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37. 勧誘『風の共縁者』



「……あの。それ、本気で言ってます?」



 ギルドへと帰還して早々、俺らは面食らっていた。



 今俺らの目の前にいるのは、A級最強と名高い冒険者。

 「絶断の一匹狼」の異名を持つ漢。

 ソロA級冒険者の「アーサー・ベネット」。


 

 彼は呆気に取られる俺らに、特に表情も変える事もなく目の前の書類をそっと差し出す。それは、とある依頼〈クエスト〉に同行して欲しいと言う承諾書だった。


 

「君達のような優秀な冒険者を、わざわざ緊急の用もなく呼び出したりはしないさ。B級冒険者パーティ『風の共縁者』。改めて、君達には俺と共に地下迷宮ダンジョン探索に同行願いたい」



「『蠱毒の地下迷宮ダンジョン』の攻略といったらA級適正見積もりですよね?いくら兵の戦力が加わるとはいえ、B級四組とA級一人ですか? あまりに戦力として心許無こころもとなくないですか?」



 『蠱毒の地下迷宮ダンジョン』の名は、ここら付近で活動して来なかった俺達ですら聞いたことがあった。


 今この世界で確認されている、数少ない攻略難度A級相当の地下迷宮ダンジョン。なんなら今も最も浅い階層しか解明されておらず、完全攻略の見積もりはS級でもおかしくないとすら言われている、もはや人類が無駄に手を出すべきじゃない、超危険な地下迷宮ダンジョンだ。


 もちろんそんな場所に高々B級冒険者が足を踏み入れたところで、できることなんて限られると思っているのだが、アーサーさんは俺の問いかけに対しても一切その表情を変えることはなかった。


 

「これはあくまで「攻略」ではなく「探索」だからな。余程の事態にならない限りは、未知である二階層以降の進出は考えていないよ。何より、地下迷宮ダンジョンから地上に影響を及ぼしていると言うなら、最も浅い階層でも何かしらの変化があるはずだからな。魔毒の対処さえできていれば、問題はないはずだ」



「…………なるほど。確かに、魔毒が地下迷宮ダンジョンから地上に漏れ出しているってのがアタリなら、浅い階層でも何かしらの異変は起きているはず。更にいえば、この異変が魔毒によって引き起こされた物だと確証さえ持てれば、それだけで十分な収穫になる。なんなら今回はそれだけで引き上げて、後は近隣で活動してるA級冒険者が集まるのを待ちながら、魔毒がこれ以上広がらないように、地下迷宮ダンジョン外で対処すればいい。それなら分からなくはないですね」



 とはいえ命に関わるような依頼はあまりやりたくないというのが、俺らの本音ではあるんだが。



「そうだろう?返事は今、この場でいただきたいのだが、どうかな?真っ向からの地下迷宮ダンジョン探索というのは中々あるものじゃない。これからの冒険者活動のことも考えても、きっと良い経験になるだろう。今は君たちが頼りなんだ」



 少し圧強めで目の前の承諾書を、更に前へ差し出した。一見聞こえはいい話ではあるんだが、B級四組というのに、俺は少しの突っ掛かりを感じていた。



 A級冒険者からのお誘いとはいえ、俺らも命がかかってるんだ。こういうのは書類に目を通して、事前に不明点がないかはちゃんと消化しておかないと痛い目を見かねない。



「…………B級四組となると、『黒鉄くろがねの鎧』に『白刃の集い』。そして俺ら『風の共縁者』。それと声がかかりそうなのは、剣聖の弟子でB級ソロ冒険者の「カーラ」と、魔毒の対処となればB級でパーティを転々としてる回復術師の「ケイシー」も頼りにはなりそうか。でも、問題なのはこれでもまだメンツが足りてないってこと。少なくとも、今の時点でも後一パーティか、ソロB級で二人は必要になる。しかしながら、これ以上他に貴方が背中を任せられる人材は、今この町にはいないと思ってるんですが、俺の見立ては間違ってますか?」



