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40. 察知『不可解な魔物』


 俺らB級冒険者パーティ『風の共縁者』は半分脅迫紛いのアーサーの提案を受け、ユグコットルの大森林の西部へとおもむいていた。



 目指す先は『蠱毒の地下迷宮ダンジョン』。


 

 解明されている範囲だけでも、その脅威度はB級相当の見積もりであり、二階層以降の攻略難度はA級適正か、もしくはS級相当でもおかしくないと言われる、世界でも有数の超高難度の地下迷宮ダンジョン



 それにも関わらず、この地下迷宮ダンジョン探索のために集められたのは、A級ソロの冒険者一人と四人一組のB級冒険者パーティが四組、B級ソロの冒険者二人。

 そして領主から派遣された数百の兵。


 A級冒険者一人と、統率の取れた兵の同行があるとはいえ、正直俺の見解では準備不足と言わざる終えなかった。


 ユグコットルの大森林から魔物が押し寄せて来ている事態を考えて、急ぎ調査が必要なことは百歩譲って理解はできる。しかし、事前の認識合わせも作戦会議もなしで決行に至ったのは、あまりに舐めすぎていると言わざるおえない。



 今の所は何事もなく地下迷宮ダンジョンの入り口付近までは迫って来ているが、先のことを考えるだけでも頭が痛い。

 この探索のメンバーの一員である、魔法使いのケイシーもずっと険しい表情を浮かべている。おそらく彼女もアーサーに脅されて、この探索に参加させられた口なのだろう。



 因みにケイシーというのは、ソロで活動しているB級冒険者。この迷宮探索メンバー唯一の良心だ。



 彼女は主に、近隣国のウォーリルで活動している冒険者。回復や補助系統の魔法を得意としている、後衛の魔法使いだ。扱える魔法も豊富であり、発動速度も速い。何より、その内に秘める多大な魔力量には目を見張るものがある。

 また、彼女は固定のパーティを組むことはなく、既存パーティに一時的に加わり転々とするような、少し珍しい活動形式をとっている。その理由も以前、依頼〈クエスト〉に同行してもらった時に聞いたことはあるが。



「パーティへのお誘いを受けることは多々ありますが、私は誰かの助けになれればそれだけで十分ですので。特定の誰かに肩入れするのは、ちょっと気が引けるんです。もちろん、あなた方のように、信頼できる仲間達と旅をするのに憧れがないと言ったら、嘘になりますがね、ふふ」



 と、存在そのものが光魔法なのかと思わせるような、そんな笑顔を浮かべながら答えてくれた。

 俺ら『風の共縁者』も善良で健全な冒険者を自負しているが、流石に彼女には敵わないと実感した。



 今回の探索メンバーで唯一背中を任せられる、頼りになる仲間だ。他が頼りにならなすぎるのが嘆かわしいところではあるんだが、だからこそ俺らの心は既に決まっていた。



 この探索で俺らもできる限りのことをする。

 この依頼〈クエスト〉、彼女だけに背負わせるにはあまりに重すぎる。


 

 この探索の表向きのリーダーはA級冒険者のアーサーだが、奴はこの依頼〈クエスト〉で誰かが死のうがどうでも良いとすら思っている。だからこそなんの躊躇ちゅうちょもなく、C級適正の冒険者パーティ『日向の旅人』をB級へと昇格させ、この依頼〈クエスト〉を受注できるように調整した。


 

 奴は、A級相当と予想されるこの依頼〈クエスト〉にC級を取り付けるどころか、俺らに対して「この依頼〈クエスト〉への同行を断れば、他のC級を適当に昇格させ同行させる」なんてことすら抜かすド外道だ。



 俺らも所詮はB級、できることなど限られているかもしれない。


 でも、俺らがどうにかして助けられる命があるのならば、必死こいてみるのも悪くはないと思った。



 俺らはいつも以上に周囲を警戒しながら、皆と共に地下迷宮ダンジョンへと歩みを進めていく。

 そんな中で、俺は薄っらとその奇妙な違和感を感じ取っていた。



 こんな森の深部まで来たっていうのに、魔物と接触していないのはおかしい。



 明らかに、このユグコットルの大森林で何かが起きている。いや、森から魔物が逃げ出しているというのはここに来る以前に分かっていことだが、今の所 地下迷宮ダンジョンから魔毒が漏れ出しているような痕跡も見受けられない。



