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プロローグ 「魔導人形になった経緯」

 TSものです。人間の女性になるわけではないのでエロなどはありませんが苦手な方は注意して下さい。それでも構わん!という方は是非読んでいって下さい。

 大学の講義が終わる。自分で望んで入った学科だから、こんなことを思ってもいけないと考えつつも、何処か退屈だった。家族や友達と離れ離れになって、一人暮らしを始めたのも理由かもしれない。やる気や希望、夢への努力、そういうもろもろが欠け始めてきていた。


 彼女を作れ、なんて新しく出来た友達は気楽に言うけど、俺はなんだかそう言ったものとは本当に無縁で、通学路を歩きながら見るカップルの姿は遠くの世界の物事のように見えていた。そんな、夕方の帰路だった。


 あれ?なんだここは?そう思った時には、既に手遅れだった。何時の間にか見慣れた通学路が、見事なまでに鬱蒼とした森になっていた。苔むした大樹の数々はまるでファンタジーにおける禁忌の森。いくら記憶を探っても見覚えのない景色だった。さっきまで見えていたコンビニは何処へ言ったのだろう。


 「えっと、夢でも見てんのかな」


 思わず声を出して確認する。こだま…とは少し違う独特なエコーと共に、俺の呟きは緑に吸い込まれ、鳥の鳴き声ひとつない静寂が訪れる。かつてこんな経験をしたことは無かった。まるで自分だけが世界から孤立しているのかのようだ。


 「こういう時つねるってのは定番中の定番だけど…いてててっ!」


 いや、こうなるのはわかってたんだけどね!兎に角、これはどうにも夢じゃない。WHYもWHATもWHEREもHOWもわからないし、サバイバルどころかボーイスカウトもやったことないけどこのままじゃダメだってのはよくわかる。もしかしてこれは天罰か何かなのか。今朝ハンカチを落とした女子高生に一声かけれなかったのが罪だったのか!くそう…だって昨今じゃ女子に話しかけるだけで事案とか言われるんだぞ!俺は悪くないと声を大にして神様にそう言いたい。


 「うわぁ、虫とか凄そう…」


 一歩地面を踏みしめるたびに地面を覆う苔が二十センチ程沈むのだ。感触は低反発クッションのようでものすごーく気持ち良いが…あくまで苔である。そらもうムカデやらナメクジやらが一杯いそうで怖いじゃないか。今のところはそのような生き物が現れてないことが救いです。というよりも、結局植物以外の生き物がまるでいなかったのだ。


 幸いにも森のなかは燦々と光が降り注ぎ、視界自体は全く問題ない。俺は特にこれといった目標を立てず、ただ森のなかから出たいという不安だけで足を突き動かす。もし熊にでも遭遇したら…確か死んだふりというのは良くないらしい。身体を大きく見せてゆっくり後ずさればいいのか?いっそ歌でも歌うか?





 「あれは…ツリーハウス?」


 下らないことで気を紛らわせながら歩いていると、ひときわ巨大な木の中腹に、まるで自然現象として出現したかのように家が生えていた。そう、まるで生えているようだ。長い年月をかけ、植物が石像を飲み込むかのように家が取り込まれていた。


 俺はそれを見て、すごい…と驚嘆を漏らす他なかった。観光なんてろくにいったこともなければ、修学旅行だって京都だった。自然の美しさというものに初めて触れたような、そんな初々しい気持ちだった。なにがどうしてこんな森に来たかもわからないけど、これを見ただけでも価値があったのかもしれない。


 「そこな男!動くでないぞ!」

 「えっ?おっ、俺です!?」

 「貴様以外に誰がいる!」


 突如若い女性の声が俺に向けられた。みればツリーハウスの扉が開き、巨大な杖をこちらに突きつける少女がそこにいるではないか。


 「あ、あの!道に迷っていただけなんです!ストーカーとかじゃないんです!」

 「道に迷っただとぉ!?貴様白々しいにも程があるぞ!この森は魔力を有する者の侵入を許さぬ!特別な訓練を受けた魔導師しか入れぬのだぞ!」

 「ええっ!?」


 魔力を持っていたらむしろ魔導師は入れないんじゃないのかと思わないでもなかったけど、これは非常にまずい事態になった。というか魔導師ってなんだ。彼女は中二病コスプレ女か。いやでもこんなすさまじい自然現象が起きている地にずっと入ればそうなるのもわからないでもない。


 取り敢えずは日本語が通じているからここは日本か…でもどうみても少女は日本人には見えなかった。普段日に当たらないのか真っ白なその肌はどちらかと言えば北欧のそれであり、顔のつくりも何処か日本人離れしている。髪も日本人にはいない赤毛だ。


 「お前は何者だ!敵ではないとするならば言質せよ!

