第6話:効率的な魔術師――「地球知」でショートカット修行
第6話:効率的な魔術師――「地球知」でショートカット修行
翌朝。シルスを待っていたのは、白亜の邸宅のバルコニーに差し込む眩しい朝日と、それ以上に鋭い光を放つ執事のモノクルだった。
「おはようございます、シルス様。本日より魔力運用の基礎訓練を開始いたします。……まさか、パジャマのまま二度寝を決め込むおつもりではありませんよね?」
「……アリステア、俺は不老不死なんだぞ? 修行なんて急がなくてもいいじゃないか」
シルスが寝癖のついた銀髪を掻きながら抗弁するが、アリステアは動じない。
「不老不死だからこそ、暇潰しの質を高めるべきです。この聖域の機能を十全に使いこなすには、主様の魔力の質と量を底上げする必要がありますな。さあ、立ってください」
バルコニーに出ると、アリステアによる「魔導講義」が始まった。
この世界の魔法は通常、長い詠唱と複雑な魔法陣のイメージを必要とする。だが、シルスには最強のカンニングペーパー、**【地球知】**がある。
「まずは小さな火を指先に灯してください。酸素を魔力で励起させ、燃焼反応を引き起こすイメージです」
アリステアの教えは標準的だが、シルスはふと考えた。
(火を灯すだけなら、単なる『燃焼』よりも、もっと効率的な理屈があるはずだ……)
シルスは意識の海で検索をかける。
『検索キーワード:燃焼の三要素、プラズマ、熱力学』
脳裏に膨大なデータが流れる。現代科学の知見に基づいた「エネルギー変換の最短経路」が、魔力回路として構築されていく。
「――『点火』」
シルスの指先に灯ったのは、アリステアが想定した赤い小火ではなかった。
それは、太陽の欠片を切り取ったような、眩いばかりに輝く「青白いプラズマの球」だった。
「……は?」
常に冷静なアリステアが、珍しく絶句する。
「主様、今のは一体……。詠唱も魔方陣の構築も飛ばし、事象の根源を直接書き換えたような……」
「いや、地球の理屈だとね、効率を追求するとこうなるんだよ。ほら、魔力消費も最小限で済んでるだろ?」
シルスは49歳の合理的精神で、魔法を「神秘」ではなく「物理現象」として再定義し始めた。
アリステアが十年かけて習得するような高度な制御を、シルスは地球の科学知識というショートカットを使って、数時間で再現していく。
「面白い……。これなら、面倒な修行も『効率化』できそうだ。次は、ドーム内の気温調整を自動化する魔術を作ってみたいんだが」
「……主様。貴方様は、神の想定をも超える『怠惰の天才』かもしれませんな」
呆れ半分、感嘆半分で頭を下げるアリステア。
こうしてシルスは、最強の知識を魔術に応用し、より快適な「引きこもり環境」を構築するための力を急速に身につけていった。




