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マレビト来たりて 前編  作者: 安積
第3章 同胞の足跡と、初めての魔法
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 結果として、魔法で出た水は美味しかった。魔法で生み出されるものは、元は魔力だけれど、一旦形を持つと魔力に戻ることはないらしく、飲料可能なのだそうだ。

 魔力に戻らないのであれば、先ほど彼らが消したのはどうやったのかと思えば、風や火は魔力の供給が絶えたので消え、神官長が出した水盤はなんと電気分解していたらしい。少量とはいえ、水が一気に気体になったのなら、それなりの体積になったはずだが、そこら辺がどう処理されていたのかは私には分からない。もしかしたら他の魔法も使っていたのかもしれない。

 因みに、魔力で出した火は、火単体であれば魔力の供給をやめると共に消えるそうだが、何かに引火させた場合は代わりに燃焼するものがある為、消えることはないそうだ。


「そういえば、朝言っていた準備って何だったんですか?」


 確かナイルは魔法を実践するための準備をしておく、と言っていたはずだ。でも、今この部屋にあるのはお茶のセットだけだ。それを準備したのはエメラさんで、ナイルではない。


「この部屋に結界を張るための準備です。」


「結界?」


「ええ、もしも貴方の魔法が暴発した際、回りに被害を出さない為の結界です。その必要はなかったようですが。」


「それって、暴発する可能性があったということですか?」


「かつて、始めて魔法を行使した際に、それなりに大きな館を全焼させたマレビトがいらっしゃいました。何処かに引火して延焼した、と言うわけでなく、一気に建物全体を燃やし尽くしたのだそうです。

 マレビトは非常に多くの魔力を有しています。それを自由に使えるようになるのは成人してからとはいえ、貴方がそれを暴発させない可能性がないわけではありませんでしたので。」


 因みに今もまだ張っていますよ、と彼は続ける。部屋の外に4人の神官、そして中ではツェフじいちゃんがその維持を行っているらしい。単なる好奇心でやってみたい、と言ったのだが、思った以上の大事になっていたようだ。

 そこまでしなければ出来ないのであれば諦めたのに、と言えば、


「教えないままですと、先のマレビトのようにいきなり暴発する可能性もありえましたから。どちらにせよ遅かれ早かれ一度はやらねばならなかったことです。」


 と、なんでもないことのようにナイルは答えた。


 それにしても、と彼は続ける。


「まさか成功させるとは思いませんでした。」


「成功すると思ってなかったのに、結界の準備をしたんですか?」


 自分自身、あまり自信がなかったのも事実であったため、素直に疑問を口にすれば、その返答は――


「備えあれば憂いなし、とは貴方の国の言葉でしょう。」


 落ち着いた様子で、お茶に口をつけ、一息ついていた。熱い茶を好むナイルのカップから湯気が消えている様子に、よくよく思い返してみればそれが部屋に来て空手を付けられないままであったことを思い出す、落ち着いているように見えるのは、もしかしたら見た目だけのことでしかないのかもしれなかった。

 


「魔法がつかるようになるのは肉体的に成長しきってからです。この国では成人は十二ですが、魔法を使えるようになるのは大体十代後半からです。貴方の実年齢は二十歳過ぎであっても、現在の見た目が子供であることを考えれば使えない可能性のほうが高かったんです。

 ですが、貴方はマレビト。魔法がこの世界に現れてから、マレビトで魔法を使えなかった者は今まで記録上には存在しません。

 しかし、通常のマレビトは成人しているものでした。ですから、貴方の場合はどうなるか分からなかったのです。

 予想としては失敗か暴走のどちらかだろうと思っていました。それも成功させた上でも暴走ではなく、制御不能になったの暴走になるだろうと予想していたもので。正直、その場合はこの結界で防げれば良い方だな、と思っていましたよ。」


「良かったですね、成功で。」


 私にとっても、貴方にとっても……。

 魔法は一度出来るとあとはいくらでも出来る性質の物のようだ。一度補助輪を外した自転車では知れてしまえば、後はもう体が覚えてしまうのと同じなのかもしれない。

 空になったカップを見つめ、今度は無詠唱(詠唱と呼べる類のものではないけれど)で水を注いだ。何も無いところから水が現れる。凄い、とは思う……けれど、とっても地味な魔法だ。何で私、あそこでもっと派手なのやろうと思わなかったんだろ。

 あぁ、派手なのはイメージしきれなくて無理って思っちゃったんだよね……。野球好きの某魔王様みたいに派手な魔法を使ったら、あちこち水浸しできっと大変だったろう。

ふと、これならばどうかと思い、カップの水をそのまま小さい龍の姿に替えてみる。


 あ、出来た……。

 私の稚拙なイメージでも案外うまくいくもんだ。因みに思い浮かべた姿はDBの神龍ではなくて、某昔ばなしのOPのでんでん太鼓を持った坊やを乗せたあの龍だ。たった二人の声優で何年も続けたなんて凄いよな、とか思考が横道に逸れたりしても、そのままの姿で小さな龍はカップ上の辺りをグルグルと回っていた。

 とりあえず試してみるだけだったので、再びカップの中に戻すとわずかな波紋を残してただの水へと戻った。


 まあ、なんにせよ地味であることに変わりはなかったが、想像することこそが最も重要であり、魔法そのものはかなりの自由度があることだけは判明した。細かいことは、これからの授業の中で少しずつ覚えていけば良いだろう。そう思い、水を飲み干すと、私が試行錯誤にふけっている間、どうやら視線を集めていたことに気がついた。


「やはり、マレビトさまですな。」


とは神官長。


「どうやら、完全に結界は必要ないようですね。」


 とナイルは席を立つ。外にいる神官たちにもう決壊が必要ないと告げに行くのかもしれない。エメラさんも驚いてはいたようだが、すぐにお茶のお代わりは要りますか、と聞いてきた。職業意識の高い人だ。

 喜んでお茶を入れてもらいながら、部屋に残る二人に尋ねてみた。


「驚いていらっしゃいましたが、どうかしたんですか?」


「はじめて使う魔法で、あれだけ制御できるものはほとんどおりません。」


「普通は魔力量にもよりますが、数秒維持するので精一杯です。形を変化させると言うのは、そう簡単に出来ることではないんですよ。」


 二人それぞれに説明をしてくれた。


 室内で試すつもりはないから高出力が可能かどうかはまだ不明だけれど、どうやら低出力での制御は上手いほうらしいと理解した。細かい作業は高度なものらしいから、それをもっと極めてみるのも面白そうだ。

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