序
勢い込んで家を出た、初出勤のその日。
慣れないスーツに着られてる感は否めなくても、それでもやる気だけは一杯で。
意気揚々と家を出た。
ほんの少しの不安と緊張とそれに勝る多大な好奇心を胸に。
それなのに。
どうして私は異世界にいるんだろう?
意外に落ち着いてるもんだよね。
ただの娯楽でしかなかったファンタジー小説もこんな風に役立つことがある訳か。
予備知識も何にもなしにいきなり異世界に来ていたらきっとパニックを起こしてただろう。
もしかして、昔から神隠しの話があったのってこういう現象に巻き込まれる人が実際にいたからなんじゃないだろうか?
となると、あくまで楽観的な予想に過ぎないけれど、場合によっては帰れることもあるわけで。
でも、逆に言えば万が一どころでなく低い確率だけど、ここから更に別の世界に行ってしまう様な可能性もある訳か。
二度あることは…とも言うし、とりあえずは帰れるかもしれないけどこの世界での生活の目途をつけることが重要かな?
となれば、まずは職探しか。
……結局、辛い就活から逃れられてもまた職探しな訳ね。
この世界にハローワークみたいなものはあるのかな?
異世界初日。
訳の分からぬままに保護された神殿で、空に浮かぶ7つの月に眩暈を覚えながらも、微妙に現実逃避をした脳は眠りという精神安定剤の補給に異議を唱えはしなかった。