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第二話 「この世界の魔法」

 皆さんブックマークありがとうございます。TS小説の中でも更にニッチなジャンルですが今後もどうぞ宜しくお願いします。

 俺とミレーナは森の中にいた。俺の前に立つミレーナは白いインクのような塗料で何かしらの陣を草木が生えていない地面に書くと、何度もその周囲を回り、漸く納得がいったのか数分ほど経ってこちらに顔を向けた。


「良いかアイラ。お前には私の知恵全てが注ぎ込まれている。その力も魔導人形としては破格のシロモノだ」

「…はい」


 アイラの言うことを反芻し、おぼろげに返事をする。もう抵抗する気力はなかった。また逆らってしまったら何をされるかわからない。アレ以上の苦痛を与えられたら…俺の中の何かが壊れるような気がしたのだ。


 決して自由になることを諦めたわけじゃない。ミレーナを恐れてビクビクと一生を過ごすなんて絶対にお断りだ。…だけど、数時間前にアレを味わった身の上では素直にミレーナの言うことを聞くほかなかった。


「両腕に意識を集中させろ。ある程度魔法式が判断するが、お前は魂を持っている。どのような誤りが起こるかわからん。なるべく意識して行動しろ」


 言われたとおりに両腕に意識を集中する。本当に細い。簡単に折れてしまいそうだ。こんな細腕で何が出来るんだろうか。


「気を抜くな。行くぞ」


 ミレーナが陣の中心に手を当てると、周囲が紫色に染まった。なんだ、これ。これが魔法…?するとその空間がまるで生き物のように動き始め、急に俺の方に飛んできた。よくわからないけどこれはマズイ!


 その時、両腕を見たこともない文字や記号が這いまわり、襲い来る空間と同じ半透明の薄紫色の壁が浮かび上がった。余りの出来事に呆けるのも束の間、ミレーネが放った空間と俺の作った壁が激突し、両腕に重圧がかかる。周囲の土が抉れ、巻き起こる爆風に森がざわめいた。


 うっ、滅茶苦茶重い。トラックに押されているかのようだ。そんな体験はしたことないけど!辛うじて踏ん張るも、このままだと攻撃が止む前にこの細腕が折れてしまいそうだ!


 爆発音にすら近い音を奏でながら、空間と壁が負けじと競り合う。次第に両腕を這う文字列が空色に明滅し始めた。これは、多分ダメなサインだ。某巨大なヒーローじゃないけど段々と力が落ちているのがわかる。だ、駄目だ。崩れる!


 壁が光の破片となって砕け散る。そしてそのまま紫色の空間が視界を支配して…


 その瞬間、ミレーナが発していた空間がピタリと止んだ。丁度自分の目の前で見事に動きを止めている。


「い、生きてる…」


 本当に死ぬかと思った。これが魔法…。想像していたものよりよっぽど不気味でよっぽど恐ろしかった。もっと分かりやすい炎とか氷とか水とかのほうがずっといい。なんだ半透明な紫色の空間って…。気持ち悪いにも程がある。


 ミレーナはこちらを見てクスクスと笑っている。ああ、限界までやったのは俺をからかってたのか…。あ、悪魔みたいな女だ…。


 「よし、防御壁は中々のものだな。初めてがこれならば上出来だろう」

 「あ…ありがとうございます」

 「うむうむ。素直のほうが愛らしいぞ」

 「え」


 思わぬ褒め言葉にぎょっとする。この少女の何を考えているんだろう。従えば優しくするということだろうか。なんというか洗脳に近い気もするが、逆にわがままな駄々っ子が当てはまるような気もする…。つかみ所のない人物だ。


「さて、次は攻撃魔法と魂魔法だ」





 攻撃魔法も防御魔法もソン・グリムエという同じ力魔法らしく、防御魔法に続いて攻撃魔法も問題なく出現させることが出来た。全く魔法の使い方が分からない俺だが、どこどこをこう攻撃する、と意識すれば勝手に身体を文字列が蠢き式を作り出す。そしていとも簡単に魔法という超常現象を巻き起こすことが出来た。


 轟音と共に自らが放った紫色のそれはミレーナが設置した防御魔法を貫いていく。子供の頃夢想したファンタジー世界のように、俺は不可思議な力を奮った。次々と魔法を操り、壁を打ち壊す…。


 俺は今、多分…いや間違いなく危機的な状況にある。自由を、帰るべき拠り所を、肉体を、名前を失った。いつ死ぬかも、いつミレーナに殺されるか…あるいは捨てられるかもわからない。


