの気持ちを察し励ましてあげた。
「僕は今のパパの方が好きだよ。だから元気出して。今日はかっこいいところを見せてね。」
ハルトは単純な性格なので今の言葉ですでにテンションMAXだった。
ちなみにベルは意識の中でハルトの自慢話を思い出しながらハルトをきらきらした目で見つめていた。
道場につくと何人かの生徒が掃除をしていた。
道場自体はそんなに汚れてはいないが、小さな町の小さな道場という感じがまるわかりの雰囲気だった。
「師範おはようございます。今日はお子さんが一緒なのですね。」
「おはよう、セバス君。今日は息子が剣術を習いたいといってきたのでな。」
ハルトと一番弟子らしいセバスと呼ばれる青年が話をし始めた。
俺はそんな二人の会話を最初は聞いていたが、そんなことよりも周りの会話が気になった。
「おい、今日の師範かなり機嫌いいな。」
「ああ、これはまずいぞ。あのテンションのまま練習の内容を決められたら今日は俺たちの命日になるぞ。」
「くそっ。誰だよ、師範のテンションをあそこまで上げたやつ。あの人は人におだてられるかよっぽどのことがないとあんなにならないからな。絶対誰かがほめたりしたんだ。」
「あの人単純だから張り切ってる時の練習は普通の日の倍の内容になる。これはやばいぞ。」
「ほんと誰だよ。もしかして肉屋のおばちゃんがまたほめたりしたのかな。」
ごめんなさい。それ俺ですわ。
あの人がハイテンションだとそんなに問題なのか。
これは失敗したな。今日から俺も練習に参加するのにいきなりきついのとかマジ勘弁。
「よし。じゃあ、今日の訓練を始めるぞー」
それから始まったのは剣術道場のはずなのにどこかの自衛隊の訓練みたいなことだった。
後で聞いてみたら、すべてにおいて重要なことは体力だとか言われた。
最初に1時間走り込みをした後、筋トレを行い、また今度はおもりをつけてまた走る。
俺は亀の甲羅を背負ったおじいちゃんを思い出しながらひたすら走った。
それが終わったらやっと剣術練習に入る。基本的な型を見せてもらいあとは反復練習を繰り替えすのみだった。
この練習はベルがやりたいといったため練習の間だけ人格を譲ってやることにした。
そして昼頃には体力が切れてほとんど動けなくなっていた。
午後からも同じことをやるらしくさすがのベルも今日はもう無理と嘆いている。
そんなベルを見てハルトは微笑んでいた。
「さすがにきつかったようだね。そうだこの近くにママが働いているところがあるから行ってくるといいよ。」
「わかった。行ってくるねー。」
ベルは返事をして道場から出た。
そのあと『優人兄ちゃん、さすがに疲れたから変わって』と言われたので俺はベルと交代してアリスのいる治療院をおとずれた。
こっちはどうやら人気らしく4・5人並んでいるようだった。
俺は人がいなくなるまで入口で待ち、最後の人が出ていくのを見た後、院の中に入っていった。
「あら、ベル。パパとの練習は終わったの?」
こっちに気付いたアリスが話かけてきた。
「うん。パパは午後からもやるみたいだけど、僕はまだついていけないからこっちに来た。」
その後二人で会話しながら過ごしていたが、けが人が来たので魔法を使うとこを見せてもらった。
実は小さい時から魔法の発動の瞬間を見続けていたため、目に力を入れてみるとどんな魔法を展開しているのかわかるようになっていた。
それぞれの属性で魔法を発動の瞬間に色が違って見えるのだ。
回復魔法は白い色をしていた。
アリスは俺がじっと見ているところを見て興味があると思ったのか、
「ベルは好奇心旺盛ね。そうだ。今度から暇なときは私が魔法を教えてあげようか?」
俺は満面の笑みで返事をした。
それからは客のいないときは魔法について教えてもらった。
しかし、俺は独学で勉強しているため、あまり面白い話ではなかった。
ただ俺が反応しないと不思議に思われるので、適当に反応を見せておいた。
家に帰ると、アリスは俺に魔法の本をくれた。
俺はまだ読んだことのない本がもらえると思い喜んでいたが、「初めての魔法」という本だったため、顔をひきつらせながらお礼を言った。
そして家族会議で俺は剣術と魔法の指導を一日ずつ交互にすることが決まった。
また、剣術はベルが、魔術は俺が担当することに意識の中で話し合い決定した。