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83. 魔女『ケイシー・バーネット』 その②


「それだけの事を言うんですから、根拠はあるんですよね? 聞きましょう」


 

 ケイシーから笑顔が消えた。彼女のどことなく無機質な瞳が俺を貫く。ただの無表情なだけだってのに、身を痺れさせる様な圧さえ感じる。

 正真正銘、ここからが本番と言うことだろう。もちろんケイシーが「迷宮の王の事を事前に知っていた」と言えるだけの根拠は固めてきている。まぁ、さっき固まったばっかではあるんだが。


 何も臆する事はない。俺は冒険者だ。彼女が魔物側の陣営なのだとすれば、ここで見過ごすわけにはいかない。それが例え俺らの手に負えない相手だったとしても、だ。


 俺は一呼吸おいて、密かに身体に魔力を馴染ませた。


 

「…………地底湖エリアの水面に浮かんでた『魔毒射魚〈トキシテス〉』。アイツに『ステータス』を使っただろ? アレだけ離れてたのによく使えたな」


 俺の質問の意図をつかめず、彼女は軽く小首を傾げた。


「それはアーサーも同じでしょう? あの地底湖エリアに足を踏み入れた時、『暗殺魚』だと最初に口にしたのはアーサーですよ? まぁ彼は皆さんに『ステータス』を共有する気も無さそうだったので、私がしたまでなのですが」

 


 そう、ケイシーの言っている事に間違いはない。あの魚の正体を最初に口にしたのはアーサーであり、その後ケイシーが『ステータス』により魔物の詳細を皆に共有した。

 『ステータス』で得られるのは「種別名」「種族名」「技能」と言った、その生物に関する基本的な情報だ。いくら距離が離れていても、死んでいる生物相手であれば、覗き見る事は難しくはない。自身の魔力の届く範囲であれば、『ステータス』は機能するのだ。



 この流れに関しては、俺も矛盾があると思っていない。


 

「そうだよな。『ステータス』を使ってくれた事に関しては、別に良いんだ。だがあの時アンタ、『ステータス』の情報を共有する前にこんなこと言ってたよな? 「あの特徴的な口の形状」と。「口の形状」ってのは、『ステータス』じゃ得られない身体的な特徴だろ? アンタどうやって、あんだけ離れてた魚の特徴を視認したんだ?」



 その生物の『全長』『体重』であれば、『ステータス』でも確認できたかもしれない。しかし「口の形状」という情報は明らかに「視認して得た情報」だ。流石にアーサーの『暗殺魚』の言葉に引っ張られて、見えもしない身体的特徴を口走るとは考えずらい。


 彼女も今の俺の問いには、少し言葉を詰まらせた。


 

「…………遠方を覗き見る魔法を使ったんですよ」

 

「『ステータス』が使える距離の魚の死骸に、わざわざそんな魔法使うか?」


「相手があの魔毒射魚〈トキシテス〉ならば、目視でも捉えられる様に警戒していてもおかしくないのでは?」


「それこそ無いな。あんな高度な探知魔法〈サーチ〉使って全方位警戒してたんだ。流石に利が薄すぎる。顔面撃ち抜かれるリスクの方が大きいだろうよ」


 

 魔毒射魚〈トキシテス〉は「視覚的情報」と「魔力の流れ」から外敵の位置を把握すると言う。わざわざ敵を目視するために、魔力を一点に集中させるなんて愚策も愚策。撃ち抜いてくれ、と言ってるようなものだ。そんな行為を彼女がしていたとは考えられない。



 彼女の反論が止まった。色々と手探りだが追い詰められてはいる、みたいだ。彼女も真っ当な言い訳は思いつかないようだ。


 しかしそう簡単に口を割る気はないらしい。

 それならば、更に追い込むしかない。


 

「あぁ、ただその後の魔法障壁〈マジック・バリア〉は助かったがな。アンタが魚の接近を探知して、二発目の攻撃を防いでくれなかったら俺も危なかった」

 

「…………要領を得ませんね。つまり貴方は、何が言いたいんです?」



 彼女の声色から、少し苛ついた様子が窺える。

 俺もまだ彼女の違和感全てに理由がつけられているわけではない。しかしこの違和感を辿れば、確実に言える事がある。


 俺は拳に力を込めながら、彼女の瞳を見据える。


 

