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62. 少し冷え込む夜でした


 陽も暮れて、人には肌寒さを覚える風が吹き始めた頃。僕はティナと二人で、化猫の村を歩き回っていた。明確に目的地は決めてない。冷えてきた空気を紛らわすための気晴らしがてら、僕はティナを村の猫達に紹介し回っていた。


 

『ティナってさ、猫との付き合い方がホントに上手だよねー。何かコツとかあったりする? 結構、切実に知りたいんだよねぇ』

 


 僕は尻尾を立てながらティナの肩付近、空中を歩きながらティナへ視線を向ける。今僕は技能『固空』により空気を固めて、ティナの隣を歩いていた。人と猫では身長差がありすぎるから、どうしてもティナが僕を見下げる形になってしまう。それじゃあティナの首も疲れてしまうだろう、と言う配慮で――と言うのは表向きの理由。その実は僕がティナを足元から顔を見上げる時に、どうしても足に目が入って、その、目のやりどころに困ってしまうと言うのが、人間の感性の残る僕の本音だったりする。

 

 

『うんん、そんなことないよ。レイ達が私の居場所を作ってくれたおかげだよ。私はただ、レイの後ろで大人しくしてただけで……』


 

 ティナは軽々しい僕の様子に苦笑いを浮かべる。

 確かに、僕の可愛い弟妹達が奔走してくれたおかげで、ティナへ向けられる視線は昨日ほど悪い物じゃなくなっていた。それは事実だけど、でも結局それは第一印象の話だ。今後とも良い付き合いをできるかは、実際に対面しないと分からないものだ。

 その点で言うと、ティナの立ち回りは贔屓目なしに百点満点だった。僕はティナの言葉にゆっくり首を振って否定する。



『それが良かったんだよ。この村の猫達は人間に馴染みがないからさ。グイグイ行きすぎず、ちゃんと慣らすところから始められるティナは、猫のことを良く分かってると思うんだ。それに! ティナの雰囲気はなんかこうー、お日様みたいに暖かくて、接しやすい気がするんだよね。ホント感覚的なものなんだけど。僕の「感覚」は、結構当てになるんだよ?』


『…………そっか。ありがとう、レイ』



 僕の飄々した様子に、ティナは変わらず気を落としたままだった。彼女は遠い目で暗い空を見上げる。その心は、どこか上の空だった。たぶん今日の出来事について、色々思うことがあったんだろう。

 特に僕の弟妹達の名付け後から、それは顕著に表れていた。僕たち家族に向けるティナの視線は、どこか寂しげだった。あの時ティナの拳にギュッと力入ったのも、僕は目敏く捉えていた。

 


 昨日、帝国兵の襲撃により家族を失ったばかりの少女が、目の前の「幸せそうな猫の家族」を見てどんな感情を抱いたのかは、想像するに難くない。



 今日一日、僕はティナの優しさに甘えすぎてしまった。これ以上変に明るく振る舞おうとしても、表情の裏を読み取ることに長けた彼女には響かないだろう。僕は気持ちを切り替えて、彼女の肩に頭を擦り付けた。

 


『お礼を言うのは僕の方だよ。今日は色々、無理させてごめんね…………自分の弱ってるところを見せるのって、気恥ずかしさとかあるし、難しいことだと思うけどさ。もし、心がどうしようもなく苦しくなったら、僕に言ってね。その時は僕が、ずっと傍にいるからさ』


 

 軽々しさの消えた僕の意思に、ティナは空から僕へと視線を流した。彼女の翡翠色の瞳に少し、潤いが増した様な気がした。でも僕はそれに気がつかないふりをする。

 


『っうん。大丈夫だよ。レイが居てくれるなら。私は、それだけでいいの』


 

 彼女は寂しい気持ちを紛らわす様に、空中を歩く僕を抱きしめた。僕は抵抗することもなく、なすがまま彼女に身を預けた。



 ティナから聞いた話、彼女はまだ十三歳になったばかりだって言う。彼女の見た目からはそれほどギャップはなかったけれど、彼女の精神はあまりに大人びていた。それこそ人間として十七年、化猫として四年生きた僕なんかよりもずっと大人だと思う。

 きっとこれまで苦労の多い人生だったんだろう。ティナとは昨日出会ったばかりではあるけれど、彼女には幸せな人生を送ってほしいと。そんな親心にも似た想いを抱く様になっていた。



 ティナは一頻り僕を抱きしめていたけれど、『ごめんね』と言って手放した。僕は気にしてない、とゆっくり瞬きをしてみせる。ティナの顔は少し晴れやかだった。


 

 けれど僕の心はそうはいかない。

 今日一日、僕はあまりに普通の猫だった。ティナにリラックスする魔法をかけてもらって昼頃まで惰眠を貪り、美味しいご飯も施してもらい、気が済むまで猫じゃらしで遊んでもらった。こんな事態になんたる為体ていたらくか。

