49. これが僕の在り方でした
『その人間をどうするつもりか、聞いていいか?』
お父さんは背中に少女を乗せている僕に対して、あまり良い感情のニオイは漂わせていなかった。
紛れもない『疑念』の感情だ。
正に合わせる顔もないというのは、こういうことを言うのだろう。化猫としては当たり前の疑問だ。
人間を化猫の村に連れて帰るなんて、しようとしてることはさっき襲っていた帝国兵と変わらないんだから。
でも、もしこのままこの少女を置いて行ったら、この子は助からないだろう。
ここで意思を曲げたら、僕達がこの子を助けた意味すらもなくなってしまう。一人の命に関わることで、弱気な態度なんてとっていられない。
『少なくとも、この子をこのまま帝国に帰すわけにはいきません。帰したところで、また命を狙われるだけですし、もうこの子には帰るべき場所だってないでしょう』
『この娘を連れ帰ったことを人間に知られれば、村の仲間にだって危害が及ぶ可能性があるんだぞ。お前の気持ちはわかるが、もしその危険が少しでもあるっていうのなら、俺はその娘ではなく村の仲間を取る』
それは種族としては当たり前の答えなのだろう。
化猫の戦士として、お父さんの言ってることは全面的に正しい。僕がこの少女に情があるのは、僕が元人間だからに過ぎない。
お父さんに嫌われたくない。
でも、この子も助けたい。
本当に、僕はなんて中途半端な奴なんだ。いつまで経っても、人間としての気持ちを優先したいのか、猫になりきりたいのか決めきれずにいる。
そんな自分のことが、心底嫌になる。
でもこんな中途半端な僕だからこそ、できる主張がある。僕だからこそ貫ける意思がある。その中途半端な行動の先に希望があるなら、いくらでも中途半端を貫けばいい。
覚悟を決めろ。僕は猫であり人間なんだ。
僕はお父さんの顔をしっかりと見つめる。
『お父さん。こんな我儘ばっかりな息子でごめんなさい。僕なんて能力があるだけで、いつも心配ばっかりかけて。そんな僕を見捨てないで、見守ってくれてありがとう』
まずはしっかりと、謝罪と感謝は伝えないといけない。化猫の仲間の命が関わっていることを、感情を誤魔化したくないという理由だけで、お父さんを無理に巻き込んで突っ走ってしまったんだから。
いつ、自分の命が終わってしまうのか、分かったものじゃないんだから。
お父さんは今、僕とこの少女を殺すことすら許される立場にある。けれどお父さんからは、今もそんな殺意なんてこれっぽっちも感じられなかった。
僕と同じ黄色の瞳からは、信頼の意思が伝わってくる。
そういえば僕が人間だった頃、こんな素直に感情を伝えたことなんてあったっけ。何となく「ごめんなさい」って言って、何となく「ありがとう」って言う。いつも適当で、自分の気持ちを表に出すのも面倒くさい、って思う様な人間だった気がする。
今は自分の能力に振り回されてばっかりで、前世と比べて問題ばっかり起こす我侭な性格になってしまった気もするけど。
でも素直な気持ち伝えられて、気持ちが少し和らいだ気がした。
お父さんは少しの静寂の後に、軽く息をつく。
『当たり前だろ? 俺は隊長以前にお前の父親だからな。もしお前が俺を殺してでもその子を助けようとしても、俺はお前を絶対に見捨てないさ』
『僕がこのまま強行突破すると思う?』
僕のそんな意思にお父さんは、軽く鼻で笑う様な意思を伝える。
『ただの例え話だよ。お前は母さんに似て賢くて優しい。それに俺に似て意外と心配性だからな。それとも、心配した方が良かったか?』
『…………ありがとうお父さん。やっぱり、僕はお父さんの息子みたい』
今改めて、心からこの猫が父親で良かったと思えた。いつも頼もしくて、僕たち子供のことを思ってくれて。それでいて固くなりすぎないで、ちゃんと僕の目線に立ってくれる。
能力によって感じやすくなった体に、暖かさが染み渡った。
お父さんはちゃんと僕のことを見てくれてる。
信じてくれてる。それなら僕も自分のことを貫かないと、こんな立派なお父さんの息子として恥ずかしい。
息を大きく深呼吸をして、心を落ち着かせる。
ここからは人間の思考で化け猫として主張をする。
それが、今の僕だから。
『勿論。お父さんを巻き込ませた自分の行動を正当化したいって理由だけで、この子を連れて帰るわけじゃないよ。連れて帰っても、事態は変わらないって根拠もある。聞いてくれる?』
『よし、いいだろう。それならば俺は隊長として、お前の意見を聞かせてもらう』
『ありがとうございます。では改めて』
お父さんは黒のお兄さん達といる時のように、丁寧に意思を伝えた。これからはお父さんの息子の関係じゃない。
僕も一匹の戦士として伝えるんだ。
『僕がこの子を連れて帰りたい理由。それを一言で言い表すのならば、「化猫がこの件に関わっていることを悟らせないため」です』
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