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89. 能力「固有加護」


「あの、ごめんなさい。僕、族長様がそんなに考えてくれてるって知らなくて、失礼な態度とりました」


 

 僕は深々と頭を下げる。正直、族長様がここまで親身になって、将来の事を考えてくれてるとは思ってなかった。化猫の村に勝手に人間を連れ込んだ上に、勝手に家まで立てしまった。しかも族長様からの呼び出しに応じたのも二週間後というズボラ振り。

 あまりに礼節に欠けていた。


 頭を上げられない僕に対して、族長様は柔らかく笑っていた。


 

「お主はまだ若い。迷宮攻略に人間との出会い。お主ほど忙しない猫もそうおらんよ。気に病む事はない。それだけ考えが及んでいるだけ、立派なものだよ」


 

 族長様は僕の肩をポンと優しく叩く。

 僕はゆっくり顔を上げると、族長様は目を細めて優しく微笑んでいた。まるで僕のことを息子と思ってくれてる様に。暖かな気持ちに僕の心も安らぐ。これが族長様が族長様たる所以なんだろう。

 


「ありがとうございます。取り敢えず、今後の将来については、ティナと相談しようと思います…………僕も、心の準備はしておきます。でも少しだけ時間が欲しいんです」


「良い良い。せめて儂が生きているうちに、よろしく頼むよ」


 

 族長様は僕の頭を優しく撫でる。ティナとは違う手の質感。その手つきは猫を撫でると言うよりも、赤ん坊を撫でる手つきの様に思えた。今は獣人の姿だけど、族長様に撫でられる分には、なんの恥ずかしさも感じなかった。将来に対する不安な気持ちも、安らいだ気がした。


 族長様は一頻り僕の頭を撫でてくれたけど、ふとその手を止めてティナを一瞥した。

 

 

「あぁそうだ。ティナよ。お主に一つ聞いておきたい事があったのだ。能力「魔導者」についてのことなのだが…………確か、魔法について色々と知ることができるとか」


「……は、はい」



 少し不安気に俯くティナを見て、僕は我に帰る。

 族長様もどう言う経緯があって、ティナがこの村で暮らす事になったのかは知っているはずだ。族長様は将来について色々考えてはくれるけど、やっぱりその感性は猫よりなのかもしれない。

 僕は族長様を見上げて不満気な視線を送り、強気に胸を張る。

 

 

「族長様。ティナは能力のせいで散々な目に遭ってるんですよ。例え族長様であれ、好き勝手にティナのことは利用させませんから」


「レイ……」

 


 僕の強気な意思に、族長様は困った様に頬を指で掻く。ティナは少し安堵した様に僕の名前を呟いていた。少し強い言い方をしてしまったけどそれ以上に僕は、ティナの心の傷に触れさせたくなかった。

 族長様は少し逡巡すると、少し苦い顔をして唸った。

 


「う、うぅむ。なんとも…………そうか。儂も切り出し方として無神経だったやもしれんが、向き合わんわけにもいかんだろうて。儂もティナの意思を無視するつもりはない。話だけでもさせてくれないだろうか」


「……わ、分かりました。それで私の能力が、どうかしたん、でしょうか」


 

 ティナは精一杯の丁寧な言葉遣いで族長様に応える。少し身構えてはいるけど、以前よりかは魔法に対する抵抗感は薄れてる気がした。それでもティナにとって能力と魔法は、家族を失う事になった元凶なのだ。

 僕は自身の感覚を研ぎ澄ませる。少しでもティナが辛くなったりしたら、ストップはかけなければいけない。

 族長様は警戒する僕に、肩を竦めていた。

 


「まず、それを説明するには儂の能力を見てもらうのが早いな。『ステータス』」


 

 族長様はそう言うと、僕達の目の前に『ステータス』を表示させた。僕は『ステータス』を感覚でなんとなく使っていたけど、厳密に言うと『ステータス』も魔法に当たるらしい。

 僕は族長様の『ステータス』に目を移す。


 

