魔王です。先日討伐されました
全ての源、混沌より創造神が生まれ、その創造神により神々が生まれてからずっと後。
数多の神々は、空・大地・魔法の源となる魔素を基盤とした世界、アレスティアを創った。
とはいえ、それだけでは不安定で崩壊してしまう。廃れゆく世界を見てそう考えた神々はアレスティアに創造の樹、神命樹を植えた。
すると、アレスティアはみるみるうちに成長、彩りを見せ始め、やがては生命を生み出した。
これが、世界創世の経緯である。
しかし、産み落とされた生命は平等とはなかった。そう、神々の介入によって。
暗闇の神、邪神と呼ばれていた者によって姿を変えた者たち 魔族。
空の神によって姿を変えたエルフ族。
大地の神によって姿を変えた獣人族。
この3者がアレスティアの頂点に座し、命の赴くままに姿を変えた人間族は3者の圧倒的な力によって支配されていった。
そんな均衡がしばらく続いた後、それを崩したのは神々の母・創造神の愛を一身に受けた者 勇者と呼ばれる存在。
その者は、蒼く光る聖剣を持って仲間達を先導し立ち向かった。
長い戦いの末敗れはしたものの、その見事な散り様と誇り高き精神に感銘を受けた創造神が新たに神龍イグドラを生み、イグドラに神々の監視と、その子孫である龍人族に人間族を入れた均衡の維持を命じた。
これが、世界均衡の経緯である。
そうして長い間平穏を見せたアレスティアだが……それを崩す姿を見せた者がいた。
魔王ヴェルムである。
ヴェルムは、圧倒的なカリスマ性と揺るぎない邪心を武器に魔族領をみるみる成長させ、1つ、2つと他種族の国々へ侵攻、戦争へと発展し、やがてはアレスティアの半分を支配した。
それを見かねた龍族の王、龍王ヴァルドラが、イグドラに魔王ヴェルムの粛清を打診。
世界の様子を見たイグドラはすぐさまヴェルムに神罰を下らせた。
そうして戦争も終戦───したわけではなかった。
ヴェルム粛清から300年、にらみ合いが続いていたこの関係。
しかしながら、延々と続くことはない。
獣人族・エルフ族・人間族の対魔族協定が締結し、魔族への反撃を開始。
200年の時を経て奪われた土地である魔族領の1/3の奪還に成功したのだ。
それから100年、ついに対魔族協定の立役者である人間族、その代表の勇者達は───
◇
「よし、行くぞ」
「おう!」
「やっと、やっとこの戦争も───」
「リーゼ、気が早い」
俺たちは魔王のいる玉座の間、その前まで来ていた。
見るからに分厚く頑丈そうで、細部まで意匠がこらされた門。
この奥に魔王がいると物語っているようだ。
押し開く。
低いうなり声のような音とともに、中が見えてくる。
差し込む光、遠く、遠くに見えるのは───
「来たぞ!まお───う?」
大きな玉座に座る、大きな杖を持って豪華な衣装を着た子供と、右にはスーツの女性、左には危険な雰囲気のするタキシードの男。
「子供?」
「ち、ちがう!」
無口なエルフの魔法使い、アルカが焦ったように言った。
「この禍々しい魔力……!」
「あの横の奴らも、やべえ気配だ!」
幼馴染で僧侶のリーゼと獣人で戦士のバールが続く。
目を凝らして、少年を見る。
禍々しく邪悪な魔力。
この部屋を覆い隠すほど強大な……
「ユリウス様、恐らく勇者一行かと」
「魔王様が手を汚す必要も───」
「待て」
立ち上がる。
そして、手を広げながらに。
「ようこそ勇者御一行!我が魔王、ユリウス・エラディウスである!」
そう聞いた瞬間、俺は魔王のもとへ走っていた。
「待てウィルト!」
後ろから声。
構うものか!
