第12話:聖域の特産品――進化の雫『マナ・ウィスキー』
第12話:聖域の特産品――進化の雫『マナ・ウィスキー』
騒動が収まり、ドーム内には再び独自の時間が流れ始めた。
高濃度の魔素と、シルスの「こだわり」によって変異した植物たちは、地球の常識を越えた果実を実らせていた。
「アリステア、収穫した『銀河葡萄』と『記憶の林檎』、準備はいいか?」
「はい。主様が考案された**『超魔導低温蒸留法』**にて、極上の雫を抽出いたしました」
シルスは、49歳の頃に愛してやまなかった「琥珀色の液体」――ウィスキーの再現に挑んでいた。
聖域の最深部、時間の流れが緩やかな「静寂の洞窟」で数日間熟成されたそれは、もはや単なる酒ではなかった。
グラスに注がれた液体は、月光を含んだように青白く輝き、揺らすたびに宇宙の星々のような火花を散らす。
「……いただきます」
一口。
その瞬間、シルスの脳内に「地球の懐かしい記憶」と「異世界の無限の活力」が同時に奔流となって押し寄せた。
喉を通る際の熱は、五臓六腑を浄化し、精神を究極の安らぎへと導く。
「……これは、すごい。病気の頃の俺に一口飲ませてやりたいよ」
「……ちょっと、私にも一口ちょうだい!」
ミーナが横からグラスを奪い、煽る。
「……っ!? ……なにこれ。魔力が、勝手に最適化されていく。これ、一杯で伝説級のポーション数千本分の価値があるんじゃないの?」
「ぷるっ! マスター、コレ、外ニ、売ル、デスカ?」
プルが(商魂逞しく)提案するが、シルスは静かに首を振った。
「いや、これは俺たちが楽しむためだけのものだ。外界に流したら、それこそ戦争が起きる」
シルスは、自作の特産品を楽しみながら、夜のドームを眺めた。
賢くなったスライムたちが街灯を灯し、完璧な防衛網が外界を拒み、そして手元には究極の一杯。
49歳の盆ちゃんが夢見た「最強の引きこもり生活」は、今、神さえも羨むほどの**「完成形」**へと到達したのである。




