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今年の春、高校三年への進級を期に橘良介は東京から新潟に引っ越すことにした。
とはいっても単身転居だし、引っ越し先は彼の兄が一人暮らしをしているマンションの一室である。
しかしこれは紛れもなく、橘本人たっての以前からの希望であり、兄と家賃を割り勘にするという交換条件を出して家族に交渉し続け、やっと承諾を得ることができた案件だった。なのでこの場合、引っ越すというよりはむしろ転がり込むといったほうが正確な表現なのだろう。
東京でもそうだったように、学生生活の半分をバイトに捧げなければならない。しかも、稼いだ金は自分の娯楽に使う前に家賃のためにほぼ掠め取られてしまう。それでも橘には東京を離れたい理由があった。
――そう、橘は新潟にいきたいのではなく、東京を離れたかったのである。