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第四話 「飴と」

 最近言いなり要素が少ない。しかし、これはミレーナの作戦なのです…?

 道端に生える巨大アスパラガスみたいなものを指さす。かなりでかい。今の俺の身長が何センチぐらいかはわからないけどニメートルはありそうだ。直径も十センチはある。


「マスター、これはなんですか?」

「モートリー」


 モートリー。妙な響きだ。食べれるのだろうか。こんな大きさがあればソテーも食べごたえがありそう…。食べる必要はないけど。


 木の根元に自生する花を指さす。アフリカにいるラフレシアの小型版に近い。丁度日陰になっている場所に群集している。


「マスター、これはなんですか?」

「メンダ」


 メンダ…確かにメンダコっぽい。多分関係ないけど。恐らく固有名詞なんかは皆旧言語で付けられているんだろう。会話が日本語なのに名詞は全部妙なものばっかりだ。


 ん…?草原の奥から何かが迫ってきている。黒い点々にしか見えないが、結構な数だ。目につくもの全てが初めての経験で、本当に好奇心が止まない。あれはいったいなんだろうか。


 「マスタ」

 「ええい!やかましい!いい加減黙れ!」

 「え…でもあれ…。近づいてきますよ!」

 「ん…なっ!?防御魔法だ!」


 ハエだ。迫ってきたのは大きさ二十センチ程の巨大なハエだった!これは男?の俺でも相当きつい!


 「ちっ、”ソン・グリムエ魔法式第三章防御展開!”」

 「防御魔法、展開します」


 突如無意識に魔法を発動した。球上の力の壁が俺とミレーナを多い、ハエ達の侵入を阻む。馬鹿か俺は。まさかこんな唐突に野生生物が襲いかかってくるなんて思ってもいなかった。だからといって呆けるなんて…。ここは異世界だと何度も認識したはずなのに。


 「フラジャン共め!」


 ミレーナが杖を奮う。すると直ぐに巨大なハエ達はふらふらと動きが鈍り、地に落ちてしまった。死んでいるわけじゃなさそうだ。バタバタと三対の手足を動かし続けている。


 「こやつらはフラジャンだ。大して強くないが極たまにこうして群れを作り人を襲う。専門の線香があれば近寄ってすら来ないからな。つい忘れておった」


 ミレーナはふぅと息をつき、服を正した。線香があれば近づかないなんてますます元の世界のハエに似ているようだ。


 「身体に異常はないか?」

 「は、はい。何も問題ありません」

 「ふむ。関節に問題が生じてしまえば大事になる。必ず言うのだぞ」

 「ありがとう…ございます」


 ミレーナはどんな少女なんだろうか。アレ以降本当に優しく接してくる。決してこんな身体にしたことは許せないし、絶対にこんな拘束は解いてやると誓って思うけど…それでも彼女が純粋な悪人とは思えない。


 でも…なんだろう。ミレーナが俺を見るときの違和感は何だろう。彼女が見ているのは魔導人形アイラであって…俺じゃない、そんな気がした。


 何故彼女はあんな辺鄙な森で暮らしていたんだろう。一人で寂しくなかったんだろうか。彼女は彼女が向ける視線は時に厳しく、時に本当に慈愛に満ちている。家族はどこにいるんだろう。どれくらいあそこに住んでいるんだろう…。




 空が赤くなる一歩手前、遂に最初の町シュランカに到着した。やはり普通の人間と違うのか、俺の身体は全く疲労を感じていない。だけどそれはあくまでも俺だけであって、隣のミレーナはそれはもう息も絶え絶え、肩で息をするほどだった。


 「ようやっと着いたか…。はぁ、流石に疲れたぞ」

 「お疲れ様、です」


 町の入口付近の塀に腰掛けると、ミレーナは深くため息をつく。やはり魔女というものは体育会系ではないようだ。魔女といえば宅急便をこなす程箒を乗りこなすイメージがあるけど、どうにも彼女はそういうことが出来ないみたいだ。