 何も異常は起きていないのにも関わらず、ここら付近で暮らしている魔物だけが、「何か」を感じ取ってこの森から逃げた。

 地下迷宮ダンジョンに潜る前にその「何か」が分かれば一番手っ取り早かったのだが、そんな簡単には済ませてくれないらしい。



 俺は今の状況を考察しつつ、周囲の魔物へと注意しながら、皆と歩幅を合わせて歩みを進めていた。



 ――その時。



「…………ん?今のは……」



 俺と同じ『風の共縁者』の一員である、魔法使いスージーは足を止める。



 スージーは魔物からの襲撃に備え、覚級魔法『魔力探知〈サーチ〉』によって周囲の様子をうかがっていたが、おそらく探知に何か引っかかったんだろう。

 にしては様子が変なのが、少し気になるところではあるが。


 

 スージーの反応に、他の探索メンバー達も歩みを止めた。


 

「スージー。何かかかったか?」



 俺の問いかけに、彼女は戸惑っている様な表情を浮かべていた。

 やはり、何か様子が変だ。


 

「えっと、かかった事にはかかったんだけど…………突然、何もなかった場所から急に現れて、それで北東の方向に猛スピードで移動して行った、みたい?」


「はぁ?何もなかった場所から現れただぁ?お前、これから地下迷宮ダンジョン探索だってのにふざけてんじゃねぇよ。女の癖にでしゃばりやがって、身の程をわきまえてほしいもんだな」


 

 そう機嫌悪そうに突っぱねたのは、B級冒険者パーティ『黒鉄くろがねの鎧』のリーダーである魔剣士エリオット。


 元々『黒鉄くろがねの鎧』と『白刃の集い』については、あまり素行がよろしくない冒険者達だって噂は聞いたことがあった。

 ギルド内での問題行動に、依頼〈クエスト〉先のトラブルも絶えないと話は聞いていたが、まさかここまでとは思わなかった。これは素行が悪いどころの話じゃない。



 性根が腐ってやがる。



 奴のふざけた態度に俺が間に入ろうとした時、同じく『風の共縁者』の一員である魔法使いカリスタが割って入った。

 「こう言うバカ相手は私に任せて」とでも言いたげな顔をしている。いつもながらに頼もしい。



「探索に同行する仲間も信じらんないなら、アンタが魔力探知〈サーチ〉すれば良い話じゃない。こっちに役割与えてるんだから、報告ぐらい真っ当に受け取りなさいよ。それに、スージーは魔法を切らしていない。それは私が保証するわ……それで、さっきっから知らん顔してるけど、アンタの魔力探知〈サーチ〉にはかかってないの?」


 

 カリスタは同じく魔力探知〈サーチ〉を使っていた、『白刃の集い』所属の魔法使いフローラへと顔を向ける。

 しかし、彼女は都合悪そうにカリスタから顔を背けた。



「……さ、さぁーね。確かになんか引っかかった気もするけど、まだ本番じゃないんだしどうでも良くない?この依頼〈クエスト〉は地下迷宮ダンジョン探索なんだしさぁー」


「あのっ!! スージーさんの魔力探知〈サーチ〉は、正確だと思います! 今、私も魔力探知〈サーチ〉してみましたが、確かに魔法を使ったような痕跡と、魔物が北東方向へと向かったような痕跡は確かにありました」



 フローラの芳しくない様子を見て、すぐさまケイシーは魔法を発動しフォローに入った。彼女はスージーとカリスタへとアイコンタクトを送る。


 エリオットはそんな彼女達の様子に、黙って腕を組んでそっぽ向いた。



 都合悪くなった時の子供か。

 やっぱコイツ一回本気でぶん殴ってやろうか。


 

「…………なるほど。この森の北側と言えば、ゴブリンの縄張りだったか。探知にかかった魔物の詳細はわかるか? 俺らの侵攻を恐れ、仲間を呼んだ可能性もなくはないからな」



 そう冷静に切り返したのは、B級冒険者パーティ『白刃の集い』のリーダー、剣士ルーファス。

 スージーは彼からの問いかけに、目をギュッと閉じて魔力探知〈サーチ〉に神経を注ぎ込んだ。


 

「………猪よりも小型ですね。四足歩行の魔物で、この軽やかな足取り。森の生態分布から、おそらく大人の化猫なのかなと。探知範囲から既に外れてしまったので、今はもうはっきりとは分かりませんが…………」