  ――――――――――

  種別:魔物種〈モンスター〉

  種族:化猫〈レッサーワーキャット〉

  能力:固有加護

  技能:『変化』『空蹴り』『隠密』

  ――――――――――



 『ステータス』

 それはその生物の基本的な情報を表示できる魔法。


 僕の場合は他者の『ステータス』を勝手に除き見れるけど、基本的には他者からの合意がなきゃ見れないと言うことを、最近ティナに教えてもらった。

 まぁ確かに、勝手に個人情報を他者に共有するってかなりまずいしね。そのことを教えてもらってからは僕も、『ステータス』の扱いには慎重になっていた。


 族長様は僕達が情報を確認したのを見ると、そっとステータスを閉じた。


 

「見ての通り、儂は「固有加護」という能力を持っておる。儂の理解しているところ、この能力――正直よく分かっておらんのだ」


「え? ま、全くですか?」


 

 族長様は眉根を寄せて、手持ち無沙汰に顎髭を触る。族長様から漂う感情のニオイからも、それが嘘だとは思えなかった。


 確かに僕も思った事はある。

 さっきの『ステータス』は技能や能力の「名称」を表示させられる。

 しかしそれがどんなものなのかの詳細の説明は、表示させられないのだ。僕もこの世界に生まれたばかりの頃、この役に立たない説明書に頭を悩ませたものだ。


 族長様は嘆息してゆったりと首を振った。



「全くというわけではない。これまでの猫生、巡り合わせには恵まれておったし、この村を守る結界も、たまたま発現したもので意図的に張ったわけではないのだ。それを踏まえれば、「運命」や「結界術」に長けた能力であることは分かっておる。しかし具体的に、どういったことができる能力なのかがイマイチ分からんのだ」


 

 族長様の能力がどんな能力なのか、村のみんな知らなかったけどこれで合点がいった。そもそも族長様自身も大雑把にしか理解できてないのだから、村のみんなが知るわけがなかったのだ。


 これまでは無自覚でも能力は発動してたし、気にして無かったんだろう。でももう族長様も百年以上生きてる。後何年生きれるかも分からない今、能力がいつ途切れてしまうのかも知っておかなくちゃいけない。

 族長様はこの村に結界を張っているから、村の外に出られないし、ティナとの出会いはちょうど良い機会だったのだろう。


 ティナは深刻そうに顎に手を当てて考え込んでいたけど、決心した様に一つ頷いた。

 


「…………そうですね。それぐらいであれば。わかりました。『解析鑑定〈アナライズ〉』」



 ――キン

 


 魔法陣の構築完了した音を、僕はすぐに聞き取った。僕の聴力だからこそ聞き取れる、特徴的な甲高い音。

 ティナは容易に魔法陣を構築し終え、目の前に表示させていた。魔法の知識はない僕だけど、感覚的にこの魔法陣がとても整えられた美しいものだって事は理解出来る。


 さて、実は僕も族長様の能力について興味はある。僕は一通り表示された解析の結果に目を通した。


 

  ――――――――――

  能力:固有加護

   ・「加護」を付与する能力

   ・「固有結界」を創造する能力

  「加護」「固有結界」の効力は任意で条件指定可能。

  効力/条件数は能力者の魔力量に依存する。

  効力の条件指定の方法は強く思い続けること。

  

  【加護】

  魔力量増加。魔力増加率上昇。魔力消費率減少。

  身体強化。生命力強化。思考力強化。魔力還元。


  【固有結界-天猫守護-】

  耐久力強化。外敵弱化。適応環境調整。

  自然治癒力上昇。魔法攻撃守護。物理攻撃守護。

  認識阻害。魔力回復率上昇。加護効力上昇。

  ――――――――――


 

「ほほぉ、これはたまげたのぉ。なるほど。これほどまでとは思わなんだ」


 