 せめて僕もティナのためになることをしたい。それこそ、化猫のみんなじゃ考えつきそうもない。かと言って人間にとって大切な、僕だからこそ思いつく人には欠かせないことを。


 

 そう思考に浸ろうとしたけれど、案外その案はすぐに思いついた。何も難しいことじゃない。元人間だからこそ思いつく、大胆かつ画期的なアイディア。

 

 

 よし! この村にティナの家を建てよう。



 思い立ったが吉日だ。僕は踵を返して、とある先輩猫の元へと歩み進めた。ティナは急に方向転換した僕に首を傾げていたけど、何も言わずに着いて来てくれた。


 家を作る為には当然、知識がいる。僕は元人間といえども、前世で建築学を専門に学んできたわけじゃない。だから家を建てると言っても正直なところ、今時点ではフワフワしたイメージしか浮かべられていない。まぁ能力「上感覚」を持ってすれば、少しのイメージ補強と素材さえ調達できれば容易いことだろうと確信していた。

 


 この化猫の村にはティナ以外に人間はいない。故に人間が暮らせる家も、この村には存在しない。が、しかし、食料を溜め込むための食糧庫は、比較的人間の家に近しい作りをしていた。

 それじゃあその食糧庫は誰が作り上げたのか。状態から見るに、建てられたのはそう昔じゃない。現役世代の化猫の戦士が作ったであろうことは、僕の感覚からも読み取れていたし、そんな器用な真似ができる猫は、僕の頭には一匹しか思い浮かばなかった。


 

『あのー、豹柄のお兄さん。ちょっといいかな?』


 

 豹柄のお兄さん。それは僕が勝手に「化猫村の四天王」と呼んでる猫の内の一匹だ。彼はこの村で数少ない、獣人の姿に化けて人間の町へと物資調達をしたりしている化猫だ。化猫とは思えないほど頭の回転が早くて、狩りの時も人間の使う様な道具を器用に使いこなしている。この村の建造物のメンテナンスに関して彼の猫の手がかかっていることは、僕の見立てでは間違いなかった。

 


 豹柄のお兄さんは僕に気がつくと、パッと明るい表情を浮かべた。後ろにいるティナにはこれといって気にした様子はない。


 

『おう茶の息子かぁ! ここ最近なにかと無茶ばっかしてっから心配したんだぞ! もう大丈夫なのか?』

 


 お兄さんは僕の周りをうろうろと歩いて、僕の体を見回した。そしていつも通りのツヤツヤな毛並みを見ると、安堵した様に大きなため息を漏らす。この村の四天王は、僕に対して何かと過保護なのだ。

 僕は苦笑いを浮かべながら、早速本題に入る。


 

『うん。可愛い弟妹達と遊べる程度には元気だよー。あの、豹柄のお兄さん。ちょっとお願い。と言うか、聞きたいことがあるんだけど、良いかな?』


 

 お兄さんは僕の意思にピクリと眉根を寄せた。僕もその反応に少し身構えたけど、ティナに対する嫌悪の感情ではないことは、僕の「感情を読み取れる嗅覚」はしっかりと捉えていた。

 一方ティナは僕より二回り以上もある逞しい猫――いや、豹に一歩二歩と後退りしていた。僕にとって猫科の動物は全て尊く可愛い猫だし、彼のことも見知った優しいお兄さんだから怖いと思ったこともなかったけど、幼い少女からしてみれば、目つきも鋭くゴツゴツした体をしたお兄さんの姿は恐ろしいのかもしれない。挨拶に出向いたのも、物腰柔らかな猫達を選んでいたから余計に、目の前の豹に圧を感じてしまうのだろう。

 お兄さんは怯えるティナの反応には触れず、気怠そうに後ろ足で片耳を掻いた。


 

『もしかして、その人間のことか? 俺ぁあんま、人間の子供の扱いは得意じゃねぇんだがぁ…………んまぁ、要件も聞かずに断るのも癪だ。どうかしたのか?』


 

 お兄さんは耳を掻き終えると伸びをして、ティナにその鋭い視線を流した。ティナはお兄さんと目が合うと、困った様に僕に視線を向けた。僕はそんなティナへとニッコリと頷いて見せる。けれどティナは変わらず、心底困ったと言う表情を浮かべていた。

 あぁそうだ、ほとんど思いつきでここまで来ちゃったから、ティナに何をしにここに来たとか言ってないんだった。

 


『実はさ。この化猫の村に人間の家を建てようと思うんだけど、どの辺りが良いかなって。それと、家の作り方についてもイメージが欲しくて』


 

 豹柄のお兄さんは僕の言葉に瞠目した。一瞬僕が何を言ったのか理解できなかったみたい。だけど次の瞬間、お兄さんは勢いよく吹き出す。そして、心底面白いものを見た様に大笑いしたのだった。


最後までお読みいただきありがとうございます!


もし本作について「先が気になる!」「なんか面白いかも?」等思ってくださいましたら、『ブクマ』や下あたりにある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』にて評価をいただけましたら嬉しいです!

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