一歩目 旅の始まり、日々の終わり。
旅支度をすませ、長い間世話になった家、もとい物置に別れを告げた。我ながらこの狭い物置でよく暮らせたものだな、と重いながら物置の外へと歩み出す。
この少年が先程私の家に押し掛けていきなり色々言ってからまだ数十分ほどしか経っていないのかと思うと、何故か溜息が出てしまった。
世界から除け者にされた無気力な二人で、これから旅に出る。計画なんて無いうえ、服装だって旅には不向きだ。旅をするのに燕尾服を着るような人間はまず居ない。
いや、ここに居るのだが。しかし私は服を燕尾服以外に持っていないという衝撃の事実を持っているから許される。……はずだろう。
「《これからどこへ行くんですか》」
先程とは違う声で、少年が話しかけてきた。機械音声。ノイズ混じりのその声に感情は無かった。
少年の服装はネックウォーマーにパーカー、ジーンズという簡単かつ動き易い服装で、旅をするのには燕尾服なんかよりかはよっぽど良い服装だった。
少年の問いかけに、私はゆっくりと返す。
「どこへ行きましょうか。のらりくらりと宛も無くただ彷徨うように行きましょう」
「《ふわりふわりと蒲公英の綿毛のように?》」
「そんなところです」
他愛も無い、淡々とした会話を繰り広げながら一歩一歩歩いて行く。どこへ向かおう。まずは、この先の大きな街にでも行ってみるとしようか。
きっと暇潰しくらいにはなるはずだ。
トラベルケースを持ち、時刻を確認してから出発する。……そういえば、この少年に名前を付けてあげよう。
流石に終始少年と呼ぶのもなんだか。
「そうだ、貴方の名前の件ですが……本当の名前を取り戻すまでは『ノイズ』という名前で呼ばせて頂いても構いませんかね」
「《……別に構いませんけど》」
よし。許可を得たところで――この少年、もといノイズとの旅を、彼の記憶が取り戻せるまで続けようと思う。
彼の目的、そして彼と私の共通の目的はそれで構わないが、私自身の旅の目的は……この旅の最中で見つけることにしよう。
――水色の髪の少年と共に、金髪の似非紳士は旅立った。