第11話:外界への逆アプローチ――防衛プログラム『カスタマー・ヘル』
第11話:外界への逆アプローチ――防衛プログラム『カスタマー・ヘル』
平穏を謳歌するシルスに、再び「外界」からのノイズが届いた。
あのピンク色のペンキに染まった勇者カエルが、今度は「大賢者」と「教団の異端審問官」を引き連れ、数千の兵をドームの境界線に集結させていた。
「これより、邪教の拠点を浄化する! 全軍、突撃――!」
だが、シルスは焦らない。
「プル、例の『防衛プログラム』を試運転してみてくれ」
「リョウカイ、シマシタ。プログラム名:【カスタマー・ヘル(顧客の地獄)】、起動」
境界線を越えようとした勇者たちの前に現れたのは、物理的な壁ではなく、数千の**「受付窓口スライム」**だった。
「……な、なんだこれは!?」
「『聖域入域申請書』ノ提出ガ必要デス。番号札ヲ取ッテ、一万年待機シテ下サイ」
「な、何を言っている! 私は勇者だぞ!」
「勇者様専用ノ窓口ハ、アチラノ『無限迷宮』ノ奥ニゴザイマス。タダシ、印鑑ガ三種類不足シテオリマス」
シルスの「地球知」から抽出された「官僚主義」と「たらい回し」を学習したスライムたちによる、精神的防衛網。
結界に触れようとすれば「利用規約(10万ページ、文字サイズ1pt)」の音読を強要され、剣を振るえば「不適切な操作です」という警告音と共に、全身に「弱粘着性の不快な糊」が降り注ぐ。
「おのれ……! 戦わせろ! 剣で決着をつけさせろおおお!」
叫ぶ勇者だったが、スライムたちは無表情(点のような目)で「次ノ方、ドォゾー」と繰り返すのみ。
「……主様、これは凄惨ですな。物理的な死よりも深い絶望を、彼らの魂に刻み込んでいます」
アリステアが少しだけ同情を込めて呟く。
結局、勇者一行は「書類不備」という名目のもと、一歩もドーム内に踏み込めないまま、三日三晩の待ち時間によって精神を摩耗させ、自発的に解散・敗走していった。
シルスは一度もベッドから出ることなく、最強の軍勢を退けたのである。