 族長様は感嘆し、ティナの表示させた詳細に目を通していた。確かにかなり幅広い能力だ。というか詳細説明のない『ステータス』表示だけで、こんな複雑な能力をどう把握しろと言うのだ。


 族長様は「運命」にも関連する能力とは言ってたけど、おそらくその時々で「加護」の条件を無意識的に変えていたんだろう。

 でも無自覚とはいえ、かなり興味深い効果内容に僕も密かに感嘆を漏らした。

 


「なんとも自由度の高い能力ですねー。しかし流石族長様です! この能力の難点は、族長様の魔力量に効力や条件数が依存するところ。ですがその難点をカバーするために、「加護」の効力に「魔力還元」を指定して、更に「固有結界」の効力で「魔力回復率上昇」も指定している。このおかげで僕達への負担もなく、族長様の負担になることもなく、結界や加護を維持できてる。すごい画期的な循環ですね」


 

 これなら村の猫達がいなくならない限り、この村の結界に衰えないと言う事。僕ですら魔力が族長様に還元されてる事に気がつかなかったのだから、それだけこの「魔力還元」と「魔力回復率上昇」がうまく噛み合っていると言う事。いや逆に、収支で言えば上昇率のほうが上とさえ思える。


 族長様は僕の言葉に、少し気まずそうにしながらも胸を張る。まぁ全部無自覚なんだから、受け取りずらいことを言ってしまったのかもしれない。


 

「そ、そうだろうそうだろう! ぐ、偶然でしかないのだが…………しかし、であれば「加護」の効果の中に「ステータス効果の強化」などあっても良いかもしれんな。毎回ティナに頼み確認してもらうのも忍びない――――いやすまない。また置いてけぼりにしてしまったな。ティナよ、能力の解析感謝する。その礼と言ってはなんだか、儂から君の能力について、答えられることは答えてみせよう」



 族長様は表情を柔らかくして、ティナへと問いかけた。

 でも僕はその言葉に、少しの突っかかりを覚えた。なぜお礼が「能力」についてなのか。族長様ならその他のお礼の方法だって思いつくはずなのに。

 族長様はティナの能力についてどう考えているのか、いまいち理解できない。族長様から漂う感情のニオイには悪意はないし、責任感すら感じ取れた。


 

「で、でも族長様はティナみたいな魔法に詳しくなるような能力ではありませんよね? 別にそんな能力の事じゃなくてもいいんじゃ…………」


 

 族長様は僕の肩に、そっと優しく手を置いた。僕のこの反応は予想通りだった様だ。

 


「お主の言いたい事はわかっておる。レイよ、ティナが自身の能力と向き合う事で、辛い思いをしてしまうかもしれない。お主のその感性は間違いないのだろう。しかしだからと言って、その問題を遠ざけて隠してしまう事は、優しさではないよ」



 優しい声色。威圧感のない声量。それなのにその言葉は、僕の心に深く突き刺さった。確かにその通りだ。僕がしようとしていたのは、単なる問題の先送りだ。根本を解決しない限り、ティナの心が完全に癒える事はない。

 僕は族長様に言い返す言葉もなかった。族長様は俯き加減な僕の頭に手を置いた。


 

「ティナは優しく、そして心の強い子だ。これ程の過酷な境遇の中でも光を見つけ出し、前を向うと努力しておる。人生を終わらせる選択をせず、自身の不幸を言い訳に我侭を言い続けたりもせず、異種族さえ受け入れて、過去に囚われ留まることさえしなかった。これ程に勇気のある子はそうおらんよ」



 その通りだ。ティナは本当にまっすぐで勇気のある子なんだ。僕なんて五年経っても未だ、前世の家族のことを引きずって、猫としての生を何度決心しても、いつも揺らいで結局立ち止まってしまうのに。僕には新しい居場所も家族もいるのに。

 ティナは全てを失ってなお、自分の居場所をしっかりと見つけて努力を惜しまない。前世で十七年、今世で五年生きている僕より、よっぽど立派だと常日頃思ってる。

 