 俺の問いかけに対して、アーサーは分かりやすく怪訝けげんな表情を浮かべた。薄々感じ取っていたが、やはりさっきまでのは取りつくろっていただけだったようだ。



「…………いいや、あっているよ。なるほど。流石に、お前らは他の能天気な馬鹿共とは違うな。功績や単純なおだてにも乗る事もない。とはいえ、そんな優秀な冒険者であるお前らだからこそ、この依頼〈クエスト〉は断れない」



 アーサーはそう言いながら、俺らに向けて追加で五枚の書類を前に出した。その書類は俺らに差し出されていたものと同じ、依頼〈クエスト〉に同行する承諾書だった。


 既にその承諾書には『黒鉄くろがねの鎧』『白刃の集い』『剣士カーラ』『魔法使いケイシー』が依頼〈クエスト〉へと同行することのサインが得られていた。



 しかしその内の一枚。

 あまり名前の聞いた事ない冒険者パーティが含まれていことに気がつく。



 俺がそのことに気がついたのを察してか、アーサーは気味悪くニヤリとは笑う。


 

「実は昨日、幸運なことにB級へ昇格したパーティがあってね。こんな良い機会はないと、俺から直々に地下迷宮ダンジョン探索を依頼したら快く受けてもらえたんだよ」


「…………はぁ?」

 


 思わず、お前巫山戯ふざけてんのかの「はぁ?」が心から溢れ出した。

 何言ってるんだコイツは。



「何も難しいことはない。もうお前ら以外のメンバーには了承を得ているんだ。もしここでお前らが断ったとするならば、もしかすると、またこんな幸運を起こることを願うしかなくなってしまうんだがな…………と、建前はこれぐらいにして。取り繕わず言わせてもらおうか」



 この室内にとてつもない重圧が伸し掛かる。

 さっきの血飢熊〈ブラッディベアー〉なんて全く比にならない威圧感。まるで首筋に刃を押し付けられているような緊張が走る。



「無駄な死人を増やしたくなければ、つべこべ言わずに同行しろ。これは「勧誘」じゃない。「命令」だ」

「――ッ!」



 ドスの効いた声でアーサーはそう告げる。

 もはや交渉なんてものじゃない。ただの脅しだ。


 あまりこの漢について、良い噂は聞いたことはなかったが、まさかここまでとは思わなかった。

 コイツは今、仲間を必要としてるわけじゃない。


 クエストを受ける条件に人数が必要だから集めているのに過ぎない。この依頼〈クエスト〉で何人犠牲になろうが、この男にとっては心底どうでも良いことなんだろう。



 俺らが立ち向かって勝てる相手じゃないことはわかってる。今も放たれ続ける威圧に、変な汗が止まらない。



 しかし、それ以上に俺も怒りを抑えられなかった。



「……何が「命令」だ調子に乗りやがって。所詮、俺らもアンタがこの依頼〈クエスト〉を受けるための数合わせってか? 誰かに背中を預けるつもりもねぇ。動かしやすい駒集めて、好き勝手やることしか考えてねぇ。そんなら本当に「探索」だけで済ますのかも怪しいじゃねぇかよ」


「今更この場で俺のやり方について議論する気はない。さっさとその書類へサインしろ。それで助かる命があるんだ」


 

 ふざけてる。全く話が通じない。


 そして、俺は他のB級達の承諾書を見て更なる事実に気がつく。



「(ッこの野郎、他の冒険者への勧誘は三日前に済ませてんじゃねぇかよッ。俺らが断ることを見越してこんなギリギリで出してきやがってッ)」



 もう時間もない。

 今更、結構日を後ろ倒しにしてくれ、なんて交渉は受けてくれないだろう。他国から戦力が集まった後、って言うのは期待できない。



 しかし、そうは言っても俺らも命は惜しい。

 人の命を使い捨てとして思わないこんなクソ野郎と、一緒に地下迷宮ダンジョン探索だ?



