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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

解釈違いで起こったとある話

作者: こうじ

短編です、多分僕の作品の中では長めです。

 この国では4歳の時に神様から『加護』が与えられる。


 加護とは何か、というと明確な事は分かっていない。


 ただ、なんとなくだけど『神様から与えられるんだから凄い物』というのが殆どの人の認識だ。


 そして加護によりその人の評価も決められる。


 特に貴族となると加護持ちは絶対的な評価であり例え頭が良かったり武芸が達者だったりしても加護が無ければ評価されない。


 そして偶にだが加護が無い人もいる訳で、そんな人にとっては地獄の様な人生が決まっている訳で。


 私エリアナ・ローナスはそんな加護なしの1人です。


 なので、本日の卒業記念パーティーにも壁の隅でポツンといる訳です。


 加護なしと鑑定された日は今でも覚えていてその日から私は家族として認識される事は無くなった。


 私の実家は公爵家なんだけど本邸に立ち入る事は禁止され離れで1人で暮らしている。


 おかげで家事掃除は上手くて卒業したら実家を離れ1人で田舎暮らしをする予定。


 なんせ貴族社会に居場所なんて無いのでそれだったら1人でのんびり暮らす方が良い。


 さて、そんな卒業後のスローライフに思いを馳せていると何やら騒がしい声が聞こえてきた。


 会場の中心に人だかりが出来ている。


「おいおい、こんな所で婚約破棄を宣言するのかよ……」


「せっかくの卒業記念なのに……」


「しかも王太子様だしなぁ……」


 周囲の人達の声を聞いて私はなんとなくだが事情はわかった。


 王太子様が婚約者に婚約破棄を宣言したらしい。


(そういえば男爵令嬢と噂になっていたけどまさか本気だったとはね……)


 恋愛小説ならよくあるパターンだけどこれはれっきとした現実だ。


(男爵令嬢て『聖女』の加護を確か持っているわよね、王太子様は『勇者』の加護持ち、婚約者の公爵令嬢は『王妃』を持っている筈……)


 私が加護なしなので加護について自分なりに勉強した事がある。


 そして、主たる貴族がどんな加護を持っているかは把握している。


(レアな加護ではあるけど『だから何?』て思っちゃうのよねぇ……)


 聖女とか勇者とか正直な話、平和な時には役に立たない加護だったりする。


 そんな事口には出せないし負け惜しみだと思われるけどね。


 ていうか、そろそろ誰か介入しないかなぁ、楽団の人達が困ってるよ。


 そして、12時を知らせる鐘が鳴らされた時だ。


「うぅっ!?」


 突然男爵令嬢が苦しみだした。


「ど、どうしたんだっ!?」


「はぁはぁはぁ……」


 心臓を抑えてそのまま倒れ込む男爵令嬢。


「血、血が出てるぞっ!」


「だ、誰かっ!? 医者を呼べっ!?」


 男爵令嬢は体のそこら中から血を流しあっという間に血溜まりが出来た。


「な、何が起こっているんだ……」


「わ、私は関係無いわよっ!? 確かに嫌がらせはしたけど毒なんかは入れてないわっ!!」


 呆然とする王太子様、叫ぶ公爵令嬢。


 まさに阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。


 そして、男爵令嬢に起きた異変が更にパニックを大きくした。


 どろり、と男爵令嬢の体が溶け出したのだ。


 そうなると会場は悲鳴やら絶叫やら気絶者が出たりと大混乱になった。


 そのまま男爵令嬢はドロドロに骨まで溶けて跡形も無く消えてしまった。



「……で、君はどう思う?」


「どうと言われましても……」


 あれから1か月が経過した。


 国は聖女に起きた惨劇を徹底的に調査した。


 勿論、会場にいた者全員に事情聴取が行われ私も聞かれた。


 その調査官が今私の隣にいる第2王子であるレンス様。


 因みに私の数少ない話し相手の1人である。


 あ、予定通りに私は実家を出て田舎に引っ越してスローライフを満喫中です。


「ていうか、よくこの居場所がわかりましたね、誰にも言ってないのに」


「ははは、王家の調査機関をなめちゃ困るよ」


「私みたいな加護無しの相手をするのは殿下ぐらいですよ」


「僕は加護について研究してるからね、エリアナ嬢だって加護についてはある程度の知識はあるだろう?」


 そう、レンス様とは図書館で出会って意気投合したのよね。


「それで、男爵令嬢の件ですよね、加護が関わっているかどうか、ていう話ですよね?」


「そう、この国は加護を絶対的評価をしている。 もし関わっているのであれば認識を改めないといけない」


「そもそも加護の解釈が間違っているんですよ」


「加護の解釈?」


「はい、加護は『神から与えられるから良い物』では無く『この世界で生きていく上で必要最低限な物』なんです。 かつてこの世界には魔王や魔族が存在して人類は生きるのに必死でした。 神はそんな人類の為に与えられたのが加護である、とある文献に載っていました」


「それがいつからか神からの贈り物みたいな解釈になっていた、と。 でも魔王や魔族は倒された筈では?」


「いいえ、魔王は倒していませんしそもそも倒せないんですよ、勇者や聖女には」


「えっ!? でも我が王家は魔王を倒した勇者の末裔なんだけど」


「それは後に王家が盛ったんでしょう、私が読んだ古い文献には魔王が倒されたという言葉は載っていません、その代わり『封印された』という言葉は載っておりました」


「魔王は倒されたのではなく封印されている、という事か……、ん? そうなると聖女の役割は?」


「そうなんです、ここからはあくまで私の個人的な意見になりますが、聖女は魔王を封印する為の生贄の役割だと思います」


「生贄っ!?」


「はい、魔王の封印は絶対では無いです。 封印する力は徐々に弱まるでしょう、その時に誰が封印するのか……」


「勇者や聖女……」


「えぇ、そうです。 多分、今年は封印が弱まる日だったんでしょう。 そこで神は聖女を生贄にした……」


「下手したら兄上も生贄になっていた、というのか……」


「まぁ、そうなっていたかもしれませんしもしかしたらまだ封印する力が集まっていなかったら……」


 そう言うと血相を変えたレンス様はすぐにお付きの者に連絡を入れた。


 後日、王太子様が亡くなった事が発表された。


 あのパーティー以降寝込んでいたらしいが結局体調が戻らなかったらしい。


「多分、聖女と同じ死に方をしたんでしょうね」


 婚約者だった公爵令嬢はなんでも引きこもりになってしまったらしい。


 まぁ、目の前であんな死に方されたらショックを受けるのもわかる。


「加護って必要なのかしら……」


 なんか加護に振り回されている、というか神の手に踊らされている感じがする。


 それに比べたら私はなんて自由なんだろうか。


 私は加護なしで良かった、と思っている。


     

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