聖剣もそれでいい、と言わんばかりに光っている。
飛び上がり、振り下ろす。
「まおぉぉぉぉ!!」
杖と剣。
火花。
柱が割れる。
「頭より体が動いたか。それでこそ勇者っ───」
剣ごと俺を弾き飛ばす。
「よな!」
痺れ。
少しの震え、いや武者震いだ。
近くではあのタキシードと仲間たちが戦っている。
女が動く気配はない。
つまりは俺と魔王の───
「来い勇者!相手をしてやる!」
「うぉぉぁぁぁぁ!!」
もう一度、俺は無我夢中に飛び掛かる。
ぶつかり、金属音。
奴は笑い、俺は食いしばっていた。
◇◇◇
「此度の活躍、見事であった!よくぞ魔王を討ち取った!」
目の前に、人間族・エルフ族・獣人族の王が座している。
周りからは拍手と囁き声。
「国王様、ひいては他皆さま、そして仲間の協力あってのこと。私だけでは、道半ばで朽ちていたでしょう」
「ハハハハ!謙遜するな勇者!お前の力は俺も認めてるんだからよ!」
豪快に笑う獣人の王・ガルフ、いやガルフ様。
多分、一騎打ちして俺が勝った時のことを言ってるんだろう。
あの時のことも、なんだか懐かしく思える。
「そうであるぞ。そなたは勇者だ。過ぎた謙遜は、そなただけではなくそなたを代表として立てた人間族に泥を塗ることにもなると心得よ」
エルフの女王・ルーナ様。
ここまで言ってくれているのも、俺のためなんだろう。
この人優しいし。
「はっ肝に銘じます」
「それで、無事魔王を討ち取った勇者一行に褒美をくれてやる!なんでも申せ」
そう、この言葉を待っていた。
すかさず俺は───
「なら、奴隷制度の解体を求めます!」
広いこの部屋が、ざわつく。
中には……
「国王に無礼だぞ!」
「なんと無茶な!勇者とて許しがたいぞ!」
そんな声も少なくない。
きっとこいつらは、奴隷を不当に扱ってるんだろう。
それこそ、本当に死んでしまうぐらいの扱いを。
「沈まれ!!」
国王が一括。
辺りは静寂に包まれた。
「勇者よ、そなたの申し出聞き受けた。ガルフ王、ルーナ王、どう思われる?」
「まーいいんじゃねえか?」
「うむ……魔族の捕虜どもを奴隷にしては、均衡の維持が崩れる恐れもある……しかし、勇者よ」
考えていた様子から、すっと俺を向く。
「はっ」
「解体と申しても、奴隷で成り立っているところもあるのだ。故にすぐには難しいであろう。それでも構わぬか?」
「はい。おr───私は、どんな種族であれ、どこかに隷従すべき存在などいないと思っております。この奴隷制度解体こそがこの国、世界の平和に繋がると思い、不躾ながら打診させていただきました」
なんだ?王様たちが俺を見てニヤついている。
なんか変なこと言ったか?
ここに来る道中、皆で夜鍋して考えたのに……
「ダッハハハ!それでこそ勇者じゃねえか!」
「うむ。実におぬしらしい」
「勇者の願いにより、我ら王が、ここに段階的な奴隷制度の撤廃を宣言する!!」
手を振りかざし、高らかに言った。
大きな拍手の音。
こうして無事、魔王討伐の祝勝会?というか、おめでとう会?は幕を閉じたのだった。
◇◇
「「「かんぱーい!!!」」」「いえーい」
儀式めいた会も無事終わり、俺たちは国を挙げた祝勝会に参加していた。
結構貴族たちに絡まれてせっかくのうまい酒が飲めないんじゃないかと思ったが、そこは王様たちが手を回してくれたらしい。
「んぐっんぐっぱああぁぁぁ!!」
バール、豪快な飲みっぷりだ。
俺も負けじと───
「んぐっんぐっんぐっああああ!!!」
大ジョッキを一気飲み。
冷えたビールが旅の疲れに染みわたって、もうほんと最高!
「こらこら2人とも、一気に飲むのは行けませんよ」
手羽先をつまみながら俺らに注意するリーゼ。
そんなことは言ってるが、リーゼだってもう半分くらいまで飲んでる。
とはいえ、仮にも勇者が急性アルコール中毒死にましたーとか、笑えないか。
いやー魔王よりアルコールの方が強かったわー!って
……やかましっ
ちょっとだけ、ちょっとだけ抑えていこう。
「……うまうま」
かえってこのアルカは、コップサイズのお酒をごくごくと。
まったく、せっかくの宴会なのにこんな小さな奴を……
というか、なに飲んで……
「えっ!」
これ、あれだ。
度数96%のやつだ!
