エピローグ
「ローゼリア・フォン・グランツ!
このリシャード・ヴァルモントの名のもとに
貴様との婚約を破棄する!!!」
頭が真っ白になった。
どうして、こんなことに?
王立学園の卒業記念パーティー。ここヴァルモント王国の一大イベント。
わたくしと殿下は今日ここで、この国の未来を背負う誓いをたてる、はずだったのに。
「我が最愛のマリーナへの数々の非道な行為、もはや王太子として見過ごせん!」
なにもしてない、知らないわ
「で、ですが殿下____」
「黙れ!証拠ならそろっているぞ!そしてその薄汚れた口で殿下など、口にするな!!」
「未来の王太子妃への非礼な行いは許されることではない。よって王家の名において、貴様を国外追放とする!!」
「そんなっ、わたくしはっ、!!」
異議を唱える者は、誰一人としていない。
やっぱり、駄目だったのね。
「"黒薔薇"を王妃にしようなど、はなから誤りだったのだ」
黒薔薇______
「王妃にはマリーナが、百合のような彼女が相応しい」
もう、無理ね
「……承知、いたしました」
どうにか声を絞り出す。
反論をしたところで、どうせ聞き入れてはもらえない。
目の前の愛しい人は、違う女性の肩を抱いている。ふわりとした金髪に、同じ色のぱっちりとした瞳のマリーナ。悔しいけれど、同じ金髪のリシャード様とお似合いだわ。そうね、黒薔薇のわたくしなんて、殿下に相応しくなかったんだわ。
「マリーナ、これでやっと君と一緒になれる…!」
「リシャード様…!」
「さぁ、今からでも国王陛下の元へ行こう!ここにいる全ての者が証人だ。きっと認めてくださるはず_____」
「その必要はございません」
凛とした美しい声が会場に響き渡った。
黒くて丈の長いコートを羽織った"彼女"はフードを外し、堂々と会場の真ん中へ躍り出る。
その人物の登場に、誰も驚きを隠せない。
「私、シャルロット・エル・アルキオンが認めて差し上げますわ」
会場がざわめく。
「シャルロット王女殿下!まさか貴方様がいらっしゃっていたとは…!」
シャルロット・エル・アルキオン____
二つ名は、"白薔薇"
隣国の大国、アルキオン帝国の第一王女殿下。
美しい白銀の長い髪に、透き通った空色の瞳。
そして誰もがたじろぐ美貌。おまけにスタイルも抜群。
長い黒髪に赤い瞳、おまけにつり目の私とは、似ても似つかない。
でもどうしてこんなところに……?
「貴方様が認めてくだされば、陛下はきっと納得してくださるはずだ!」
「"白薔薇"の王女様が私たちの味方なんて…マリーナとっても嬉しいです!」
マリーナがこちらを見る。"黒薔薇"のあなたとは大違いね_____そう言っているみたいな顔をして。
そんなの、わたくしが一番分かっているわ。
「ええ!"未来の国王陛下と王妃殿下"の幸せを、心より願っておりますわ」
王女殿下は2人に笑いかけた。その微笑みはまさに薔薇のような美しさ。会場中の視線が彼女に集まる。
ここにいるだけで自分がどんどん惨めになっていく。
国外追放__それで良かったのだわ。今頃お父様はわたくしに失望して、勘当の準備でもされているころね。早く帰って、国を出る支度をしましょう。この国にはもう、いえ最初から、わたくしに居場所なんてなかったのだから。
そう思い俯いた顔を上げる。するとちょうど、王女殿下がこちらをみた。空色と目が合う。
美しい笑みをこちらに向けたまま、近付いてくる。そして目の前で立ち止まった。
「あなたがローゼリア・フォン・グランツ公爵令嬢ね。お噂はかねがね…」
噂…?一体どんな__
リシャード様が嘲りの笑みを向ける。
そう、わたくしの悪行とやらの噂なのね。
「国外追放なんて、お気の毒」
笑みを崩さず、王女殿下は続ける。
まだ辱めを受けねばならないのかしら。しかも相手は格上。言い返すことも、勝手にこの場を去ることすらできない。
「ねぇ、貴方」
もういいわ。ここまできたらなんとでも仰ってくださいまし。怖いものなんてなにもないわ。黒薔薇でも魔女でも嫉妬に狂った醜女でもなんでも____
「アルキオン帝国に来ない?」
「へっ?」
会場が静まり返る。全員が狐につままれたような顔をしている。
今、なんと____
「お、王女殿下!?その者は大罪を犯して____」
すかさずリシャード様が叫ぶ。
「えぇ、それで国外追放なのでしょう?"王家の名のもとに"。もうこの国の民でないのでしたら構わないではありませんか」
王女殿下はその美しい笑みを決して崩さない。
全員が唖然としていて声も出せないなか、王女殿下はわたくしの手を取り、言い放った。
「では、彼女はもらっていきますから」
王女殿下は最後に特大の笑顔をリシャード様に向け、わたくしの手を引っ張って出口へと歩き出した。
なにがなんだか分からず、王女殿下を見る。
戸惑っているわたくしに、殿下は再び笑いかける。
さきほどまでの上品な美しいものではなく、無邪気で可愛らしい笑顔。
「私ね、この時をずっと待っていたの!」
この時の天使のような笑顔を、わたくしはきっと、一生忘れない______




