第35話:若き獅子の乱入――「株式会社・勇者」と49歳の処世術
第35話:若き獅子の乱入――「株式会社・勇者」と49歳の処世術
スライム経済に支配された世界に、突如として「破壊的イノベーション」を掲げる男が現れた。
名はケンジ(20歳)。シルスと同じく地球からの転生者だが、彼は「最強の引きこもり」ではなく、**「最強の起業家」**を目指していた。
「今の世界はスライムの独占禁止法違反だ! 私は『株式会社・勇者』を立ち上げ、クエストのサブスクリプション化と、魔王討伐のクラウドファンディングで、この世界をアップデートする!」
ケンジは、若さ溢れる魔力と現代のビジネス用語を駆使し、スライム経済に不満を持つ人間たちを糾合。ドームの境界線にキャンプを張り、プロジェクションマッピングで「出資者募集中!」の文字を夜空に浮かび上がらせた。
「……うわぁ、意識高い系だ。一番苦手なタイプだ」
シルスは、かつての職場で「横文字ばかり使って実務を丸投げしてきた若手社員」を思い出し、胃のあたりを抑えた。
「シルスさん! あなたも転生者なら分かるでしょう! こんな閉じたドームに引きこもっていないで、世界をグロース(成長)させましょうよ!」
境界線越しに熱弁を振るうケンジに対し、シルスは管理コンソールのマイクを起動し、静かに答えた。
「……ケンジ君。グロースも大事だが、君、**『キャッシュフロー』と『現場の泥臭い根回し』**を忘れてないか?」
シルスが指を鳴らすと、スライム銀行が「株式会社・勇者」に関連する全ての口座を一時凍結。さらに、アリステアが法務担当として「聖域特許権侵害」の書類を山のように突きつけた。
「……イノベーションは素晴らしいが、大人のルールも覚えておきなさい」
20歳の起業家は、49歳の「現実」という名の壁にぶつかり、涙目で撤退していった。