「能力と向き合う事はティナの問題であり、レイが抱えるべき問題ではないのだ。お主ができる事は、ティナが立ち止まりそうになった時に手を差し伸べ、見守ってあげる事。もう少しだけ、ティナのことを信じてあげても良いのではないかな、と、この老いぼれは思うかな」



 族長様は僕の頭をまた優しく撫でる。

 僕は何も言えなかった。

 

 そうだ、僕がティナが立ち直るための道を塞いでどうするんだ。この世界に不安のない人生なんてない。不安を全て避けて生きる事はできないし、避けられたとしてそれは幸せとは言えないと思う。だってその不安は避けてるだけで、なくなるわけじゃないのだから。

 僕はティナのことを信じていると思っていた。でも、心の中でティナのことを「守るべき存在」と認識して、対等に見てあげられてなかったのかもしれない。

 そう考えると、自分が情けなく思えた。



 ふと気がつくと、俯く僕の手をティナが握ってくれていた。僕はそっと顔を上げる。ティナは少し迷っている様に、でも意思のこもった双眸で僕を見つめてくれていた。


 

「…………私は大丈夫だよ。私ね、レイと出会って、この村で暮らす様になって、前より魔法も、この能力も悪いものじゃないって思える様になったの。この村のみんな、私が魔法を使っても、私自身のの事を見てくれるから」


 ティナはこの村のみんなの顔を思い出す様に、柔らかく微笑む。


「今も不安な気持ちはあるよ。この先私は、この村を出るかもしれないし、また人と関わることもあるかもしれない…………レイも族長様も、私の将来のこと考えてくれてるのに、私だけが立ち止まっちゃいけないって思うの」



 ティナの力強い翡翠色の瞳に、僕は目を奪われる。白銀の長髪と華奢なその身体から儚げな雰囲気を覚えるけれど、その人格にはしっかりと芯が通っている。

 ティナは握っていた僕の手を、胸の前まで持ち上げる。


 

「だからねレイ。これからも私が不安な時は支えてほしい。それでもしも私に少しの迷いの感情とかがあったら、無理にでも背中を押してほしいの」


 

 どこまでも真っ直ぐで力強い言葉に、僕も自然に笑みが溢れた。ティナがこんなに前を向こうと頑張って、それで僕のことを元気づけようとしているのに、僕だけ落ち込んでいるわけにはいかないだろう。


 ティナと比べて僕の心が弱いとか、今はそんな事は関係ない。ティナはこんな僕でも必要としてくれてるんだ。自分に嫌悪して落ち込んでばかりいたら、それこそ僕のことを信じてくれてるティナに失礼だ。


 

「……ティナは本当に強いなぁ。分かった。僕もティナのその勇気に応えたい。でも本当に、耐えられないぐらい辛くなったらすぐに言って。僕はいつでも、ティナの味方だからね」


「ありがとうレイ。頼りにしてるからね」



 そして今度はティナが僕の頭を撫でる。族長様とは違う。少し小さくて柔らかい手。族長様とは違って、マッサージをされてるみたいに心地良い。

 僕は自然とティナの撫でる手に頭を擦り付ける。やっぱりいつも思うけど、耳の付け根あたりの撫で具合がもはや職人技だ。


 

「…………なるほど。大人っぽさがある思っておったが、こんな一面もあるのか。面白い」


 

 忘れてた二人きりじゃなかったんだ。

 族長様の言葉に我に返って、僕はティナの手を優しく押し除ける。ティナと族長様はそんな僕に優しく微笑んでいた。恥ずかしくて顔から火が出そうなほど熱い。



「だ、だからティナぁ! 頭を撫でるのは猫の時と二人きりの時だけだよ!」


 

 そんな僕の言い分を二人は、優しい目で見つめるばかりだった。

 

最後までお読みいただきありがとうございます!


もし本作について「先が気になる!」「なんか面白いかも?」等思ってくださいましたら、『ブクマ』や下あたりにある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』にて評価をいただけましたら嬉しいです!


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