42. 終着点は王でした その②
『こっちの用は済んだよ。それで、この後の取引のことなんだけど――』
無事に黒一の解毒を終えてゴブリンロード兄弟の元へと向かうや否や、ゴブリン一同は僕の前に整列した。
いきなりのことで理解が追いつかず、ポカンとしてしまう。
そしてその整列したそのゴブリン達の前に、二匹のゴブリンロードが僕の前に膝をつく。
なんだかちょっと、イヤな予感がする。
「話は全て、兄者より聞かせてもらッタ。交渉なんてこの際どうでもい良イ!! 無礼を働いた事、心から謝罪させて欲シイッ!! 本当にッッ申し訳なかッタッ!!! 今更許しを得ないと言うノならばコノ命、オマエに差し出そウ……!」
そして繰り出されるゴブリン一同からの集団土下座。
あまりの事態にオドオドしてしまう。
それに、元はと言えばゴブリンの縄張り侵害した僕達が悪いしなんなら僕、一匹殺っちゃってるわけだし。。。
『いやいやいやいやそれは別に…………良いかは、まぁ黒一が決めることだとは思うけど。折角お兄さんを助けたって言うのに死ねなんて言わないよ』
「そう言ッテもらえルのはありがたイ。勿論、魔石は全てオマエ達化猫のモノダ。兄者が拾ったと言う魔道具や、コレまで我らが収めていたありったけの財も、お前達に受け渡そウ!!!」
んーー、なんか話がおっきくなって来たぞー?
『いや、それは流石に。君らゴブリンにも生活ってものがあるわけだし……』
何より、人間を襲って手に入れた財を僕たち化猫が使って足つかない?って言うのが、元現代っ子である僕の稀有だ。まぁ見るからにこの世界そんなに文明は発達してなさそうだから、そう言う魔法がない限りは大丈夫だとは思うけど。
それでも誰かが必死に働いて稼いだ財を間接的に奪い取るのは、あまり元人間としては良しとしたくないところである。
そんな心配を横目に弟ゴブリンも、兄ゴブリンと同じ様な尊敬フィルターガン増しの瞳で僕へと視線を向けている。
「心配するナ。我らは人間と交渉するコトなどナイ。財宝集めは、単に群れの力を示す計り二過ぎナイ。今となッテは、もう無意味なモノ。お前達化猫であれば獣人に化け、人間と関わるコトもあルだろウ?ココは何も言わず、受け取ッテ欲しい」
そんな眼差しを向けられると、元々押しに弱い人間だった身としてはたじろいでしまう。
いや、でも今の言葉。
この先財宝を集める理由も無くなった、的なこと言ってるわけだし一旦ここは受け取って、それをどうするかは族長様とお父さん達に相談すればいいのかな。
こればっかりは、僕一人で決められる問題じゃない気がする。
『ま、まぁ、そこまで言うなら、受け取るけども……』
「そしてコノ縄張りも、イイや、コノ森の全てをお前達化猫にやロウ。最早、アノ地下迷宮を攻略したお前ならば、コノ森に潜む魔物など相手にならナイだロウ。コノ森全てが、お前ら化猫のモノダ。幼い化猫が地上に落ちタとしタラ、ドコにいても大樹マデ連れ返すコトを約束しよウ。そして、化猫がまたココに来ると言うならば、ソレ相応にもてなすコトも約束しヨウ」
『君たち兄弟揃って貢ぎ癖でもあるのかなぁ!? なんか気持ちよくなってない!? こ、こ、こ、この森全部って言った!? …………まぁ、これから化猫の仲間が酷い目に遭わないって言うなら、それも吝かではないけどさ。それにしてはなんか、規模が大きすぎると言うか……』
「ソウ難しく考えるナ。元々この森の頂点は我々ゴブリンであり、赤小鬼〈ゴブリンロード〉だッタ。お前はそんな俺らを優に超えタ。つまり、今のコノ森の頂点、真の王はお前というコトダ」
『ね、ねねねねねぇどうしたら良いのこれ!? 本当に分かんないんだけど!?』
もちろん前世で王になった経験なんてないし、部活でも部長になったこともない。係ですらリーダーを務めたことだってない。
猫を愛でることしか考えてこなかった元人間。
今だって力しか取り柄のない子猫の僕が王になんて、いったいなんの冗談だろう。
そもそも北の森だけなら分からなくないけど、森全体の王って何すればいいの?
これこそまず族長様に報告すべき案件なのでは?
