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38. 迷宮脱出はギリギリでした その①


 ここは地下迷宮ダンジョン最奥の地。

 魔毒王百足との激闘の末、僕はやっとのことその首をね飛ばした。


 

 大百足のその数百メートルはあろう巨体から頭部が切り離されたのを横目で視認しながら、僕は生物が視認できないスピードまで加速し切った状態のまま地面へと着地する。



 ――ボゴォォォンッ!!



 地に足をつけただけにも関わらず、まるで大砲でも撃ち放ったような衝撃音がこのフロア内に響き渡り、僕の足元に巨大なクレーターを形成した。


 着地の衝撃が四足から全身へと駆け巡る。

 たぶんいつもの僕の身体ならこんな衝撃耐えきれなかったことだろうけど、技能によってこの上なく強化され尽くされた僕の身体はその衝撃を受け止めきっていた。


 

 これで決着!僕の完全勝利だ!

 と、勝利の余韻に浸りたいところではあるんだけど、残念ながら今の僕にはそんな余裕すらなかった。



 自身の身体能力を等倍近く強化する代わりに、その後完全に行動不能になる技能『闘争強化』。

 そして、その『闘争強化』を使ってる時のみ使うことのできる、走れば走るほど際限なく加速できる技能『走加速』。


 この二つの技能は、これまで全く使う機会すらなかった僕の最終兵器だったわけなんだけど、実際に使ってみて思い知った。


 

 この技能、子猫が気軽に扱って良い技能じゃない。


 

 行動不能のリミットはまだ超過していないにも関わらず、全身の筋肉が今にもはち切れてしまうんじゃないかと思わせるほど筋肉が張り詰め、鈍い痛みが全身を襲ってきていた。


 

 どれぐらいの時間耐えられそうなのかは、能力「上感覚」で理解してたつもりだったんだけど、普通に『闘争強化』でテンションが上がりすぎて調子に乗ってしまったみたいだ。

 いやこればかりは冗談にならない。

 

 

 けれど、そう直感しても今すぐに技能『闘争強化』を止められる状況でもなかった。大百足との決着はついたものの、このフロアにはまだ『魔物』が一匹残っているのだ。


 

 大百足の傀儡能力くぐつのうりょくにより操られていた、赤小鬼〈ゴブリンロード〉だ。あの大百足の首をねる前に、『精神干渉』で能力の強制解除はさせたものの、今も敵対関係にあるのかは正直はっきりしない。


 

 僕は際限のない加速にも対応できるように使っていた技能『反応速度強化』の効力を更に強め、体感時間を引き延ばし、擬似的に時を止めて熟考する。

 


『うーーん、どうしたものかなぁ。強化技能を止める前にこの流れで首をね飛ばしておくのが安全なのかな。でもこのゴブリンロード、言っちゃえば操られてただけで、大百足が死んだ今敵対してくるのかもわからないんだよねぇ。そんな相手を有無を言わさずに殺すのもなんか気が引けるし……まぁー、敵対したとしても強化技能を使うような相手でもないか!もう限界も近いし。やっぱり行動不能のリミットを考えて『闘争強化』はここで打ち止めかなー』

 


 そうして僕は『闘争強化』を止めた。

 だけどそれが浅はかな判断だったことを、僕は早々に思い知ることになる。


 

『ッ――〜〜〜ッッ!??!?』


 

 技能を止めた瞬間、電撃が全身を駆け巡るような衝撃に襲われた。骨が比喩じゃなく粉々に砕け、筋肉も一斉にブチブチ音を立てて切れるような感覚と痛みが全身を支配する。


 

 技能『闘争強化』の行動不能リミットにはまだ時間はあったはずなんだけど、考えてみれば当たり前だ。

 


 『闘争強化』によって強化された身体だからこそ、さっきまで耐えられていたんだ。その強化を解いたんだから、状況が悪化することは考えればわかることだった。


 

 完全に判断を誤った。

 こんなことなら『闘争強化』を止める前に、ゴブリンロードを殺っておくべきだった。


 

 僕は技能『食貯蓄』によって体内の中に蓄えていた、ありったけの薬草を消化させる。これまではどんな大怪我をしてもこれでどうにかなったんだけど、この反動はそう言う問題じゃないらしい。


 

『……これはマズイッ。思ってた以上に反動が重たいッ……『食貯蓄』の薬草じゃ治り切りそうもないし……ッいいやそれよりもッ……!』



 四足で立っているだけでもやっとの僕へと、何者かが歩み寄ってくる音を認識する。



 いや、何者かなんてもう分かっている。

 この裸足の足音は、赤小鬼〈ゴブリンロード〉だ。


 

 技能『食貯蓄』の薬草じゃ明らかに回復が追いつかない。逆に、技能をフルで回してるせいか悪化してるまである。やっぱり体が機能しなくなるリスクを、高々薬草程度では誤魔化すことはできないらしい。


 

 僕は遂に立っていられなくなって地面に倒れた。


 

『ッ――!!……やっと、ここまで辿り着いたって言うのにッ……こんな終わり方なんてッ……ラスボスも倒してッ、あと一歩だっていうのにッ……!痛みがどうした能力でどうにか誤魔化せッ!猫の、友達の命がかかってるんだぞッ……!!』



 この際僕の命なんてどうだって良い。

 猫の命を救えるなら僕は、こんな中途半端な命いくらでも投げ捨てられる。


 だけど、そんな思いだけじゃ体は動かない。

 僕の四足はもう僕の体重すら支える力も、近づいてくる魔物の姿を見上げる力すら残っていなかった。


 

 その人影は、僕の目の前で足を止める。

 


 そして、僕の頭上で何かが光を放ち始める。

 その光は大百足を相手しているときに見せた、炎の魔法を放つ瞬間に似ていた。更に、魔力が漂う感覚も毛肌へと伝わる。


 

 ダメだ、どうすることも出来ない。

 この反動があるからこそ、僕は大百足とやり合える程の身体強化の恩恵を受けたんだ。その反動を気合いでどうにかできるのなら、そんなもの使ったもん勝ちというもの。



 世界は、どうやらそんなに甘くはないらしい。



 ――キン



 そして炎の魔法攻撃の時と同じく、魔法発動時の特有の甲高い音を知覚する。


 

 僕はどうすることもできずに、ただ終わりの時を待つことしかできなかった。



最後までお読みいただきありがとうございます!


もし本作について「先が気になる!」「なんか面白いかも?」等思ってくださいましたら、『ブクマ』や下あたりにある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』にて評価をいただけましたら嬉しいです!

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