第16話:アリステア教頭の特別授業――鉄の規律とモノクル・スライム
第16話:アリステア教頭の特別授業――鉄の規律とモノクル・スライム
シルスが「自由放任主義」に逃避した翌日。教壇に立ったのは、腕に『教頭』と書かれた赤い腕章を巻いたアリステアだった。
「いいですか、スライムの皆さん。主様の『怠惰』を支えるためには、感情に流されない正確無比な事務処理能力が不可欠です。本日は『帝王学概論』および『超空間物流管理』の講義を行います」
アリステアの授業は、シルスのそれとは比較にならないほど苛烈だった。
一秒の遅滞も許されないお辞儀の角度、完璧な温度で淹れるお茶の作法、そしてドーム内の全資源を0.001ミリグラム単位で管理する帳簿作成。
「プル殿、その複式簿記の記載に0.1の誤差があります。……やり直しです」
「プル……。リョウカイ、シマシタ。……修正、完了」
驚くべきことに、スライムたちはこのスパルタ教育を「喜び」として受け入れた。彼らの体はアリステアの影響を受け、次第に角張った「スクエア型」へと変形し、体表面には魔力で形成された**「擬似モノクル」**が張り付くようになった。
数日後、シルスがリビングへ行くと、そこには整列した**「エリート事務官スライム」**たちが、無機質な動作で書類(スライム粘液製の感圧紙)を処理していた。
「シルス様、本日のドーム内魔素消費予測と、備蓄食料の最適配分表です。承認のサインをお願いします」
「……アリステア。あいつら、目が『仕事人間のそれ』になってるんだけど……」
聖域の行政は完璧になった。だが、シルスがかつて見た「ぷるぷるした愛嬌」は、冷徹なプロフェッショナリズムの波に飲み込まれて消え去っていた。




