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76. 攻略『牙を剥く廃迷宮』 その③


「ッたくまどろっこしいッ。刃が通らねぇ、魔法も使えねぇってなら、魔道具かなんかで燃やしちまうのが早えんじゃねぇか?」


 

 剣士カーラが巨大な舌相手に悪戦苦闘する中、かったるそうに呟いたのは「黒鉄の鎧」の短剣士ヴィンセント。これまで口を挟まずに大人しくしていたが、流石に命に関わる事態に痺れを切らしたといったところか。

 しかし、彼の案が悪手であることはこの場にいる殆どのものがが察していた。思わず「白刃の集い」の剣士ルーファスも、その考えなしの発言に怪訝な顔を浮かべ声を荒げる。

 


「バカやめろッ!! こんなガス溜まりの洞穴で炎なんて使ってみろッ 最悪、全員お陀仏だぞッ!?」



 このガスが可燃性なのかは分からない。しかし、その可能性が少しでもあるのならば、炎属性なんて使うべきではないだろう。ルーファスの反応に、ヴィンセントは舌打ちを返す。

 そんなやりとりを聞いて、大きく嘆息したのはアーサー。彼は呆れ半分に「黒鉄の鎧」の魔道具師のサイモンへと視線を移す。

 


「オイ魔道具使い。地表を凍らせるような魔道具はあるか? 一時的に、で良い」


「ッね、ねぇこたぁあねぇが……」


「ならば話は早い。ここら周辺最大限で地表を凍らせろ。このフロアは毒沼以外に魔物擬〈ノンスター〉は潜んでいないようだ。気休め程度にはなるだろう」


 

 確かに今の所魔物擬〈ノンスター〉は地面や毒沼から出現している。上空からの強襲はない。敵の潜む泥濘んだ地面か、氷の地面のどちらがマシかなら、確かに後者がマシなのは事実か。

 


「ッ今はそれしかねぇか……! 」


 

 サイモンは腰につけていたポーチから、球状の魔道具を取り出す。掌サイズの魔道具で確か、小型の魔物から毒を採取する時によく使用されている道具であると、俺も認識していた。

 魔法や技能が使えない中、魔道具が正常に機能するのかというのは甚だ疑問ではある。サイモンもその疑問に答えがでず、一瞬の躊躇いを見せる。

 しかし今道具を使い惜しみする意味もないのも事実。サイモンは渋りながらも、その魔道具を泥濘んだ地面に叩きつけた。



 その瞬間、冷気が俺の足元まで伝わり、付近の毒沼の水面を凍らせる。流石に深い毒沼の薄氷上は、人の体重には耐えられそうには無さそうだが、ないよりかはマシ、と言うのが妥当なところか。



 しかし思わぬところにも幸が見られる。

 カーラが相対している舌が冷気を感じたおかげか、少し動きが鈍くなっていた。

 この隙に先を急ぐ、というのはあまりに考えなしだろうか。このフロアの終わりは視認できるとはいえ決して短いわけじゃない。氷の地面でゴリ押すとなれば、冷気を出す魔道具が必要になるのかわかったもんじゃ無い。

 

 

「アーサー。このままじゃジリ貧だ。毒沼からの一時的に襲撃を抑えられたとて、魔毒でこっちが動けなくなるのも時間の問題だぞ」


「――いいや、完全な八方塞がりってわけでもない。こんな緊急事態もあろうかと、転移陣の魔道具を用意していたんだ」


 

 俺の疑問に答えたのは、アーサーではなくルーファスだった。そんなものがあるなら最初から言って欲しいもんだが、そもそも魔道具が動作する事が分かったのは今さっき。かつ、魔物擬〈ノンスター〉の手が緩んだ今と考えれば妥当なタイミングともいえる。

 


「そんなら話が早えッ……ッてか、そんなもんあんなら最初から使いやがれやボケがッ!」


「使えるものなら既に使っている。この転移陣を使うためには、転移先にこの杭を打つ必要がある。流石に魔法まで制限されるとは思っていなかったんだ。このパーティに弓士がいれば、話は早かったのだがッ……」


 

 横からエリオットが愚痴を吐くが、それを軽く受け流すルーファス。今は歪みあっている場合ではないのは同意だ。それよりも、今このパーティには魔法もなしに物を遠くへと飛ばす様な芸等のできるものはいない、と言うのが悩ましいところだが。



 しかし、そんな陰った思案をかき消すかの様に、俺の背後で薄い"魔法"の光が灯った。カリスタとスージーからだ。


 

「ッ……これはッ?」



 感じる限りは身体強化の範囲魔法に思える。薄氷上、魔法により光の粒子が舞う。だがそれはおかしい。この空間では魔法が制限され、解毒の魔法すらほとんど発動していなかった。それが何故今発動する様になったのか。

 俺は二人に目をやる。彼女達は互いの手を紡ぎ合わせていた。それで漸く理解する。



「『身体強化〈フィジカルアップ〉』の魔法です。魔力の消費が激しく効力が薄くなるだけで、魔法が完全に封じられたわけじゃないみたいです。一人は魔力の流れを安定化させ、一人は魔法陣の構築。そして互いの魔力を掛け合わせられれば、それなりに神経は使いますが発動はできるみたいです」