 それでも自分が魔法を使っているという現実は、俺を興奮させた。すごい。すごすぎる。自分が倒そうと思って集中すれば、触れずとも倒すことが出来る。何かが突如飛来しても自分を守り通すことが出来る。


 アホらしいと思いつつも、俺は魔法を使うこの瞬間だけ、この世界に来ることが出来たことに感謝をした。あの世界では…決して出来ないことだったから。一生胸に抱えたまま、下らない夢だと一蹴して過ごしただろうから…。





 それでも苦労したものもあった。魂魔法…レム・レクシエだ。ミレーナの血統としてはどうやらこちらに秀でているらしく、俺を…魔導人形を作った技術もこの魂魔法を使用しているらしい。


 能力としては相手の魂に揺さぶりをかけ、様々な異常を巻き起こすというものだ。高位なものは…例えばミレーナは幻覚を見せたり痛覚に異常を起こすなど精神に直接影響を及ぼす強力な魔法だ。つまり数時間ほど前のあれはこの魂魔法ということになる。


 それを聞いた俺が死に物狂いでこれをマスターしようと励んだのは、まぁ当然だった。もう二度とあんなもの味わいたくない。魂魔法を熟知すればもしかしたらミレーナの魔法に対抗できるかもしれないという幼稚な発想だった。


 冷静に考えればうまくいくはずもない…。なにせミレーナは俺の生みの親、このアイラのことならば何もかも知っているのだ。恐らくミレーナに抵抗できないよう仕組まれているだろう。何よりあの強制命令がある状態でどうしろっていうんだ。 


 「魂魔法は不満だったが、まぁ十分だろう。問題は無いも同然だな。」

 「申し訳、ありません…。」

 「何、私は別に責めてなどいない。十分だと言っているだろう。それにしても随分としおらしくなったな」


 誰のせいだ、誰の!あんなことされればどんな動物だって大人しく従順になるわ!なんてことを言えるわけもなく、俺は何も答えることが出来なかった。


 俺の魔法で凹凸が出来た地面を踏みしめ、ミレーナが近づいてくる。またあれをくらわせようというのか。それとも他にもまだ何かあるのだろうか…。特に俺は今彼女に逆らっているわけじゃない。だから問題はない筈…それでも記憶に染み付いた痛みが再起し、身体が勝手に震え始める。


 これは良くない。怯えているのだとミレーナに思われれば更なる仕打ちが待っているかもしれない。俺はなんとか平静を保とうと先ほどまでの魔法の感覚を思い出した。興奮冷めやまぬあの感覚に身を預けるんだ。意識するな…意識するな…。







 ビクリ、とミレーナが触れた瞬間俺の身体は大きく震えてしまった。どうしようもなくあの痛みを思い出してしまう。たった数時間前に行われたんだ。忘れることなんて出来るわけがない!


 そのままミレーナは俺の頬を撫でた。肩を縮めて痛みに備えるも、一向に痛みは訪れず、その撫で方は優しさに満ちているようで、なんとなく今までと違った。


 「怖がらせてしまって済まなかったなアイラ…。必要なことだったのだ。約束しよう、お前が私を困らせようと考えなければ私は決してお前に怖い思いをさせない」

 「えっ…わ、わかりました」


 …ミレーナという少女がわからない。イカれた研究者のような存在かと思えば、子を見守る母親のようでもある。どちらが本物の彼女なんだろう。彼女は間違いなく俺の元の肉体を…俺をこんな状態に貶めた魔女。でも、少しだけ、ほんの少しだけ彼女のことが気になった。今まで衝撃の連続に忘れていたが、彼女は一体何者なんだろうか。





 「アイラ、明日は早くから此処を出るぞ」

 「此処を…?」


 ミレーナは突如話を切り替えた。此処を離れるとはどういうことだろうか。そもそも、此処がどこなのかこの世界の地理がわからない俺には理解しようもない話だったのだが…。それにしてもずっとこの場所で監禁されると思っていたけれども、どうやら違うらしい。


 「そうだ。十日後に行われるバライソ魔法学会で我が研鑽の結晶たるアイラのお披露目が行われる。バライソの首都アーキホールに行くぞ」


ちょっとしたキャラ紹介


名前 ミレーナ・グレッヘン

性別 女

年齢 16

家族 父親と父方の祖母が存命

出身 魔法国家バライソ

好きなもの 魔導人形

嫌いなもの 祖母・肉類

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