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5. 転生したら猫でした その②


 夜が明け日がさしてきた頃、僕は再び目を覚ました。


 あれから猫達を起こすわけにもいかず、することもなかったから寝ることにしたのだ。決して、理解することを完全に放棄して猫との添い寝を満喫してたら寝てたとか、そんなことはない。起きてても仕方がないから、しかたなーく眠りについたのだ。



 『よし! 気を取り直して、この状況を把握しなきゃね』

 


 寝ぼけ眼の中周りを見渡す。

 まず初めに気づいたのは、ここが地上ではなく巨大な樹木の上であると言うことだ。夜は星空と子猫しか見えていなかったけれど、母猫が覆って見えていなかった方面には、それはそれはご立派な樹木が床から突き抜け天へと伸びていた。

 

 夜にも気がついたことだけど、足元には木板が張り巡らされている。人工物っぽさも感じられるけれど、所々隙間も見えていて少し雑な印象を覚える。ただ目に見える範囲だけでも半径数百メートル程は整備されているようで、足場としてはかなり広い。これは過去人間が住んでいた跡地に猫がついた的なアレなんだろうか。


 整えられた床の隙間からいくつかの太い枝が伸びているのも見える。昨夜は気が付かなかったけれど足場の中心部ほど枝が無数に伸びおり葉が生い茂っていた。足場の隙間から見える情報から、地上から数百メートルはくだらなさそうだ。それにヒュンとしながら今度は木板の外側の光景に目を映す。

 

 視界に映ったのは遠くまで続く森だった。夜には見えなかったこの高さからの眺めは、朝の爽やかさも相まって美しさすら感じる。


 視線をまた戻す。

 一緒に寝ていた愛らしい子猫達はまだスヤスヤと眠っていた。みんなを起こさないようにゆっくりと体を動かし伸びをする。前足を前にピンと伸ばしお尻を上げ。次に後ろ足をピンと伸ばし背中を反る。猫が寝起きでよくやる動きを真似てみた。



『うん。心地いい』



 そう思いながら口を大きく開け欠伸していると、頭に何かザラっとした感触を覚えた。僕を包み眠っていた猫が毛繕いしてくれた。夜中は大きさのあまりあんまり分からなかったけど……



 『…………この猫。相当の美人さんだー』

 


 サラサラで整った毛並み。白、黒、茶色の三毛猫。野良とは思えないほどの濁りのない綺麗な色合い。それぞれの配色のバランスも良い。白をベースとしたザッ三毛猫!って感じがする。可愛さはもちろんだけどそれ以上に美しさがある。大きさから虎や獅子だと思わなかったのは『可愛い猫がそのままサイズだけ大きくなった感』だったのだろう。

 


 そして、今の状況から察するに僕のお母さんにあたるのかもしれない。

 


 そう思うとさっきまでの爽やかな気持ちは何処かへと消えてしまった。転生前の家族の姿が心に浮かび上がる。家族と過ごしたなんてことない時間。なんてことない思い出。その全てが今は遠い世界の記憶となってしまったんだと、僕の心を締め付ける。


 この親猫からすればお腹を痛めて産んだ子だ。前世の記憶だとかそんな都合なんて全く関係ない。もちろん、僕としてもこの三毛猫の子供として寄り添うのは当たり前なことだと思ってる。親を悲しませないというのは、前世人間の頃の僕が成し遂げられなかったことだから。

 

 僕は母に毛繕いをされるがまま、コテンと母猫の側に寝転ぶ。今はこの優しさに甘えることにしよう。このお母さんの子供の一匹として。


 それから少し時間が経ってみんなが目を覚ました。子猫達は寝ぼけながら母親のお腹をふみふみしていた。



 再び、僕の意識が魂レベルで起こされる。



『心がッ……! 潤うッ……!!! あぁもう撫でたい!! 耳の付け根から顎の下まで撫で回したいッ!!! ……あっ、ダメだ。今の僕の手じゃ撫でられないじゃん!!? 真逆ここに来て猫として転生したことに弊害がでるなんてッ……こんなの、こんなのってないよ!』



 とか勝手に自己完結していたけれど、猫としてのフミフミの本来の意味を思い出した。

 そうだ、僕も他人事、改め他猫事じゃないんだ。

 子猫のフミフミは本来母猫への、その、食事の要求のための行為だ。大人になっても子猫時代の名残で甘えたい時によくする行動でもあるんだけど、寝起きの子猫が今どちらの意味でしているのかといえば、そんなのは明白だ。

 


 食事に対する気恥ずかしさに気がつき一瞬で理性を取り戻す。



 『ま、まぁ、、うん。今の僕は猫、だしね。うんうん。子猫なんだから当たり前のこと、だよね? いや逆に? 逆にだよ? 人間の赤ん坊として転生するよりかはマイルドという専門家の見解もあったりなかったり……?』