「そんなら気にする事はねぇな。『マガイモノ』は臆病で有名だしなぁ。もしかすると、俺らに気づいて焦って逃げちまたのかもしれねぇな!」



 そうふざけた様に返したのは『黒鉄くろがねの鎧』所属の魔道具師のサイモン。

 因みに『マガイモノ』とは、技能『変化』を持つ獣系統の魔物を表す差別用語なのだが、こんなサラッと口から溢れるところ、日頃の口の悪さがうかがえる。

 


「だとしても急に現れたってのがよくわからんよなぁ。例えそれが化猫だったとして、瞬間転移〈テレポート〉でもして現れたってのかい?」



 そう唸りながらそんなことを呟いたのは、『白刃の集い』の盾士モーリスだ。

 確かにそれは最もな疑問ではあるが、魔力探知〈サーチ〉でわかる事なんて限られている。個人的にはグチグチと議論なんてせずに、現場を見た方が早いと思う派なのだが。



 彼の反応に、元勇者パーティ所属「剣聖グリフォードの弟子」でもある、B級ソロの剣士カーラは鼻で笑い返した。



「いやいやそんなのありえないでしょ。畑違いの私でも理解わかるわ。覚級魔法の弱転移〈レッサーテレポート〉じゃあ、魔力探知〈サーチ〉を誤魔化せるほどの長距離移動は不可能。かと言って、瞬間転移〈テレポート〉と言えば聖級魔法でしょ? そんなA級以上の魔法使いにしか扱えない高度な魔法を、野生の魔物ごときが扱えるわけがないじゃない。ただのポンコツ魔法使いに振り回されて馬っっ鹿みたい」



 そんなことを彼女は自信ありげに言い放つ。


 彼女は純粋な剣技だけをいえば、間違いなくA級に近しい実力を有している。実際、B級相当の仲間と組めばA級に昇格できる実力はあるはずなのだが、その自信過剰で他を見下す性格から、基本パーティを組むこともできないためずっとB級に留まりくすぶり続けている。



 今まさに、その原因を実感してるところだ。

 


 こういう面倒事は本来リーダーであるアーサーがたしなめるのが普通なのだが、奴は首を突っ込む気なんてないらしい。



「あの、畑違いってんなら少し黙っててくれませんかね? そんでもって、今重要なのは「急に現れてどっかに逃げていった」って事実だけだ。どうやって現れたのかは魔力探知〈サーチ〉だけじゃ測り切れないんだから、ここでその真意を言い争ってても仕方ないだろうよ…………アーサーさん。深追いするかどうかはアンタに任せるよ」



 俺はカリスタの怒りが爆発する前に割って入った。

 俺の言葉にアーサーは、今日一の大きなため息をついた。

 いやお前どの立場で呆れてんだって話なんだが。


 

「…………領主様から依頼のあった「茶柄の子猫」というのならばともかく、大人の化猫というのならばわざわざ手を出す事もないだろう。戻ってきたのなら迎え撃てば良いだけだ……だが、魔法の痕跡というのも引っかかるところではある。それは貴方方に任せて良いだろうか。何かあったらすぐ通信水晶で知らせてほしい」


「ハッ!!」



 アーサーはそう気だるそうに言いながら、領主が派遣した兵数十人をその現場へと向かわせる。



「さ、流石みんなさん慣れてますね。勉強になります!」



 そう呑気なことを呟いたのは、元C級冒険者でアーサーによって無理やりB級へと押し上げられた冒険者パーティ『日向の旅人』のリーダー、剣士イーサン。


 彼の様子に全く気にかける様子もないところ、やはりこの先の地下迷宮ダンジョンで彼らをフォローする気は一切ないのだろう。



「それでは我々も気を取り直して向かいたいところだが…………今日の目的はは魔物討伐ではなく迷宮探索だ。それを心に刻んでおけ」



 アーサーは圧強めに言い放つと、奴はこちらの反応も待たずに歩みを進めていった。

 取りまとめもする気もないリーダーに言いたいことはいくらでもあるが、最早この探索メンバーにおいて言っても無駄ということははっきり分かった。



 俺らもこの先の不安を抱えながらも、アーサーの後へと着いていくのだった。



 しかし俺らはこの時、想像もしていなかった。



 この先向かっている地下迷宮ダンジョンが、既に死んでいることなど。


 この先に起こる、どうしようもない悲劇を。



最後までお読みいただきありがとうございます!


もし本作について「先が気になる!」「なんか面白いかも?」等思ってくださいましたら、『ブクマ』や下あたりにある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』にて評価をいただけましたら嬉しいです!

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