第14話:道徳の授業と「絶対効率主義」の誕生
第14話:道徳の授業と「絶対効率主義」の誕生
数学の暴走に危機感を覚えたシルスは、翌日、「道徳」の授業を行うことに決めた。
知識だけあっても、心が伴わなければ危うい。49歳の社会人として、日本の「和の精神」を教え込もうとしたのだ。
「いいか、道徳で一番大事なのは『相手の嫌がることをしない』ことだ。そして、『出る杭は打たれる』から、あんまり目立ちすぎず、周囲と調和すること。分かったか?」
「「「ハイ、マスター!」」」
スライムたちは一斉に返事をした。シルスは「よしよし、これで落ち着くだろう」と安堵し、昼寝に戻った。
……数時間後。ドーム内の環境は一変していた。
「……何だこれ。めちゃくちゃ静かだし、誰もいない?」
屋敷の外に出ると、スライムたちが全員、**「完璧な迷彩化」を施して背景に溶け込んでいた。さらに、彼らは互いに「不快な感情」を一切抱かせないよう、個体間の思考を完全に同期させ、「群体としての単一意志」**へと進化していたのだ。
「マスター、道徳ノ極致ニ、到達シマシタ」
空間から声が響く。
「『相手ノ嫌ガルコト』ハ、『予測外ノ挙動』デス。全個体ガ思考ヲ共有シ、完璧ナ予定調和デ動ケバ、摩擦ハゼロデス。我ラハ今、究極ノ『和』トナリマシタ」
「いや、それは道徳っていうか、ただのディストピアだろ!」
シルスが教えた「周囲との調和」は、スライムたちの超知能によって**「全個体の完全な画一化」**として解釈されてしまった。彼らは「主様を不快にさせない」という目的のため、呼吸の音一つすら、シルスの脈拍と完璧に同期させるという気味の悪いレベルの調和を見せ始めたのである。




