⑤ハンドパワー
A駅で券売窓口業務に入る自分は、お客様の少ない比較的落ち着いたこの時間帯、切符の発券練習の為タッチパネル式の発券画面を指で操作して練習をしている。すると、
「あんたってさぁ、爪になんか“マニュケア”とかしてんの?」
改札業務に入る富山さんに突然そう聞かれ、
「えっ、まさか。何もしてませんよ?」
少し自身の指先の爪を気にする。
「けど、やたら爪綺麗じゃん?」
珍しく富山さんが、パネル画面に触れる自分の指先を何故か気にされているので、
「それ、結構言われるんですよ。けど、その都度否定してて。」
すると横から、
「私も思います。宮島さんの手、綺麗だなって。」
自分より三歳年下で半年先輩の女性契約社員の寺田さんが、券売窓口の資料を整理しに来られた模様。
「それも結構言われるんです。何なら幼稚園の頃から言われてますから。」
それを聞いた富山さんが、
「どういう事?幼稚園からって?」
一旦、発券練習するのを止めて座席に座りながら二人に向かって話を始める。
「手をやたらと褒められるんです。例えば、幼稚園で遠足とかに行くと隊列組んで隣の列の女の子と手を繋いで一緒に歩くでしょ?」
「うん。」
「そうすると、その手を繋いでる子が、僕の手がすごく温かいって言うんです。」
富山さんもこちら側に体を向けて話を聞かれている。
「で、毎回手を繋ぐ度に、自分に温かいね温かいねって言ってくれてて。」
「そうしたら真冬の寒い日に、自分がお昼休みに外で遊んでいると、その子が駆け寄って来て。」
「うん。」
「今日は、とても寒くて手が冷たいからこの手を温めてほしいって言われて。」
「えっ、カワイイその子。」
寺田さんが食い入るように自分の話を聞いている。
「で、いつも温かい温かいって言ってくれてたから、その子が差し出した両手をいつもの感じで握ってあげたんです。」
二人は真剣な顔つきで自分の話を聞き入っている。
「そしたら、違うって言われて。こう、おにぎりを結ぶような形で両手を包んでほしいって。」
すると寺田さんから、
「やってあげたんですか?」
そう聞かれたので、
「はい。お昼休みそれで潰れたんですけど。」
すると、
「カワイイ!!その子、絶対宮島さんの事好きでしたよ!」
そう言いながら、寺田さんが自分の肩に手を当てて軽くポンポンと叩く。
「その時、ずっと嬉しそうに温かい温かいって言ってくれてて。何かその子の事が今も記憶に残ってるんです。」
「他にもあんの?」
自分の話を富山さんの方から聞きたがるのも珍しい。
「手ですか?小学生の頃もやっぱり同じように列の隣の女の子からバレンタインにチョコ貰ったりとかはしてましたね。やっぱり温かいって言われてました。」
「じゃあ、本当に温かいんだ?」
富山さんにそう言われ、自分の手の平を広げて見つめながら、
「自分じゃ全く分かんないんですよ。ただ、大人になってからは、指とか爪とか全体的に手が綺麗だねって褒められるですけど。何の手入れもしてないし、どこが綺麗なのか自分じゃ全く分からないんで。」
「異性が好む手なんですよ。何かドキッとするんです。」
寺田さんがそう話すと富山さんの方を見つめながら、
「もしかして、富山さんも…?」
そう寺田に聞かれた富山さんは、改札の方へと体を向け直し、
「私はないよ。ただ爪が綺麗だなって思っただけだから。」
それを聞いた寺田さんが、更に改札の方へと詰め寄り、
「けど、富山さんも結構、宮島さんの事気にしてません?」
寺田さんのこの発言に富山さんはすかさずこちらへと振り返り、
「はぁ?なんでこんなポンコツの事気になんなきゃいけないわけ?!」
何故か急に自分の事を責められ始め、
「富山さん!そんなポンコツって言い方は酷くないですか?!」
寺田さんも参戦し、自分を挟んで両窓口で「宮島ポンコツ論争」が巻き起こる。
「ちょっと待って下さい!だんだん、僕へのディスりに話が変わってませんか?!」
自分の指摘に二人の論争が一旦止まる。
「まぁ、全体的にまとめると、お二人とも褒めて頂いてどうもありがとうございます。」
お二人に向けて軽く会釈をする。
「上手くまとめたね。」
富山さんからお褒めの言葉を頂く。
「実は、喧嘩の仲裁も得意なんです。」
そう自分が話すと寺田さんが、
「あっ、この前、改札で酔っ払いの方の口論を止めに入ってましたよね?!あれ、かっこよかったなぁ。」
このお二人がいると何か疲れる。




