第31話:スライム・ストライキ――「泥遊び」を求める労働者たち
第31話:スライム・ストライキ――「泥遊び」を求める労働者たち
その日の朝、マナ・ネットが死んだ。
ドーム内の自動清掃システムは停止し、世界中のATMは「お休み中」の札を掲げて沈黙した。
「……何事だ、アリステア。ネットが繋がらないと、俺の二度寝用ヒーリング音楽が流れないんだが」
「主様、緊急事態です。プル殿率いる『聖域労働組合』が、無期限のストライキに突入いたしました」
庭に出ると、数千匹のスライムたちが「我ラ、ゼリージャナイ!」「泥遊ビノ、権利ヲ!」と書かれたプラカードを掲げ、シュプレヒコール(擬音)を上げていた。
「プル、どういうことだ? 待遇に不満があるのか? 昼寝のスケジュールは完璧に組んでいたはずだが」
「マスター、効率……上ゲスギタ。心、乾イタ。我ラ、原点、ニ、帰リタイ。……ドロ、コネタイ」
あまりに高度な事務処理をこなしすぎた結果、スライムたちの野生(本能)が爆発したのだ。
世界経済が完全停止したことで、ドームの外からは「早くマナ・コインを使えるようにしてくれ!」という諸国の王たちの悲鳴が、拡声魔導具を通じて響き渡る。
「……分かったよ。アリステア、ミーナ。今日だけは俺が『窓口業務』をやる。その間に、こいつらのために最高の泥遊び場を作ってやってくれ」
49歳の元中間管理職・シルス、数十年ぶりの現場復帰。
画面越しに激昂する各国の財務大臣に対し、「はい、順次対応しております」「ただいま担当の者が泥遊び中でして」と、死んだ魚のような目でクレーム対応を続けるシルスの背中は、どこか哀愁に満ちていた。