名前が出てこないけど。
というか、俺らぷはあ!とか、こらこら!とかしか言ってないな。
宴会なんかそんなもんっちゃそんなもんだろうけど。
「あのさ」
俺は、ちょっとだけの覚悟を持って、言葉にする。
「これからどうすんの?」
「「「え?」」」
考えてなかったみたいだ。
こんな楽しい会の中、将来の話なんか無粋だろうけど。
「俺ァまあ……冒険者でもすっかなあ……」
「私は、普通に教会務めになるんでしょうか?」
「魔法の研究したい」
みんなやりたいことがあるみたいだ。
俺は……
いや、これは後でいいだろう。
「ウィルトお前は何すんだよ?」
「俺?俺はまあ、まだ考えてないけど……」
「なんだよ考えてねえのかよ!ハハハハ!」
俺の肩を叩いて笑う。
割かし痛い。
「まあ、この席くらい考えなくたっていいと思いますよ。今日くらい飲みましょう」
「そう、無粋」
「まあそうか、アハハハ」
俺たちは、飲んで忘れることにした。
勇者パーティーとして、一緒に飲む最後の日を。
◇◇
「んっんん……」
ここは……?
そうか、もう宴会はおわったのか。
酒のせいか、夜中に起きてしまったらしい。
適当に、夜風にでもあたりたい気分。
俺は窓を開けて、縁に肘をついて空を見る。
星が奇麗だ。
月も。
これを共有する仲間も、もういないんだろう。
奴隷制度も解体できたし、仲間と酒だって飲めたし。
俺にしては、よくやったんだろう。
そう、きっとそうだ。
きっと……
「これで、よかったんだよな。魔王」
◇◇◇
海辺。
崖の先には、果てしなく広い海が広がっている。
風が気持ちいい。
「ユリウス様」
「なんだセレナ」
後ろから、我が腹心の声。
「なぜこのような場所に?」
「なんだ、知らぬのか?」
我は、先に立つ石を指さし───
「この下には、父上が眠っている」
「……そうでしたか」
そう。
全ては、この方から始まったのだ。
この長い戦争は。
「これから、どうするのですか?」
「……さてな。もうどこにも居場所など、ありはせんよ」
そう。我は死んだことになっているのだ。
これから先真の名を明かすことも、ここに戻ってくることもないのだ。
だから……これが、最後だ。
「別に自由にしてよいのだぞ?」
「はい、知っていますよ。だからここにいるんです」
「……ふっ戯言を」
「あっ」
思いついたように言う。
「それなら、仕事探しましょう!」
「仕事、か?」
「はい」
とは言うが、敗北した魔族領に我が働けるような仕事などありはしないし、他種族のところに行くにはこの海を超えなければならない。
そのためには、渡航の金が必要だ。
「この魔属領に、我が働けるような職などないだろう」
「だったら、行けばいいじゃないですか!人間たちがいる大陸に!」
「だから、もう魔王城の資産は使えないのだ。そこに行くまでの金が───」
「ふっふっふっ」
自慢げに笑う。
そして、ポケットから出したのは……
「なっ!」
金貨1枚。
「こんなこともあろうかと!」
「……まさか、コソ泥したのか」
「YES!」
全く、そんな堂々と胸を張って言うようなことではないだろうに。
だが───
「……ふっふふ」
「?どうされたのですか?」
「んや、なんでもない。それがあれば十分足りるであろうな」
我の未来はもう、閉ざされたものだと思っていた。
なのに、こうも簡単に光が差すとは……
「では、行くか」
「はい!あっでも」
「?今度は何だ?」
セレナは、ニヤリと笑って───
「ユリウス様なら、孤児院とかに入れそうですけどね」
「うるさいわ」
人気出るか自分が気に入るかのどっちかが起きたならば連載、というか続けます!
ありがとうございました!




