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魔法設定の説明

 はっきり言おう。

 慧はハーレムを目指していた。それは間違いのない事実である。

 けれどそのハーレムはもっと……キャハウフフだったはずだった。


 そして今は昼休み。左に姫子、そして右に環が陣取っており、その二人に挟まれて慧は真っ青になっていた。

 目の前には慧のお弁当が空になって置かれており、母が早起きして作ったお弁当は米粒一つないという、作りがいのある状態だった。

 但し、誰の胃袋に消えたかといえば、慧の左右にいる二人である。

 

 昼休みに入ってから、この二人がやって来てお弁当を交換しようという事で全部食べられてしまったのだ。

 そして現在、二人にこう、彼女達のお弁当を食べさせられかけている慧だったが、まず姫子が、


「慧、はい、あーんして。あ、ちょっと待って……この粉をかけないと」

 

 と、なにやら取り出したのだが、青い色をした食紅のような粉だった。明らかに食欲を削ぐその色に慧は、


「別にそれはかけなくても……」 

「しびれる魔法薬、具材に混ぜ込むの忘れちゃって」


 悪びれず言う姫子のその邪気のない笑顔に、慧は即座に叫んだ。


「そんな事言われて食べるわけないでしょう!」

「大丈夫、味は保障するから!」

「そっちじゃないです! 痺れ薬とか、何をする気なんですか!」

「痺れた慧に、おかゆ作ったりしてあげるの!」


 ようは風邪の看病をイメージしている姫子。

 だが、ちょっと考えればこの矛盾が分るはずなのにと慧は心の中で嘆きながら、


「……それは風邪の時にしてください、痺れたら食べる事も出来ません」

「……それもそうね。じゃあ、普通に出汁焼き卵。はい、あーん」


 あまり食べたくなかったのだが、中学生にとってはお昼のお弁当の重要性は理解できるだろう。

 かといって自分のお弁当が無くなった慧は、彼女達のご飯を食べるか、自分でパンか何かを買ってくるしかない。

 今月は色々欲しい漫画やらなにやらが発売されるんだよなと慧はお小遣いの残額を計算して、菓子パンを買う選択肢を諦めた。

 そしてにこやかに微笑む姫子の差し出す卵に、おそるおそる口を開いた食べてみる。


「美味しい……甘くて出汁がじゅわっとして」

「もう一個食べる?」


 即座に頷いて、慧は食べさせてもらう。

 意外に美味しい卵焼きで驚きながらも、慧は、今まであった姫子との出会いが 思い出される。

 

 あれは二回目に会った時、いきなり慧は網で捕縛されてお持ち帰りされそうになった。

 大勢が見ている前で網に囚われた挙句、そのまま慧は姫子に担がれて何処かへ連れて行かれそうになったのだ。

 あの時、通りがかりの担任に助けてもらい、何とかなったのだ。


 それから更に二回、罠を仕掛けて慧という獲物を捕縛してお持ち帰りしようと彼女はして、再び慧は担任に助けられた。


 そして五回目、壁に押し付けられて、顎を指でくいっと上を向かされて、私のものになりなさい、そしてうんと言わないとどうなるか分っているわね? と囁かれて……つい、恐ろしさのあまりに頷きそうになった所で、担任に助けられた。


 そんなこんなで精神と肉体(捕縛的な意味で)を弄ばれて、その姫子を可愛さや綺麗さといった魅力を上回る恐怖に支配された慧。物理的な意味でも捕獲しようとしてくる、その獰猛な肉食獣に追い回される感覚に、慧は……一人の女の子を追い掛け回す自信を喪失した。