 「私はここで待つ。宿を取って来い。私に野宿などさせるなよ」

 「えっ…わかりました」


 異国の地でいきなりの宿探しですと…。疲れてるのは理解できるけどそれはちょっと厳しすぎないか…。しかし断るわけにもいかない。ただでさえ今のミレーナはご機嫌斜めだ。


 シュランカは街…というには小さすぎる規模の町で、入り口から続く主街道に商人が集中し、それぞれ青空店舗だったり屋台だったりと、意外と盛んに取引が行われていた。飛び交う言葉は理解できても、見た目がどうしても日本人ばなれしているため声がかけにくい。しかもこっちは少女の姿…どこかおかしなことになっていないか不安でたまらない。まさか異世界に来てまでコミュ力を試される日が来るとは思わなかった。


 「おや、可愛い子だね。観光かい。ご両親は…メイドさんかい?若いのに大変だねぇ。どうしたんだい」


 びっくりした。突然横で靴を売っていた爺さんに声をかけられた。太い眉がハの字に広がるその笑みはどこか安心を俺に与えるものだった。助かった。このままじゃミレーナの怒りを買うところだった。話しかけてもらえばこちらとしてもありがたい。怖気づかず質問しよう。


 「あの…ぉ、私。宿を探しているんです」

 「宿ならエラのとこがいいよ。あそこの教会のすぐ近くにあるからすぐわかる。」

 「ありがとうございます!」

 「足元に気をつけるんだよ」


 教会…あの一際でかい建物か。教会というと…元の世界の宗教を想像したけど、十字架はそこには無く、雰囲気は教会のそれだけど一見しただけじゃただのデカくて白い塔だ。ああ、でもやっぱりこの世界にも宗教はあるんだな。


 俺は親切な爺さんに別れを告げ、未だなれないフリルのスカートに少し恥じらいを感じつつ町中を歩いた。見事に石造りの家ばかりだ。もしかしたら近くにある森があの異常な森しか無いから木材が貴重なのかもしれない。成る程、確かに教会の近くに一件だけ客の出入りが激しい家がある。あれが宿屋か。






 「あら、ごめんなさい。もう今日はいっぱいなのよ」

 「ええっ!?そんなぁ」

 「そろそろバライソで建国祭だから…どうしても埋まってしまうの。ごめんなさい。」


 なんてこった…。よりにもよってそんな重要そうなイベントと重なっていたなんて…。受付で告げられた言葉に俺は思考停止せざるを得なかった。どうしよう。素直に言った所でレミーナは許してはくれないだろう。あのレミーナが野宿で妥協するわけもないし、わざわざ明言していたじゃないか。


 「エラ。どうしたの?」

 「ユーリ様。宿がいっぱいになってしまって…」

 「様はやめてっていつも言ってるんだけど…。そっか、宿がないのか」


 突如、宿のテーブルから青年が話しかけてきた。十代後半のイケメンだった。蒼…という表現が似合う美しい短髪に不思議な色彩の瞳だ。流石異世界、イケメンのレベルも違う。


 青年は立ち上がるとこちらに近寄り、俺をじっと見つめてきた。なんだ?もしかして俺の格好が変なのか?………いつまで見てるんだコイツ。もしかして本当に変…?なんか、恥ずかしくなってきた…。


 「君みたいな可愛い子を野宿させるわけには行かないな。よし、エラ。僕の取った部屋はキャンセルしていてくれ」

 「いけませんユーリ様!もうこの町の宿は全部埋まってしまっていますよ!?」

 「大丈夫さ。これでも世界中を旅して回った身なんだ。それに野宿じゃない。貨物用の馬車はあるからね」

 「でも…」

 「気にしないでいいって。こんな生活ももうすぐ終わりだからさ。最後まで楽しまなくっちゃ損でしょ」


 俺を置いてトントンと話が進んでいく。え、何が起こっているんだ?この青年は何だ?なんで俺を助けてくれようとしているんだ?わからない。こんなにも親切にされたのは初めてだった。異世界に来て理不尽しかまだ感じていなかったのに。