「こんなこと信じたくはないが、ケイシーさん。アンタ、最初から『日向の旅人』の犠牲にするつもりだったな? 一階層目で小蜘蛛の存在を黙っていたのも。地底湖エリアの魚の攻撃を一発目から防がなかったのも。迷宮の王に器を与えるための布石、違うか?」


「それではまるで、私があの迷宮に属する存在である、と言っている様に聞こえますね」

 


 あの地底湖エリアで、魚の接近を逸早く探知したのはケイシーだった。そしてあの魚の二発目の攻撃を防いだと言うのも、ケイシーだったと仲間伝に聞いた。

 あの時ケイシーが防御を張ってくれなかったら、俺もあの時死んでいた。いや俺だけじゃない。他の面々も無犠牲とはいかなかっただろう。

 


 しかしだからと言って、彼女の疑いが晴れるわけじゃない。そもそも今だって、彼女の異様なまでに精度の高い探知魔法〈サーチ〉について、彼女は何の説明もしてくれていない。加えて、魚の接近から攻撃されるまで数秒の間で、いったいどうやって魔法障壁〈マジック・バリア〉の魔法陣を構築したというのか。あまりに魔法の構築速度が早すぎる。二発目の攻撃に間に合ってる時点で、かなり常識外なことをしているのだ。それこそ「いつ魚が接近してくるのか」分かっていないとおかしいと思うぐらいには。

 


 それに彼女の怪しい点はまだある。

 彼女が意図的に残したであろう、最も怪しいあの発言。


 

「ケイシーさん。地底湖エリアに入る前、アンタ言ったよな? 「アーサーに今後なんてない」と。あの時は「過剰な自信は身を滅ぼす」的な意味かと思ったが、今思えばそれは違う…………迷宮の王にとって、アーサーは理想な肉体だった。要するに「アーサーが迷宮の王に肉体を奪われる事」を言ってたんだろ? イーサンはただのきっかけにすぎなかった。元々アーサーの肉体を得ることが、迷宮の王の目的だったんじゃないか? まぁ結局その王様も、アーサーの力を見誤って死んじまったわけだがな」


 

 全てが計画通りだったわけではないだろうが、そう考えるのが最も筋が通っている気がしている。

 しかしだとすると、どうしても腑に落ちない点は残ってしまう。彼女が直接的に迷宮の王と繋がりを持っているのならば、一階層目よボスフロアで、彼女が蛇を焼き殺す必要はなかったはずだからな。

 まぁ結局のところ、俺が出した推測は迷宮攻略中での違和感を総合したものだ。全ての点を繋げようにも限界はある。


 ケイシーは俺の推測を聞くと、呆れたように息を吐いた。


 

「なるほど。散々語ってくれましたが、それら全て確証はありませんね。全て憶測にすぎないでしょう? それとも私が明確に、あの迷宮の王の存在を知っていたと示せる証拠はあるのですか?」


「…………実を言うとな。さっきまでは、無かったんだ」


 

 そう。元々ここで彼女を問い詰めて何かボロ出しゃいいな、で決行に至ったが、実はその問題は早々に解決している。



 彼女が「迷宮の王」を知っていたその証拠。

 それこそ、さっきケイシーが女王としていた通信の中にあった。

 


「あの迷宮の王の種族名――『魔毒王百足〈スコルペンドラ・レックス〉』って言うんだな。奴は死んでも精神干渉はできる。そのことを考慮して、みんな奴の死骸にも『ステータス』は使っていなかったはずだ………………ケイシーさん。アンタ、アイツの種族名をいつどこで知ったんだ?」



 最終階層に立ち入った時、迷宮の王の死骸への『ステータス』は控えたほうがいいと、スージーが警告した。更に奴は百足としての肉体を失っても、イーサンの肉体を乗っ取ることや迷宮内の魔物擬〈ノンスター〉を操ることぐらいはできていた。イーサンの肉体が死んだ後で『ステータス』を使うにしてもリスクが大き過ぎるし、全く利点がない。



 つまりあの場では、誰も迷宮の王に対して『ステータス』は使えなかったのだ。



 ケイシーは俺の言葉に黙り込む。

 これが最後のダメ押し。

 


「いい加減、下手な小芝居は辞めてくれないか? 迷宮であれほど高度な探知魔法〈サーチ〉を使えるアンタが、女王様との通信をB級冒険者の俺らに聞かれる様なヘマをするかよ。それとも、これでもアンタのお眼鏡には敵わないか?」



