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アウトサイダー  作者: ささたけレンナ
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二歩目  ひとりぼっちのおとこのこ


 旅を始めて間もなくして、西洋の街並が広がる大きな街へと着いた。海の見えるこの街の景色はとても綺麗で、ぼんやりと突っ立っている間にたくさんの人々が通り過ぎてゆく。その中に、私達と同じように突っ立っている少年が居た。彼は通り過ぎてゆく人々を見ては、顔を俯かせていた。彼は何がしたいのだろうか。カッターシャツにサマーセーター、それに赤いチェックのズボンという学生服姿の彼の元へ、歩み寄る。気のせいだろうか、ノイズが少し嫌そうな顔をした。……人嫌いなのだろうか?

 人が多いせいか、私達がわりと近くまで来ても気付いていないようだ。声をかけてみるとしよう。


「そこの貴方」

「っ!? ……なんだよ。もしかして俺に気付いてる?」

「勿論ですとも。しかし――気付いてる、とは?」


 気になる。何故気付いているかを問うのか。もしかしてこの少年、周りには気付かれていないのだろうか。まるでその存在が無かったことにされたかのようにされているような、いや、またそれとは違う……世界から孤立したような。正確には、気付かれていないというより、皆気付いているのに気付いていないふりをしているのだと私は推測してみる。


「皆、俺に気付いてくれないんだよ。っていうか、気付いてないっていうより、無視してる、みたいな」

「ふむ、なるほど。……とりあえず、ここで立ち話するのもなんですし、近くの喫茶店にでも入って話をじっくり聞かせてください」

「構わねえけど」


 自分が無視されているような感じがする、と彼は少し自覚しているようだった。

 少年の手を引き、嫌そうな顔をしたままのノイズと共に、近くの落ち着いた雰囲気の喫茶店の中へと入店する。

店の中に入った瞬間に漂って来る、とても良いコーヒーの匂い。思わず気が緩んでしまいそうだ。

人数を聞いて来た店員に「三名」とだけ告げて、案内された席へと三人で座りメニュー表を開く。トラベルケースは床に置き、足を組み、少年とノイズを見やる。私の注文はもう決まったが、この二人はまだ決まっていないのか二人してメニュー表をまじまじと見つめている。まあ特に何か急ぎの用事がある訳でもないので、このままメニュー表とにらめっこする二人を観察してみよう。

そう思った矢先に、少年が「オレンジジュースで」と言った。子供か。いや子供なのか。男性にしてはかなり小柄……私の身長から考えると、恐らく百五十センチ台だろう。子供ということにしておこう……とりあえず。私もコーヒーを頼むと、続けてノイズが「レモンティー」と呟くように注文をした。

 注文が済んだ所で、話を始めようとまずは少年の名前を聞いてみる。


「貴方、お名前は?」

(つつし)(いましめ)祗って言う」


 外見にそぐわぬ和名。いや、そぐわぬと言ってはいけないのかもしれない。ノイズだって、本当の名前が和名である可能性が無いとは言い切れないのだから。……それにしても。


(つつし)、ですね。呼び捨てで呼んでも構いませんか?」

「全然平気だぞ」

「ありがとうございます。……失礼かもしれませんが、和名で白髪赤目とは珍しいですね」


 一般的にアルビノと称される色合いの髪と瞳を、彼は持っている。その真っ白な髪は後ろで結ばれており、真っ赤な瞳はまるで鮮血のようで。小柄で、男性にしては華奢な体格といい絵になるものだった。まるで平面世界から飛び出してきたような彼に、まず容姿の欠点は見当たらなかった。……いや、身長がその欠点なのかもしれないが、ここは敢えて触れないでおくことにする。


「容姿だけなら、よく言われんぞ。……珍しいもんなんだな」

「少なくとも、私達から見れば珍しいと思いますよ。この少年……ノイズも大概ですが」

「《……僕の容姿にケチつけてるの》」


 拗ねられてしまった。そういう訳ではないのだが……どうしたら機嫌が良くなるのだろうか。

――とりあえず、本題に入らないといけないな。そう早く早く焦るものではないが。


「いえいえ、そういう訳では。さて、それでは本題に入りましょうか。貴方はどういう訳で、周りに気付かれないように?」

「気が付いたらそうなってたんだ。友達も居なくなって、俺の傍に居てくれるのは妹と弟だけになって」


 気が付いたら、か。原因がわからないのであればどうにかすることが出来ない。出来ない訳ではないのだが、どうにかし難い。運ばれてきたオレンジジュースを飲み、俯いて話す祗に対して、何喰わぬ顔で話す私。傍から見れば、何故かこちらが追い詰めている図にしか見えないだろう。ノイズは机に突っ伏している。


「それは……どうにかしようが無いですね。原因不明と来れば、治しようがない。ですが、気が楽になる方法ならありますよ」

「マジかよ、嘘だろ……。で、その方法ってのは? 家も家族も全部ほっぽって来たから何でも出来ると思うけど」

「それなら尚更都合良い。――私達と共に、宛も無く彷徨うような旅をしませんか?」


 祗の真っ赤な瞳が見開いた。まさかこんなことを言われるなんて思ってもみなかったのだろう。それはそうだ、いきなり旅をしようだなんて突飛にも程がある。かつての私であれば間違い無く断っていたが、果たして祗はどうなのか。何も無く、ただ孤立しているままだというのであれば、私達のような変人と共に世界を見てまわる方が楽しいと思うのだが。彼は、孤立と旅、どちらを選ぶのか。


「――――行きたい。独りのままより、あんた達について行く方が絶対楽しそうだ」

「素晴らしい! それではここで一息つき終えたら、早速旅を始めましょう。異論はありませんよね、ノイズ?」

「《……勝手にすればいいんじゃない》」


 ノイズは興味無さげにそう言ったが、私は確かに見た。彼の口元が微かに弧を描いているところを。最初は嫌そうな顔をしていたはずなのに、今はもう嫌そうな顔をしない。短時間でよくここまで……と思うが、もしかしたらノイズは祗が加わることを密かに喜んでいるのだと思う。恐らく、だが。


  ――ここで一人、私達の旅の仲間が増えた。世界からの孤立者である少年、誡祗を迎えて――――。




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