表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

魔王、転生して勇者になる。

俺の名はディアブロ。かつて世界に恐怖を与えし、魔族の王──いわゆる「魔王」だ。


千年の長きに渡る我が支配のもとで世界は震え、剣と魔法が乱舞する血の時代が続いた。

だがそれも、あの時で終わりを告げた。


「我が名はセリオン……聖剣に選ばれし者、勇者だ!」


その男は最後の戦いで、俺の心臓を貫いた。聖剣は俺の魔力を封じ、再生すら許さなかった。


死を確信した──はずだった。


なのに……


「おぎゃああああああ!」


……俺は、泣いていた。いや、泣かされていた。


視界はぼやけていて、身体がやたらと小さい。何より、全裸だ。誰かが抱きかかえている。

女の声がする。「可愛い……男の子ね」だと?


理解するのに少し時間がかかったが、どうやら俺は転生したらしい。


転生自体は想定外ではない。魔族は魂の輪廻を信じる。俺自身、いくつかの禁呪を試したこともあった。

しかし、転生先が「人間」──それも貴族の家の赤子とは。


そして十数年が経ったある日。


神殿にて「聖剣の儀式」が執り行われた。俺が転生した国はセレスティア王国というらしくこの国では15〜17歳の男女に神の加護を与える試練である「聖剣の儀式」が行われる。聖剣がその場で「勇者」を選ぶが、ただし聖剣が選ぶ基準は不明瞭で、時に神官たちも困惑するらしい。


儀式の対象となった少年少女の中で、聖剣が選んだのは──俺だった。


神官「おお、神よ……この者こそ、選ばれし勇者……!」


……いやいやいや。

俺、前世では神に叛逆してたんだけど?


思わずツッコミそうになったが、口には出さなかった。なぜなら──


(面白そうじゃないか……)


勇者に選ばれた元魔王。

魔族と人間、両方の運命をその手に握る存在。


この“運命の茶番”に、俺はちょっと興味が湧いてきた。


「いいだろう。やってみせよう──勇者として」


そうして俺は、「勇者」として旅立つことにした。

魔王としての記憶と力を胸に秘めながら。


(……さて。とりあえず、どっちの陣営にもバレないように立ち回るか)


俺は知らなかった。

すでに魔族側では「魔王の魂が転生した」と囁かれており──

各勢力が水面下で動き始めていたことを。




「レオン様、旅の準備が整いました」


「……ああ。ありがとう、リュシア」


そう答えた俺──レオン・フェルシアスは、かつての魔王ディアブロ。

今は“勇者レオン”として、王国から旅立つ直前だった。


本来であれば、勇者の旅立ちは国家規模の祭典になる。だが、俺はそれを辞退した。

注目されすぎると、魔族としての素行がバレかねないからな。


(いやしかし……)


俺は目の前の剣──「聖剣アウレリウス」を見つめる。


これはただの飾りじゃない。俺がかつて苦戦させられた、本物の神造兵器だ。

聖属性に極端に偏っており、魔族である俺にとっては天敵のはずなのに……


(なんで素手で触っても、平気なんだよ……)


本当に意味がわからない。前世なら触れただけで皮膚が焼け焦げていたはずだ。

今の身体が“純粋な人間”であることの証明でもあるのかもしれないが──


(それにしてもこの剣、やたらと俺に懐いてくる気がするんだが)


聖剣は意思を持つ。たまに光ったり、共鳴音のようなものが聞こえる。

まるで……「ようやく会えた」などと言いたげな気配すらある。


──だが、それは今は置いておこう。


「リュシア、俺の旅路の最初の目的地は?」


「北東のアザム村です。最近、魔物が頻繁に出没しているとか」


「なるほど。まずは腕試しにはちょうど良いか」


リュシアは王都の神殿に仕える神官見習いで、俺の付き添い役でもある。

白銀の髪に知的な眼差し。忠誠心も高く、今のところ使える存在だ。


「レオン様、本当に一人で行くのですか?」


「一人のほうが、都合がいい」


誰かに見られてはまずいことも多いからな。

例えば……魔族語で唱える禁呪とか。


(それに、俺の力を試してみたい)


今のこの人間の肉体に、どれだけ魔王としての力が宿っているのか──


◆  ◆  ◆ 


数日後。アザム村についた俺はさっそくいった近郊の森で、巨大な魔物と対峙していた。


それは、黒い体毛に覆われた異形の狼──“シャドウウルフ”。

並の冒険者なら瞬殺されるレベルの上級魔獣だ。

なぜこんなやつがここにいるかは置いておくか…

そんなどうでもいいことを考えていると急に声が聞こえた。


「人間ごときが……我を前にして、立っていられるとはな」


ふん。しゃべれるタイプか。


「貴様、何者だ……」


俺は口元を笑みで歪めた。


「魔王の魂を……忘れるにはまだ早いぞ」


右手に聖剣を構え、左手には黒炎を宿す。

聖と魔。相反する力を、今の俺は同時に扱える。


「いくぞ、“勇者”として──そして、“魔王”として」


「貴様ッ……何を──」


森に、黒と白の閃光が交差する。


──そして数分後、地に伏したシャドウウルフを前に、俺はため息をついた。


(……ふむ。思っていた以上に、今の俺は強いな)


力は戻りつつある。だが、まだ完全ではない。

同時に、聖剣の力も手探りだ。


(勇者として生きるか、魔王として返り咲くか……)


いや、どちらでもない。

両方、やる。


「魔王であり、勇者である──俺にしかできないことがあるはずだ」


そうつぶやいた俺の目に、森の奥で震える小さな影が映る。


「ひ、人間……ですか? あ、あの、助けてくれて……ありがとう……!」


──それが、のちに俺の旅に大きく関わることになる少女、ミリィとの出会いだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