2つの瘴気溜まり②
この世界は瘴気溜まりから魔物が生まれる。
規模の小さなものであれば脅威ではなく放置して差し支えない。また魔物から採れる魔石は大変貴重で有効活用されていた。
数年に一度、危険レベルの魔物になるであろう瘴気溜まりが発生するため、各国神殿で遠見の術を駆使して監視し、発生後即座に派兵・討伐している。
かつてある国は初動対応が遅れ国土の半分を失った。魔物は瘴気溜まりから生まれた後、空気中の瘴気を取り込み狂暴化していくのだ。
生まれたら即討伐する。それが鉄則だった。
神殿にある転移の陣は、人数など様々な制約があるが現地へ即座に人を送ることができる。
雲を掴むことが出来ないように、黒い靄のような瘴気溜まりにはいくら攻撃しても無意味だった。
歴史で語られるかつて現れた聖女のように、聖魔法が使えれば瘴気溜まりの状態で浄化することが出来るのだが…。
早朝のことだった。
神殿は突如離れた地点で発生した二つの瘴気溜まりに騒然とした。
一つは巨大な瘴気溜まり、もう一つは小さな瘴気溜まり。
神官たちは一方の巨大な瘴気溜まりに愕然とする。
徐々に大きくなるのではなく、このように突然発生するのが常だった。
急遽王城で会議が開かれ、巨大な瘴気溜まりへ王弟率いる軍の精鋭を、小さな瘴気溜まりへ第二王子、辺境伯、神官長を送ることが決定した。
小さな瘴気溜まりは普段であれば取るに足らないものだったが、魔力場の乱れや様々な要因で遠見の術を見誤ることがごく稀にあった。
同時期に発生した二つの瘴気溜まりを取り違える可能性があったのだ。
第二王子、辺境伯ともに単身でS級魔獣を討伐できる力を持っている。
神殿の転移陣で送ることができる限られた人数の中で、万が一に備え、万全を期す布陣だった。
魔王レベルの凶悪な魔物が間もなく生まれてしまう。
国の命運を掛けて、百年に一度発生するかどうかの巨大な瘴気溜まりへ最大限の戦力を注いだ。
…しかし、不幸なことにごく小さい瘴気溜まりと思われた方が本丸であったのだ。
神殿の転移陣で瘴気溜まりの元へ飛ばされた第二王子、辺境伯、神官長の3名は絶望的な状況を悟る。
神殿の転移陣は神官たちが日々魔力を注いでいるが、今回の規模の人数を送ったことでしばらく使用できない。
王弟率いる軍が飛ばされた場所はここから遠く離れ、
近隣領地の騎士団が援軍に来る手筈にはなっているが、戦力として大きく期待は出来なかった。