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⑥Day1



今日はD駅での泊まり勤務の為、A駅での点呼の後、荷物鞄を持ち、電車に乗ってD駅へと向かう。大体この時間は朝の通勤通学のラッシュ時と重なる為、車掌室に乗せてもらう事が多く、たまにA駅やC駅でお世話になった先輩方が車掌になられていて、ばったりそこで再会するなんて事もある。今日もそんな「当たり日」で、こういう日に限って何かと忙しくなる傾向がある為、自然と気が引き締まる。



D駅到着後、駅室内に入るとA駅同様、改札窓口と券売窓口がL字型に連なっており、前日からの泊まり勤務「明け」のC駅に所属する契約社員の金子さんとD駅当直の橋本さんが、両窓口に立たれて業務されている。二人を横目に一言挨拶を交わし、駅室内奥にある社員ロッカーへと向かい、着替え等が入った荷物鞄をしまう。交代時間までの待機中、今日の泊まり勤務をご一緒する当直の木原さんと挨拶がてら会話し、交代時間15分前位になると、前日の当直である橋本さんによるD駅引き継ぎ点呼が二人に行われ、交代5分前には改札窓口に向かい、金子さんと交代し、業務の引き継ぎを行う。


「列車の遅れも、引き継ぎも無いからあとよろしく。」


金子さんはC駅所属の契約社員で自分より二歳年上の三ヶ月程後輩。ほぼ同期に近い為、年上の兄貴的な存在だ。


「了解しました。」


すると、



「明日の飲み会参加すんの?」


金子さんが、明日の夜、C駅近くの居酒屋にて開催予定の飲み会について自分に参加の確認をしてくる。


「はい。『明け』なんで嫌なんですけど。」


そう言うと、



「まぁ、寝てたいわなぁー。」


「はい。」


「俺も参加するから。また明日よろしく!」


そう言って金子さんが窓口を後にされる。



「お疲れ様です!」


金子さんに挨拶をして、泊まり勤務開始の気合を入れる。



その後、自分は午前の業務を無難にこなし、当直と入れ替わる形で昼休憩に入る。駅前のコンビニで昼食を買い、駅室に戻ると、何やら室内が少し騒がしい。見ると駅室内には、ベテラン清掃員のおばさん三名とあの新人清掃員の計四名が清掃道具を持ちながら立ち話をしつつ、待機されている。すると室内奥のトイレ方面からC駅の海原係長がこちらに来られて、



「イヤー、相当汚いですよ。」


「どうされたんですか?」


自分も気になり海原係長に話を聞く。



「ああ、今日この駅の風呂場を清掃員の方々に掃除してもらう事になっていてね。今見てきたんだけれど、ありゃ酷いな?!」


D駅の駅室内には、まだ女性専用のロッカールームやトイレ、風呂場等が設備されておらず、その為、泊まり勤務は全て男性の駅員と決まっている。その男性社員たちが長年、綺麗に掃除するのを怠ってきたせいか、風呂場がとんでもなく不衛生な状態となっていた。なので、


「潔癖な人は絶対に入れないですよ。長年の汚れがこびり付いてますから。」


それを聞いた海原係長が、


「まさか宮島くん、シャワーだけじゃなくてあの風呂に入ってるの?」


「はい。一応自分はちゃんと毎回風呂場掃除してますし、風呂沸かすんで自分は入ってますよ。ただこびり付いてる汚れがなかなか取れないんですよ。」


それを聞いて、



「君、凄いな。今日は風呂掃除もしなくていいから宮島くんはラッキーだな。綺麗になった風呂にも最初に入れるぞ。」


その海原係長の話を聞いて、



「皆さんよろしくお願いします。」


四人の清掃員の方々に向かって一礼し、強くお願いをする。



「どんな感じだろうね?話を聞く限り腕が鳴るじゃないか。ねぇ?」


「本当だ。マヤちゃんも一緒に頑張って掃除しようね。」


「はい!」


四人の清掃員の方々の会話を聞きながら、



《へぇー、“マヤちゃん”って言うんだ。けど、本当に明るくていい子だよなぁ。ただ、あの風呂場を見たらきっとドン引きされそう。》


そう心の中で呟くと、清掃員の方々への挨拶を終え、一人、休憩室で昼食を済ませる。



昼休憩後、また当直と交代し窓口業務に入るのだが、ここからが長い。夕方16時にC駅から駅員が一人、ヘルプで来てくれるまでの時間、休憩無し。当直は当直業務を駅室内にて行っている為、よほどの混雑が無い限りは窓口には来られない。よって券売窓口と改札窓口の両窓口の業務を一人で兼務する事になる。列車の遅延などがなければ、さほど問題なく業務を行えるのだが、場合によっては窓口を閉めないといけない事も。今日も休憩明けにこんな事が、