 さっきの女王様との通信を盗み聞きさせたのだって、十中八九わざとだろう。本当に女王様と通信していたのかさえ怪しい。


 彼女は迷宮攻略中、数々の小さい違和感を故意に散りばめていた。その目的は分からない。それはこれから聞き出すしかない。



 俺は腰に携える剣に手を添える。もう話し合いで済む段階はとうに越えている。



 ケイシーは暫しの間、一切表情筋も動かさず無表情を貫いていた。しかし、ふと何かのスイッチが入ったかのように、人差し指を顎元に当てると、サディスティックな表情で俺らを見下した。



 同時に、彼女の瞳が緋色に変わる。

 


「…………ふふふっ、いえいえそんなとんでもない。百点満点で言えば、八十点は差し上げたいところです。やはり貴方方は、他の雑多共とは違いますね」


 

 声色から話し方まで。何から何まで、俺らの知っているケイシーのそれではなくなっていた。俺の身体が更に緊張で強張る。

 この様子から俺らの推測は、おおよそ間違っていなかったのだろう。だとしても、はっきりしない事が多すぎるのが困るんだが。


 

「ッお前何者だよ。場合によっては、今この場でアンタを斬る事になるぜ」


 

 ただの強がりでしかないが、剣を引き抜き彼女へと突き立てる。

 彼女はまるで、怯えた子犬でも目にしているように、目を細めて微笑みを浮かべた。

 

 

「ふふふふっ…………あぁ、なんて可愛らしい。そう怯えないでください。私は貴方達の敵ではありませんよ。味方にしたいからこそ、こんな回りくどい真似をしたんですから」


「人命を犠牲にしてまでか?」

 

「あぁ、それは誤解です。『日向の旅人』の方々のことは私も、残念に思っているんですよ? 私は彼らを『殺すために』動いたつもりはありません。『守りきれない』と割り切っていただけです。ただでさえ相手は魔毒王。私以外が全滅した時のことを考えて、温存しておきたかったんです」


 

 彼女は落ち着いた様子で淡々と語る。

 確かにケイシーは「守ろうとしなかっただけ」で、直接彼らに手を下したわけではない。

 あの迷宮は確かに、無理矢理B級に昇格させられた『日向の旅人』には荷が重すぎた。俺達B級適正な冒険者ですら場違いだったのだから、当たり前な話だ。

 仮に彼らが最終階層まで生き残れたとしても、迷宮の王の傀儡になるだけだったのかもしれない。

 

 

「――もう良いでしょう。これ以上はお互い、時間の無駄ですね」


 

 彼女は痺れを切らしたように、内に秘める魔力を解放させ、こう言葉を続けた。

 


「私は城塞国「ウォーリル」の女王様に支える魔法使い――宮廷魔導士のケイシー・バーネットです。現在ディビナス帝国内で発生して居る「能力者の失踪」について調査をするため、この国で冒険者として活動をしていました」

 


 いくら強くとも相手は魔法使い。俺の間合いに入れさえすればどうにでもなる。

 なんて、楽観視していた過去の自分を殴りたい。


 どうにもならない。人外級の魔力量。迷宮内の全域の魔素を吸収した迷宮の王の魔力量すらも、彼女は凌駕していた。何が魔力量には自信がある、だ。自信とか領域の話じゃないだろうこれは。


 

 明らかに一般B級冒険者が耳にしていい情報じゃない。これから俺らは生きて帰れるのか。彼女が魔物側の人間じゃなさそうなのは、一先ず安心ではあるのだが、これはどう切り抜けたものか。

 というか魔物関連じゃないなら、もっとこう、明かし方って言うのがあっただろう。いや単純にハイスペック魔法使いで、迷宮についてはお国の情報網でした、って言われて納得するかはまぁ、微妙かもしれないが。いやまぁ、俺らが単に突っ込みすぎただけか。こればかりは他責すべきじゃない。


 夜冷え込んだはずの森の中、圧倒的な魔力を間近にして俺は嫌な汗が止まらなくなっていた。


 

最後までお読みいただきありがとうございます!


もし本作について「先が気になる!」「なんか面白いかも?」等思ってくださいましたら、『ブクマ』や下あたりにある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』にて評価をいただけましたら嬉しいです!


【関連話】

・73. 奇怪『蠱毒の廃迷宮』 その②

・77. 強行『溢れ出した不信』

・78. 干渉『迷宮の王』

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