 そしてそんな慧はハーレムを望んでいたわけだが、現在そんな肉食獣な姫子にご飯を食べさせてもらっているという事実が目の前に。

 確かに美味しいご飯だが、なんだかこのまま餌付けされて飼われてしまうのではないかと、今までの経緯から慧は不安を覚える。

 だが美味しいご飯を目の前に、慧は抗えなかった。

 パクパクと食べる慧を、姫子が嬉しそうに食べさせていく。と、


「慧様、私のもいかがですか?」


 そうにこやかに環が慧に差し出してきた物体Aは赤かった。赤くてもわもわしていて、慧がじっと見ていると、それは箸でつままれたまま、もぞりと動いた。


「……遠慮します」

「そうなのですか? 美味しいのに。一口だけでも……」

「あの、動いていますが」

「? そうですね」


 環は頷くだけでそれ以上会話が続かない。変な女の子ばっかりなんで俺の周りに集まってくるのかなと慧が嘆いていると、遠くで、和臣と桜が楽しそうに談笑しているのが見えた。

 その二人の様子ははたから見ると恋人同士にも見える。

 その慧の理想を具現化したような二人に、慧は……巻き込む事に決めた。


「おーい、二人とも一緒に食べよう!」

「いいのか? ハーレムじゃなくて」


 にやにや和臣が笑って言うので、慧も皮肉を言おうとして、そんな体力がすでに自分にないことに気づいた。


「和臣、ヘルプ・ミー」

「……本気で大丈夫か」

「こんなの僕が望んだハーレムじゃない」


 そう泣き言のように慧は呟いて、五人でご飯を食べ、慧は環の差し出す食事には一度も手を出さなかった。






 少しあまった昼休み。

 用があるからと環は教室から出て、廊下で携帯電話で誰かと話している。

 姫子は、何故か担任に呼び出しをされて、現在席をはずしている。

 ボディーガードじゃ無かったのかと慧は思ったが、桜がいるから大丈夫ねと言っていた。

 この穏やかそうな桜だが、姫子が大丈夫という事は、もしや桜は豹変して『逆らうものは、皆殺しだー』みたいなキャラになるのだろうか。そんな怖い想像をしていると、桜がにこりと慧に微笑んで、


「慧君、今失礼な想像をしたでしょう」

「いえいえ、とんでもありません」

「ふふ。そういう事にしておきましょう」


 にこにこと相変わらず笑っている桜。

 よく分からない人だなと思いつつ、慧は横の和臣を見る。

 和臣はすでに、次の授業、「魔法の呪文」の授業の教科書を取り出していた。


 この世界の魔法は、まず世界の外側、ある種の異世界にある“魔法界”とのの接続によって、各々の個人の持つ器に魔力がそそがれる。ちなみにその器の修復技術もある。

 また、昨日慧がインターネットで調べた所、その器を擬似的に作ることにも成功しているが、その容量がまだまだ少ない事と、技術的な問題から、現在はハイブリット車を走らせる程度しかない。

 ちなみに魔力の器に魔力を注ぐ過程にも幾つもの経緯や違うものへの変換も生じており、その一部の変換によって生成される魔力要因が魔獣の必須栄養素となっている。それ故に魔獣は人を襲うのだ。

 それが個人の器から、ただのエネルギーとしての魔力が引き出され、脳内の魔力を司る部位によって個々の属性変換される。

 一説には遺伝子の影響によるらしいが、まだわかっていない。ただこの子はどんな魔法を使えるのかという事は経験則による蓄積によって分る様になっている。

 また、魔力界の魔力に限界はあるのかという話だが、少なくとも現在の減り具合からの試算では、太陽が寿命を終える頃までは確実に大丈夫であるらしい。


 といった話を勉強しているわけである。

 そこでお手洗いに以降と席を立った慧は、深刻そうに話す環が電話を切る所に遭遇する。


「食べてくれないんだから仕方がないでしょう。……あら、慧様、どうかされたのですか」

「いや、深刻そうだけれど、どうしたのかなって」

「……いえ、送り返されたもので、大怪我をしてしまいまして。知人が」

「ええ!、それはお気の毒に……」


 環はそうですね、と微笑み、用があるとその場を去っていく。

 そして慧が見えなくなった場所で、能面のような無表情になり、再び携帯電話を取り出して、


「もしもし、環ですが……ええ、そうです」


 電話の相手に、そう答えたのだった。 

来週は更新少な目かもです。自作イラストを入れてみようかと思いましたので、ちょっと頑張ってみようかなと。素人絵ですが、楽しめるよう頑張ります。

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