 冗談じゃない。



 ……冗談じゃないんだが、だからってこんなことを見過ごして良いものか。俺らが断ったところで、おそらくコイツは適当なC級冒険者つかまえて、B級へアッパーし取り付けるだけだろう。



 更にいえば『黒鉄くろがねの鎧』も『白刃の集い』もあまりお行儀の良い冒険者じゃない。そこに元C級冒険者パーティが二組ともなれば、確実に生きては帰れないだろう。



 逆にいえば、こんな性格のねじ曲がった集団の中でそのC級冒険者を守れるのは俺ら『風の共縁者』と、後は回復術師のケイシーぐらいか。



「(だからってどうする?受けるも地獄、断るも地獄だぞ。それに俺一人だけならまだ良いが、みんなをこんな危険な目に合わせられるわけにもッ)」



 俺は目の前の現実に、答えを出せずにいた。



 その時。俺の肩にポンと手をついて、そのまま俺を押しのけてカリスタが前へと出た。


 

「…………はぁー、ったく。しょうがないわね。ヴァイス。アタシが書くからアンタ下がってなさい」

 

「おい!カリスタ本気か!?」

 

「本気も何もこれしか道はないでしょ? こんなの放って置いて、結局こんなクズ男しか帰ってきませんでしたー、って方が寝覚が悪いわ」



 カリスタの言葉にアーサーはわかりやすく、機嫌悪そうに眉を顰め《しか》る。



「随分な物言いをしてくれるな、女」



 相変わらず威圧感強めに言い放っているが、うちのカリスタも全く動じることもない。さっさと目の前の承諾書へとサインを書終えて、力強くペンを机に叩きつけた。

 


「真正面から脅しにきてる奴が言えたセリフじゃないわね。はい。必要なのは、この何もかもが薄っぺらい紙っぺらだけでしょ?」



 更に挑発するように紙の端を摘みペラペラと見せつけ、アーサーの胸へとその紙をぐちゃりと押し付ける。



 気が気ではないがそれより、俺はアーサーの挙動に注意を払う。


 少しでもコイツが手をあげる素振りを見せれば、この冒険者人生棒に振ってでも斬ってやる。それはフィリップも同じなようで、既にスージーの前に陣取り片手を剣へと手にかけていた。


 

 アーサーはそんな俺らの態度に、大きなため息をついた。



「……確かにうけたまわった。こんなくだらないことで揉める気はない。決行は明日だ。早朝ごろ冒険者ギルドにで待っている」



 アーサーは俺らのことを、まるで取るに足らない存在としか思っていないような視線を向ける。この場で俺らが剣を抜いたとしてもどうでもできる、と言う自信がひしひしと伝わってくる。



 なんとかこれで一段落。

 とはいかなそうで、カリスタはまだ不満げな顔を浮かべていた。



「……あーそうそう。最後に、一つ忘れてたわ」



 ――ペシィィィィィン!!



 カリスタはアーサーの頬に、全力で平手打ちを決めた。なんとも気持ちのいい音が室内に響き渡る。


 目の前の腐った男へと向けるカリスタのその瞳は、どこまでも真っ直ぐだった。



「……アンタ、地下迷宮ダンジョンで仲間を見捨てるようなことがあれば、今度はこんな平手だけじゃ済まさないわよ。この自己中クソボッチ。ほら、さっさといきましょ」



 それで一通り満足したのか、カリスタはアーサーへ背を向けて部屋を去っていく。それを見てフィリップとスージーもカリスタの後に続き部屋を後にした。



「……流石。うちの姉御はかっこいいねぇ。それじゃ、また明日改めて。自己中クソボッチ」



 そして俺も内心ヒヤヒヤしつつ、捨て台詞を吐いて一室を後にしたのだった。



最後までお読みいただきありがとうございます!


もし本作について「先が気になる!」「なんか面白いかも?」等思ってくださいましたら、『ブクマ』や下あたりにある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』にて評価をいただけましたら嬉しいです!

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