第36話:究極の再就職――アルシエルの引退と「神への昇進」
第36話:究極の再就職――アルシエルの引退と「神への昇進」
騒動が収まったある夜。
アルシエルがいつになく神妙な面持ちで、シルスのバーカウンターに座っていた。
「……盆ちゃん。僕、決めたんだ。神様、定年退職することにした」
「……は? 神様に定年なんてあるのかよ」
「うん。主神(サトウ部長)から、最近のドーム運営の成果を認められてさ。『君、もう管理職として現場を離れていいよ』って言われちゃって。……で、後任なんだけど」
アルシエルが、輝く銀色の「神権」をカウンターに置いた。
「……盆ちゃん、君にこの世界の『最高執行責任神(COO)』になってほしいんだ」
シルスは飲んでいたウィスキーを吹き出しそうになった。
「冗談じゃない! 俺は引きこもるためにここに来たんだ。神様なんて、世界中から祈り(クレーム)が届く究極のカスタマーセンターじゃないか!」
「でもさ、神になれば『時間』も『空間』も自由自在だよ? 1万年くらい寝てても誰にも文句言われない。まさに、**究極の引きこもり(ニート)**になれるんだ」
その甘美な誘惑に、シルスの心が揺れる。
かつてのサトウ部長に似た主神に仕えるのか、それとも自分が「システムそのもの」になって、永遠の静寂を手に入れるのか。
「……アリステア、ミーナ。俺、どうすればいい?」
「主様がどの道を選ぼうと、我らはその傍らに。……ただ、神になられるのであれば、福利厚生として『全宇宙の高級枕』を請求させていただきますが」
シルスは、管理コンソールの「決定」ボタンに指をかけた。
49歳の魂を持つ男が辿り着いた、異世界転生生活のグランドフィナーレ。それは、彼が望んだ「静寂」への扉か、あるいは「全知全能という名の果てしない激務」への入り口か――。
シルスはニヤリと笑い、こう言った。
「……よし、条件を提示しよう。俺の労働時間は『週休七日、実働ゼロ』。それでいいなら、神(社長)になってやるよ」