 

 その言葉を証明するかの様に、光の粒子に包まれた俺たちの身体に変化が現れた。さっきまで感じていた身体の気だるさが一切消えていた。流石に全く消耗なし、とはいかないがこれでいつも通りの大立ち回りは出来る。


 そしてスージーは魔法を維持したまま、ルーファスへと視線を向ける。その視線には強い決意が籠っている。

 


「ルーファスさん。その杭、私達に任せてくれませんか? 私とカリスタで風魔法を使えば、なんとか毒沼の向こう岸に撃てると思います」



 スージーの言葉に、ルーファスは腕を組み逡巡する。それもそうだ、ルーファスは「白刃の集い」のリーダーであり、俺達「風の共縁者」とは直接的な関わりはなかった。よく知らない魔法使いに全てを簡単に託せるものなどいないだろう。

 


「………………ッこれしか、手はないか。わかった。君たちに全てを託す。フローラ、ケイシーさん、二人はモーリスに補助をお願いできますか? カーラさんをこのまま消耗させるよりも、まず盾役を機能させるべきでしょう」



 ルーファスは同じパーティメンバーである魔法使いフローラと盾士のモーリスへと視線をやる。モーリスは乗り気な様に思えるが、フローラはどこか不満げな表情を浮かべていた。同じ魔法使いとして今の状況に思うところがあるのだろう。

 そして、すかさずケイシーはフローラの横に位置どり、モーリスの大きな背中に二人で手を当てる。一人は魔力を注ぎ入れ、もう一人は魔力の流れを安定化させることに注力する。


 

「よし来たァッ! 相手はそこまで力が強いわけじゃあねぇ! 地盤もしっかりしてる! 気の済むまで集中してくれよぉ!」


「――しょうがないわね。心月流『川滑り』」


 

 その言葉を聞いて、前線で剣を振るっていたカーラは、軽やかな足捌きで瞬時にモーリスの後ろまで戻る。技能ですら制限されているこの空間で、ここまで立ち回れるのは流石、剣聖グリフォードが扱った心月流というべきか――いや、ここは彼女の実力を賞賛すべきだろう。



「『多重巨盾』ッ! 『四壁結び』ッ!」



 そして間髪置かず、モーリスは前方に構えていた盾を巨大化させ空中へと四つの盾を展開。そしてその盾を起点として魔法障壁を展開する。鋼系統の魔法と結界術の応用か。見た目はただの筋骨隆々の大男だが、やっていることはかなり繊細だ。

 


「……女に任せんのは気は引けるが、出し惜しみしていられねぇか。コイツも使えッ、例え毒沼に打ち込んでも凍って最悪リカバリは効くだろうぜ」


「助かるわ。一言余計だけど」

 


 サイモンは多少不服そうにしながら、先ほど使用した冷気を発生させる魔道具をカリスタへ投げ渡した。カリスタは呆れることしかできない、と言う表情でその魔道具をキャッチする。

 そしてカリスタとスージーはは視線を交わし、構築した魔法陣を構築し直し始めた。

 


「言っておくけど、風魔法の制御なら私達の右に出るものはいないわ。行くわよ、スージー!」

「うん! カリスタ!」


 

 二人は目を閉じ集中力を高める。互いの握る手に力もこもる。

 そして二人は呼吸を整えると、詠唱を紡ぎ始めた。


 

「鮮緑の草原 邪を吹き飛ばす暴風 我らの進む道を差し示せ

「融和 順応 純然たる鮮緑 道一つ 只吹き抜ける強風と化せ



 覚級魔法『大風圧〈ヘビーウィンド〉』!!」」



 通常時ならば詠唱の必要のない、風系統の覚級上位に分類される魔法。その効果は単純に瞬間的な風を吹かせる事。しかしその風は、込められる魔力量によっては巨大なドラゴンすらも吹き飛ばすとされる。



 彼女たちの放った強風は、確かに向かいの壁面まで到達、放たれた杭は壁面に突き刺さり、一方、また同時に冷気の魔道具は杭の打たれた周辺を凍らせた。

 全くもって完璧な魔力操作。作戦は今度こそ完璧な成功を収めていた。


 

「刺さりましたッ! ルーファスさん!」


「上出来だッ!! 皆、死にたくなければ俺に寄れ! 跳ぶぞッ!」



 そして、俺らは光に包まれたかと思うと、次の瞬間には毒沼地帯を抜けていた。先に進めたことを素直に喜ぶべきか、この先にこれ以上の地獄が待ち受けることを絶望したものか。

 どちらかといえば後者の思いの方が、俺は強く抱いてしまっていた。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます!


もし本作について「先が気になる!」「なんか面白いかも?」等思ってくださいましたら、『ブクマ』や下あたりにある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』にて評価をいただけましたら嬉しいです!


【関連話】

・27. 攻略『蠱毒の地下迷宮』 第二階層①

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