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⑮ロッカールーム



歓迎会での騒動の後、A駅管轄内では、その日自分がキレた事によって話が一気に広がり、同時にみやびさんとの交際も皆にバレる事に。そして話は変わるのだが、何故か急に寺田さんが来月から長期休暇を取られた為に自分を含めたA駅の契約社員が皆、その分来月の仕事に多く入らなくては行けなくなり、色々と大変な事になってしまった。


嬉しかったのは、北尾係長と佐藤くんが主催で自分の為に「宮島を慰める会」なる飲み会をA駅最寄りの飲み屋で開いてくれた事。C駅からも話を聞きつけた金子さんが来てくれて、なにかと皆に色々と励ましてもらった。本当に感謝しか言葉が出てこない。



その数日後、



A駅駅室内にある会議室で行われる勉強会。


あの歓迎会での騒動後、初めてまた“奴”と顔を合わせる事に。


しばらくすると会議室にあの係長が、C駅のお仲間を引き連れてこちらへと歩いてくる。当然、自分は、テーブルの座席に座って一切目を合わせずに視線を逸らし続ける。横に座る佐藤くんの方が気合いが入り、相手を睨みつけている。


奴は、またこちらを見ながら相変わらず、ニヤニヤとほくそ笑み、自分の座る席を通り過ぎると、後ろの空いた席へと向かって歩き去って行く。



「先輩、俺、ガン飛ばしといてやりましたよ!」


佐藤くんの一言に、



「そんな事しなくていいの。」



勉強会も終わり、帰宅する為、一人、ロッカールームで制服のネクタイを外していると、



「よ、宮島くん。お疲れ様。」


また、あのクソ係長が、しつこくこのロッカールームにまで顔を出し、堂々と室内に入って自分へと話しかけてくる。当然こちらは無視を決め込む。



「あれ?こちらから挨拶しに来たのにその態度はよくないんじゃない?」


「この前の件は謝るよ。すまなかった。いや、彼氏がすぐ側にいるなんて知らなかったから、つい話ちゃってね。怒るんならあの辻くんの方にしてほしかったなぁ。」


「まぁ、同じ“兄弟”って事で、これからはお互い仲良くしようよ…」


《本当に、馬鹿に付ける薬はないって事か…》



「お前の頭の中はその事だけか?クズが…」


相手の方は一切見ずにそのまま制服を着替えながら、冷淡な口調で自分がそう言い放つと、



「何だと?お前、もっぺん言ってみろ!」


彼の方からわざわざこちらへと出向いて来てくれるので、



「聞こえねぇのかよ?!クズだ!つってんだよ?!」


こちらからも彼の方へと出向いて行って差し上げる。



「俺は上司だぞ?」


目の前でさえずりを奏でるので、



「こっちは、お前の事を上司だとも先輩だとも思ってねぇんだよ?!気安く話しかけてくんじゃねぇよ?!」


少し相手には威圧的に聞こるかもしれない言葉遣いと、少し鋭めの視線で、終始彼には自分の正直な態度でもって話しかける。



「俺はあんたの事を、人としても漢としても心底軽蔑してっから…」


こちらが彼に詰め寄ると、彼は視線を外し、



「そりゃどうも…」


そして、こちらを逆に睨みつけ詰め寄りながら、



「けどなぁ…お前だって清廉潔白な人間なのかよ?!そんなに俺と変わんねぇだろ?!」


こいつは俺の何を見てそんな話をしているのだろうか。自分を正当化する事で頭がいっぱいなようだ。



「お前らクズと一緒にすんじゃねぇよ!!少なくともお前みたいに泣かせるような事をしたことは一度もねぇよ!!」


自分がそう言い放つと、



「フッ、言ったねぇー。」


ほくそ笑みながら話すこいつの言葉を聞き、まだこいつは何もわかっていない事を悟り、ギアを一つ上げてこいつの胸ぐらを掴み、そのまま力任せに目の前のロッカーに相手の背中を押しつけて眼光鋭く睨みつける。そして、



「次に、彼女の事を人前で話してみやがれ?地獄の果てまでお前を追いかけてって、その口を封じてやる!!わかったな?」



しばらくの沈黙の後、



“バンッ!!”



自分の目の前のロッカーを勢いよく平手で叩く。こちらは眼光鋭く相手を睨みつけたまま、一切目を離さない。

しばらく続けると、相手の顔色がみるみると変わっていき、小刻みに少し震えだした。そして、



「…わかった…。」


その表情をこちらはじっと見つめて、こいつが理解したのかどうかをしっかりとこの目で確認する。そして、



「二度と、語るなよ。」


相手を睨みつけたまま、鋭い眼光はそのままに、冷徹な口調でこいつにそう話すと、小刻みに唇を振るわせてこちらを見ながら力強くしっかりと頷く。


流石に一応の理解はある顔をしていた為、胸ぐらから手を離してやると、何も言わず、一目散に逃げるようにしてロッカールームから出て行った。


自分もかなりスイッチが入ってしまい、しばらくそのスイッチの切り替えが上手く出来ずに鋭い目つきのまま、その場から自身のロッカーの方へと戻って行く。その間、学生時代、空手部だった頃の記憶が蘇っていた。



《ああいう奴には、こちらの心の「真剣」をちゃんとちらつかせとかないと。また同じ事を平気でするからなぁ。まぁこちらの“本気”を全身に浴びせまくったから、もうしないとは思うけど…》



《クズに付ける薬はやっぱ無いって事かぁ…》


自身のロッカー前まで戻るとまた制服を着替えながら、帰り支度を続ける。



《はぁー、こういう怒った時の自分ってほんと嫌いだぁ。》


《また、帰りにスイーツを買って帰らなきゃダメだな。これは。》



このままだと次にみやびさんと会う時には、絶対に太っている事を確信する自分であった。





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