 「あ、あの。本当に申し訳ありません」

 「いいっていいって。君もバライソに行くの?」

 「はい…。多分そうです」

 「そっか、気をつけてね。ここから馬車は出てるけど盗賊なんかはたまに出るんだ。出来るだけ大勢の商隊なんかと一緒に行くんだよ。それじゃあね」


 終始爽やかな笑顔を魅せていた青年は、俺からのお礼一つで満足したのか、笑顔そのままに颯爽と宿を出て行った。あれが、本当のイケメンって奴なのか。俺はこの時ばかりは自分の姿が可愛い女の子であることに感謝した。いや、あそこまでのイケメンなら俺が男であっても助けてくれたかもしれない。どちらにしろまた会うめぐり合わせがあるなら、いつかお礼をしたいものだ。


 「…ふぅ。それじゃ部屋一つね。でも一番いい部屋だから結構取るよ。大丈夫?」

 「えっと。マスターに聞いてみないと…」

 「ちょ、ちょっとあなた新入りメイドさん?そういうのは普通主人の地位とか加味して考えるの!わからないなんて言い返したら主人への侮辱にあたるよ」

 「あ、え、うん。わかりました?」

 「よくそれで五体満足でいられるわね…。いい主人みたいね」


 呆れた顔でエマさんが首を振る。仕事が出来ないと上司に見切られた気分だ。いや、正しく同じ状況だった。それにしてもこの世界はそんなにも侍女とかメイドの地位が低いのか。メイド服を着ていることはこの世界だとマイナスにしかならないかもしれない。元の世界なら…いやそれもちょっと違うか。








 「おお!素晴らしい部屋だ!」


 ミレーナが驚嘆を上げるのも納得、とんでもない部屋だ。小さな宿かと思ったけど、その印象は改めなきゃならない。最上階…所謂ペントハウスには豪華絢爛とは行かなくても、普段は絶対にお目にかかれない調度品の数々と、如何にも清潔にされた寝具…。王族でも泊まるのかこれ。


 「お前の力を侮っていたぞ。宿が埋まっていると小耳に挟んだが見事だ。褒めてつかわす!」

 「あ、ありがとうございます」


 実際はあの青年と爺さんとの巡り合わせによって得たものであって、自分で手に入れたものは何一つ無いけれど、ミレーナがごきげんならそれでいいか。野宿にならなくて本当に良かった。改めてありがとうイケメン君。


 「そうだな…何か良い褒美は…。欲しいものはあるか?」


 褒美。その言葉の意味を噛みしめるまで、数十秒の時間を要した。一瞬何を言っているのかわからなかった。だって俺はミレーナの言いなりだ。命令にはどちらにしろ逆らえない。それなのに褒美…。ここは素直に言ってもいいだろう。


 「その…眠れるようになりたいです」

 「眠れるように?今でも寝ているではないか」


 魔導人形の睡眠はロボットの電源を抜く行為と同じだ。ミレーナの手によって動力の魔力を抜かれ、休止状態に入る。昨夜体感したそれが俺は酷く気に入らなかった。折角触感があるなら毛布の心地よさを味わいたいし、ゆっくりと夢の世界に旅立つ感覚を味わえないのはつらすぎる。不眠症と同じだ。


 「普通の人間のように…自分自身で寝たいのです」

 「ふむ。わかった。それぐらいならなんとかしよう。すぐというわけにはいかんがな」


 こうして旅の初日はそれなりにつつがなく終わった。ミレーナは相当金を持っているらしく、宿代も問題無し。バライソまでは後八日予定だ。

ちょとした世界観説明

魔法名 レム・レクシエ

特性 魂

説明 魂に作用する魔法で、五感など様々な影響力がある。四祖と呼ばれる四人の魔法使いによって完成した魔法の一つ。習得は容易だが、全てを使いこなした者は四祖以外いないとされている。バライソはこの系統の扱いに最も長けた四祖が作り上げた都市で、純血統者にはレムの称号が与えられる。

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