 「え、え…俺もどうしてここにいるのか分からなくて」

 「ふん!愚か者め!失せろ!」


 ぎゃひん、そんな情けない子犬のような悲鳴を上げながら、少女が放った謎の衝撃波によって俺は意識を失ったのであった。一体俺が何をしたっていうんだ…。








 「“目覚めよ。魔導人形アイラ”」


 まるでゲームの召喚呪文のような詠唱の声で、漸く目が覚めた。頭が…むしろ全身がぐわんぐわんと揺れ、世界が悲鳴を上げているかのようだ。


 「お、うぇっ。」

 「おお!成功か!?」


 余りの感覚に堪らず嗚咽を漏らす。視覚も聴覚もひっちゃかめっちゃかだ。苦しい、とてつもなく苦しい!なんとか苦しみから逃れようと藻掻くも、視界が回り続けるせいでただひたすら手で虚空を切ることしか出来なかった。


 「全く世話のやける…」


 トンと胸元に熱を持った何かが当てられた。すると徐々に五感がはっきりとし始める。魔法だ…うわ言のようにそんなことを思った。意識がはっきりとする。


 「ほれ、喋れるだろう。”私に挨拶をしろ”」

 「はい。おはよう御座いますマスター」

 「うむ。よろしい。素晴らしい」


 …俺は今なんて言った?自分の意思をまるで無視して、少女の言葉に従い、俺の口はすらすらと分けの分からない言葉を紡ぎだしたのだ。それも、全く聞き覚えのない他人のような声色だった。そう、男のそれですらない。近所で遊ぶ小学生の女子のような…。


 ゆっくりと手を上げる。仰向けになっていた自分の視界に、ほっそりとした随分と脆弱な腕が映る。誰の腕だ…?


 「いつまで寝ておる。“立て”」

 

 少女の…あのツリーハウスの少女の声と共に、強烈な痛みが全身を走った。嗚咽の次は悲鳴。かすれた知らない声が俺の口から飛び散った。この歳にもなって…だなんて考える余裕すらなく、ただもがき続ける。かつて右足を骨折したことはあったが、その骨折した足で無理やり立たされるような感覚だ。


 「お?なんだまだ全身が定着しておらんのか。式は間違っとらん筈なのだが…。”安静にしろ”」


 また少女の言葉によって急激に痛みが止む。ついさっきまでは死ぬとまで直感した程のそれは気づけば綺麗さっぱりなくなっていた。おかしい、俺の身体に何かが起きている。先ほどの悲鳴も俺の声じゃなかった。腕もどうみても男のものじゃない。有り得ない、それでも予感染みた想像が浮かび上がる。


 「私の姿が見えるか?アイラ?」

 「俺は…、アイラなんて名前じゃない…」


 アイラ…一体誰のことだ。覗き見る少女は俺が喋ると、それはそれは嬉しそうに笑みを浮かべた。何が嬉しいのかさっぱりだ。そんなことより俺の名は…。


 「”アイラ、それがお前の名だ“」

 「俺の名は…あれ?」


 思い出せなかった。さっきまでは間違いなく覚えていたはずなのに、何故か皆目見当もつかなくなってしまった。そしてその隙間に容赦なくアイラという名が滑りこむ。そうだ。自分の名前はアイラであってる…違う!何時の間にか自分の中でアイラという名が当たり前になっていた。何だこれは!?


 「俺に何をしたっ!?名前を返せ!」

 「元気があって宜しい。本当は記憶を消し去ってやってもいいがそれではツマラン。お前がお前であるのは私の譲歩だぞ?」

 「ふざけるなっ!」


 どういうことだ?この少女は俺を意のままに操れるのか?記憶を消すことも出来るのか?死ねと言われたら死んでしまうのか?冗談も大概にしろ!どうして俺がそんな目にあわなきゃならないんだ!お前はなんだ!いったいここはどこなんだ!


 「あーやはり素体が男だとみっともない。せめて…。”女らしい言葉遣いにしろ”」

 「私はっ!えっ?違う!おっ、お…。なんで!?言えない!?」

 「そういう原則だからな。マスターである私、ミレーナ・グレッヘンの偉大な力の一端を少しは理解出来たか?」


 絶望が世界を塗り替える。本当に逆らえない。俺、という一人称を言おうとしても、頭が、喉が、全てがそれを拒んだ。彼女が言ったことは俺にとって絶対なのだ。マスターとは…彼女は本当に魔女なのか。


 少女が…ミレーナ・グレッヘンが俺の肩を掴む。目の前の存在は少女であるはずなのに、意識を失う前にみた印象よりも大きく…それもかなり大きく見える。


 「ひっ!?」


 ミレーナがぐっと力を入れ、俺を強制的な立たせる。おかしい。中学生の時、地元の不良高校の三人組に囲まれた時のような…絶対的無力感が俺を襲った。逆らえない。逆らっちゃいけないと警鐘が鳴り続ける。俺に何が起こって…。


 「さて、これが今のお前…アイラとしての姿だ。わかるか?」


 目の前の鏡に映ったものは、少女よりも更に頭ひとつ小さく、真っ白な長髪を乱し、風変わりなメイド服を纏っていた…。人形にしか見えない無垢な肌に、そして恐怖に瞳を震わせるそれは、何処からどう見ても、可愛らしい女の子だった。


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