 そう葛藤はしていたものの食事をしなければ死んでしまうのが生物。僕は人としての理性を騙して僕は弟妹達に溶けこんだのだった。

 


 ***



 猫として生まれ変わり数日が経った。四足の体にも慣れてきて何となく身の回りのことがつかめてきたし、ここらで今ある情報を整理してみることにしよう。


 我輩は茶トラの雄猫である。名前はまだない。これは猫として転生したら絶対に言っておきたいセリフである。

 元の世界の名は野又のまた 夏希なつき、十七歳学生。名前の印象や低身長な見た目から女の子っぽいとか、後猫好きの性格から親しみを込めて猫っぽいと言われることもしばしばで今一つ情熱のない男。運動神経は並以下。頭もそれほど良くはない。理系科目はそれなりに得意だった。夜二十二時から零時までには床に着き、朝は弱いからいつも大体寝不足気味。これといって特徴のない、影の薄い男さ。

 そんな僕だけど、車に轢かれ猫として転生した。生まれてからあまり時間は経っておらず自身の体がフワフワなのがよくわかる。感覚的に、大体生後一ヶ月ぐらいと見ていい。


 オスとしてのシンボルはちゃんとついている。けど人間として服を着て過ごしてきた身、プラプラぶら下げながら歩くのはなんともいえない感覚だ。これはもう慣れるしかないことだろう。

 猫は元々好きだったから最初はかなりはしゃいだもんだけれど、時間が経つにつれて猫として慣れないことが多いことにも気がついた。

 

 特に、嗅覚と聴覚と味覚だ。


 味覚については最早語るまでもないことだけど、嗅覚と聴覚はこれからの生活が不安になるレベルでキツい。

 

 猫の嗅覚は人の何万倍も良いと言われているけれど、全く誇張でもないことを思い知った。トイレの時はもちろん、トイレットペーパーなる概念もないからその後も結構臭い続ける。後大人猫の食料として新鮮な獣肉とかも運ばれてくるんだけど、血生臭すぎて一回吐きかけた。大人になった時あれを食べるようになることを考えると、今の方がマシだとすら思える。

 

 それに負けず劣らず、聴覚も日常への支障はかなり大きい。遠くで聞こえる音にビクッとしてしまうことは多いし最悪なのが夜だ。人間の時にも良くあったけれど、蚊みたいな羽虫が飛んでる音に何度起こされたことか。しかも、耳元で飛んでなくてもしっかりと聞こえるもんだから逃げようがない。今は少し気にしないようにできてはきたけど、体が限界まで疲れないと寝れないこともしばしばある。こればっかりはしっかりと猫として慣れていくほかないだろう。

 

 それと、言語の概念は今のところよくわかってない。大まかな『ニオイ』や『鳴き声』で感情を伝えたりしているようだ。でも、大人の猫を見てみるともっと精密な意思疎通はしていそうに見えたから、単純に幼さからコミュニケーションの取り方を理解できていないのかもしれない。そこもこれからの課題だね。


 とまぁ思っていたよりも苦労の多い猫生なわけだけれど、最も注視すべきことは別にある。

 


 それはこの世界についてだ。

 


 この世界。明らかに僕の知ってる世界じゃない。

 太陽のような恒星はあるし、夜には月っぽい星もあるけれどたぶん地球でもないんじゃ無いかと思う。


 何より今いるこの場所、ここは数百メートルはくだらない大樹の上だ。そもそもそんな大樹、僕の知る世界に存在していたら世界自然遺産とかなんやらで認知していないわけない。しかもそこに猫が居着いているとくれば、なおのことその情報を僕が知らないはずがないんだ。


 それに、ここらを歩き回った感想『巣』ではなく『村』として機能してるようにも思えた。詳細はまだ分からない。パッと見だけど家らしい家はないものの、食料庫や排泄場所といったものはあるということはわかってる。もちろん僕の知る猫にはそんな高度な習性は持ち合わせていない。



 さて、ここがどこなのか。地球か、将又はたまた他の星なのか。それとも平行世界、つまり異世界なのか。

 


 正直な話、そんなことこの村や天体を見ただけじゃ分かんない。っていうか分かったところで僕はこれからこの世界で生きていくことになるんだから。ここがどんな世界であれ、受け入れるしかないのだ。


 そう半ば諦め昼寝に興じるのであった。



最後までお読みいただきありがとうございます!


もし本作について「先が気になる!」「なんか面白いかも?」等思ってくださりましたら、『ブクマ』や下あたりにある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』にて評価をいただけましたら嬉しいです!

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