僕は限界を迎えて、化猫の仲間達に助けを求める。
『お、俺らに聞くなよ!? ったく、こんな時だけらしく子供ぶりやがって。こう言う時こそ、いつもみてぇに余裕ぶって返してやりゃ良いんだよ! もっと胸を張れ! ナヨナヨすんな! どしっと構えろどしっと!!』
僕の焦り散らかす様子に、化猫三匹衆の内の一匹が喝を入れてくれた。多分、今化猫の村で僕にこんな強い意思を向けて叱ってくれるのは、この三匹衆ぐらいなのだろう。そう思うと心強さすら覚える。
僕は深呼吸して心を落ち着かせる。
少し落ち着け。取り乱すな。
そうじゃないと王として認めてくれたゴブリン達や、化猫の仲間達にも示しがつかない。
『う、うん。えー、分かったよ。それじゃあ、王としての肩書きは、貰い受ける事にする…………ただ、僕もまだ四歳の子猫だからさ。まだまだこの森のことだって全然分からないことも多いし、森の統治については引き続き君たちに任せていい、かな?』
僕のありのままの意思を伝えると、ゴブリンロードは二匹は唖然としていた。
「お、おマ、お前、四歳だッテ……?そンだけの力持ッテ……??? あんダケ先のコト見通しておいテ………??? マ、マジかヨお前……」
「……全てが規格外、ダナ。生きていルと面白いコトもアルものダ。王の件についてはイイだロウ。フフフッ、お前がコレからどんなバケモノに育つノか、楽しみで仕方ないナ」
『そんな期待されても困るんだけどなぁ……ただ、これだけは言っておくけどさ。僕は"あくまで普通の化猫"として暮らしたいんだ。だから今後も、僕の事を囃し立てる様な真似はしないで欲しい。それもいいかな?』
「なるほど、"悪魔で普通の化猫"か。ソウダナ。受け入れよウ」
『な、なんか意味合いがちょっと違う気もするけど…………でも!! さっきも言ったけど、表向きでは変わらず君らが王だからね!この森のことは変わらず二人で納めて欲しい!頼んだからね!』
「「仰せのままニ」」
『それにみんなもだよ! 確かに僕は強いのかもしれないけど、上に立ってみんなを導くなんてまだわからないから! もう少し大人のみんなを見て、それで今後どうしたら良いかは決めさせて欲しいんだ』
なんとかゴブリンロードと話をつけて、改めて化猫の仲間達へと視線を向けた。みんな今の話は聞いてくれてはいたけど、概ね『茶の息子ならまぁ』って言う肯定的な反応の方が多そうに思えた。
そんな反応の中で、さっきの三匹衆の内の一匹が僕へと近づいて来た。彼はあれから変わらず、戦士の瞳で僕の事を真っ直ぐ見据えている。
『………そりゃあ、俺らの一存じゃどうしようもねぇが。王ってのは、力がありゃ良いわけでも、頭が良けりゃいいわけでもねぇ。仲間を守り抜くという確固たる意志。皆が命を任せてもいいと思わせる様な堂々たる態度。そして、最も重要なのは王自身が仲間を知り、信頼する事だ…………お前は頭がいい。力も強い。悔しいが、俺らみたいな捻くれ者以外には、信頼だって厚い。お前に足りないのは『威厳』だけだな。まず、黒の兄貴や自分の親父の背中をよく見て育て。今はそれだけでいい』
彼のいつにもない真面目で真っ直ぐな意思には、今度こそ一切の嫌味は感じ取れなかった。これが彼なりの『野生の王』としてのあり方なんだろう。
こんな事態にまで発展はしたけど、元はこの化猫三匹衆も立派な村の戦士だったんだ。
それを、僕の人間にも猫にもなりきれない中途半端な態度が、彼らを狂わせてしまった。
それになんだか、少し負い目を感じてしまう。
『…………あ、ありがとう。それと、ごめん。僕も君たちのこと、ちゃんと理解できてなかった。僕が王に相応しくなれるのかは分からないけど、君達に認められるように、頑張ってみるよ』
『まっ、お前はやりたい様にやってりゃいい。そんな気負うこともねぇよ、俺らはもう帰る』
彼は僕の頭をコツンと軽く猫パンチをして、振り返らずに技能『空蹴り』で去っていった。その姿を見て残り二匹も後をついていく。
そんな戦士達の背中を見送っている中で、
倒れていた黒一の瞼が、ゆっくりと開いた。
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