「すいません。」


通学帰りの私立の制服を来た小学二年生くらいの女の子が、券売窓口へとやって来る。



「いらっしゃいませ。今日はどうしましたか?」


女の子は、少し不安そうな表情で、



「ママの車が迎えに来てなくて。困ったらこれを使ってそこの電話から電話しなさいって言われてるんですけど、使い方が分からないんです。」


女の子は、自身の定期入れから取り出した一枚のカードを窓口の方へと差し出して、自分の方に見せてくれる。



「テレホンカードだね。じゃあ、駅員さんが教えてあげるからちょっとだけ待っててくれる?」


この時間、当直は休憩中で近くにおらず、この場合、両窓口ともに一度窓を全て閉めてからしか駅構内に出れない為、列車到着の時間を見計らって両窓口を閉め、この券売窓口の真正面の通路に設置された公衆電話へとこの子と一緒に向かう。



まず、公衆電話の受話器を自分が上げて、



「それじゃあ、ここにそのカードをこの向きで入れてみてくれる?」


女の子にテレホンカードを投入口へと入れてもらい、



「じゃあ次に、ママに繋がる電話番号を押してみて?番号わかる?」


女の子は定期入れから電話番号の記載されたメモ用紙を取り出し、その子本人に番号を押してもらう。そして受話器を渡し、



「どう?繋がった?OK?」


どうやら親に繋がったようで、女の子はしばらく会話をして受話器を切る。すると、



「ママが時間間違ってたって。30分くらいしたら駅に着くって。」


それを聞いた自分は、この子の目線に合わせて少ししゃがむと、



「よかったね。じゃあ、時間までここで待ってるといいよ。そこの窓から駅員さんが見ててあげるから。大丈夫。」


券売窓口の方を指差して、女の子にそう伝えると、



「うん、ありがとうございました。」


そう言って、自分にお辞儀をしてくれる。



「どういたしまして。」


自然と笑顔になり、自分は手を振りながら窓口へと戻る。


両窓口を再び開き、公衆電話の横で待っているさっきの女の子を券売窓口から見守りながら、



「こんな小さな子が、一人で電車に乗って毎日通学してるんだもんなぁ。もちろん、この子は凄く偉いんだけど、流石にこの国がちょっと平和過ぎるというか。俺がこの子の親なら毎日めちゃくちゃ心配だけどなぁ。」


時間が来たのか、その子が自分に向かって手を振るので、自分も券売窓口から笑顔で手を振り返す。すると、女の子は嬉しそうに小走りで出口の方向へと向かって走って行った。



時計を見るとそろそろ交代の時間。今日のC駅から来るヘルプの駅員は真鍋くん。交代時間となり、彼に引き継ぎ等を行ってやっと30分程度の休憩に入れる。休憩後、



「めっちゃ綺麗になってますやん!」


風呂場に入ると、今日清掃して下さった四人の清掃員の方々の技術と努力の成果を目の当たりにし、一人感動しながら、綺麗になったお風呂を沸かす。そして、ロッカールーム、休憩室、駅室内のゴミ掃除を一時間以内で済ませる。


そろそろ窓口業務へ交代の時間。ここから夜の勤務となり、夕食休憩を挟んで終電前まで

勤務が続く。そして、



「お疲れさん、宮島くん交代するよ。」


この当直の木原さんとの交代が済むと今日の勤務は終了。翌日の「明け」の勤務へと続く。



「ありがとうございます。引き継ぎ等は特にありません。落とし物の登録済ませたら、先に風呂の方入らせて頂きます。」


そう自分が話すと、



「そうそう、今日、綺麗にしてもらったから、ゆっくり浸かってきて。きっと疲れもとれるよ。」


「ありがとうございます。そうさせて頂きます。」


そう話すと、お客様の駅構内の忘れ物や落とし物の登録等を済ませ、自身の被る駅員の帽子を脱いでロッカールームへと向かう。そして続けて制服を脱ぎ、着替えとタオル、そして歯ブラシを持って風呂場に向かう。


風呂場に入って、まずシャワーで身体をしっかりと洗ってから、


「よいしょー!」


のかけ声と共に綺麗になったお風呂にしっかりと肩まで浸かる。そして、



「ひゃー沁みるー。清掃員さん達、ありがとうー。」



感謝の言葉が、自然と溢れ出た。




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