28. 攻略『蠱毒の地下迷宮』 第二階層②
毒沼地帯を抜けた先には、大きな地底湖が広がっていた。
目視で湖底が確認できるほどの透き通った水質。
だけど、そんなものは全くの見かけ騙し。
表面上、色として表れてないだけで、湖からはプンプンと魔毒の嫌ぁなニオイが漂っていた。
僕はこのフロアに足を踏み入れる前に、じっくりと観察する。
まずこのフロアには幅二メートルほどのうねうねした一本道の足場しかなくて、あたり一面は湖に覆われていた。
このフロア全体が地底湖になっていて、そこに足場となる蛇のの様な一本道が残っているってうのが一番正確な表現かもしれない。
ただ、雰囲気的に他のフロアと比べると穏やかすぎて、少し拍子抜けしてしまう。魔毒はあっても、ただの綺麗な湖。今の所襲ってくる様な魔物だって見られない。
『一応ここがボスフロアっぽく思えるけれど、この階層自体小さかったし、ラスボス手前にあるボーナスフロア的な奴なのかな?まぁ、地下迷宮っていうから少しゲーム脳にはなってるけど、魔石の力でできた自然の洞窟みたいなものっぽいし、必ずしも下へと続くフロア前にボスがいるってこともないのかもね』
僕は目を凝らして更に先、下へと繋がる道がないか周囲を再び観察し、そして把握した。
この蛇の様な一本道の先にある、数十メートルはあろう大岩。その隙間からは確かに、魔力の流れを感じられた。
それもかなり濃い。
魔力の概念はこの地下迷宮で知った身だけど、たぶんこのフロアの先が最奥なんだってことを、僕の感覚はしっかりと感じ取っていた。
『ここまで来て油断はできない。急に足場が崩れて湖に引き摺り込まれるようなトラップとかあったら怖いし、やっぱ安定の『固空』だね』
僕の感覚的としてこの足場、衝撃にはあまり強くないことは察知していた。
僕は一本道の上は直接歩かずに、技能『固空』により空気を固めながら空中を歩き進む。
しかしまぁ、本当に何も起きそうもない。
湖中には六匹の魚の魔物が優雅に泳いでいるものの、僕に向かって攻撃する様な素ぶりも見せることもない。
その魚の体長は一メートルと少し大きくはあるけれど、別にサメだとかピラニアだとか、そんな凶暴な見た目はしてない。
元の世界でいうと、この口のしゃくれ具合からアロワナが一番近いだろうか。
一応この魚も僕を認識してはいるみたいなんだけど、何かしかけてくるような気配は全く感じられなかった。
他に警戒すべきものは?
と思って天井を見回して見たけど、やっぱり何もない。
気になることといえば、天井がやけにトゲトゲしてたり、集合体恐怖症には鳥肌もの程に無数の穴空いているぐらい。全く目が良すぎるのも困りものだ。
そんなこんな周囲を観察しているうちに、本当に何も起こることもなく、僕は次の階層へと続く道を塞いでいた大岩の前まで辿り着いた。
なんか気になることは多いけど、僕の目的は魔石であって地下迷宮解明じゃない。
僕は技能『尖爪』と『甲化』によって、いつも通り爪の強度と切れ味を強化する。
これでさっさと岩を切り裂いて、先に進んでしまおう。
そう思ったその瞬間、背後からとてつもない殺気を僕の感覚能力は察知した。
『――何かくるッ!?』
嫌な気配を逸早く察知して素早く後ろ振り向く。
その次の瞬間のこと。
湖からえげつない速度の水のレーザーが、僕に向かって放たれた。
僕は咄嗟に、目の能力である「未来予測」と『反応速度強化』によって体感時間を引き延ばしながら水のレーザーの軌道を読んで、身をかがめて素早く躱した。
明らかにこれは音速を超えている。
もし僕がこの能力と技能を持っていなければ、今ので確実にやられていた。
猫の反射神経とか、最早そう言う次元じゃない。
着弾地点、僕の後ろの大岩には綺麗な一本の穴が形成されている。水とは言え音速超えで放たれれば、それは鉱物すらも削り取ることだってできるんだ。全く、舐められたものじゃない。
僕は改めてその発射地点へと意識を向ける。
発射地点はやはり湖であり、さっきまで全く攻撃の意思すら見せてこなかった魚からだ。
大岩をも貫く水鉄砲を放つ魚。
初見はアロワナっぽいかなと思ったけどこれは全然違う。
おそらくこれはテッポウウオの魔物だ。
と呑気に考察していたのも束の間。
僕の目の能力「未来予測」によって一秒も経たない内に、地底湖から水のレーザーが絶え間なく連射さら未来を察知した。
射撃精度はかなり正確。
避けなければ蜂の巣だ。
僕は目の能力で軌道を読みながら、技能『空蹴り』によって、その無数の水のレーザーを躱す。
そして、僕はその魚のステータスを確認した。
――――――――――
種別:魔物擬〈ノンスター〉
種族:魔毒射魚〈トキシテス〉
技能:『圧水射』『魔毒生成』
――――――――――
湖にも魔毒はあることは気づいていたけど、案の定この魚も魔毒持ちの様だ。というか、音速以上で放たれる水のレーザーにかすりでもすれば魔毒に侵されるとかいう、なんとも見た目によらない凶悪さだ。
このまま気にせず大岩を壊して先に進みたいところだけど、あまり現実的じゃなさそう。
目の能力の「未来予測」と技能『反応速度強化』を使ってやっとのこと避けられてる中で、そんな余裕は今の僕にはなかった。
そして絶え間なく浴びせられる水のレーザー。
しかもこっちの動きを予測して、偏差撃ちまでしてきている。
やっぱり真正面からやり合うのは悪手?
と思ったけれど、どうやら強行突破できるほどこの地下迷宮は甘くないみたいだ。
あの大岩に開けられた穴。そこから魔力の流れに意識を集中させてみたところ、大岩の先は人一人分の幅しの道しかないって事が感じ取れた。
それこそ幅五十センチほどの細い道。
それが数百メートル直線で続いているようだった。
例え強行突破したところで、その先
無理に強行突破しようとしても、細い道で水のレーザーを避けることもできず蜂の巣になるのがオチだ。
『相手は水中。発射される位置から場所はわかる。湖には濁りもないから目視できてるけど……』
相手は毒持ち。
湖を毒まみれにして、って言う手は効かない。
そしたら直接叩くしか手はないんだけど、水中の魚相手にどう手を出したらいいものか悩ましいところだ。
『水中に飛び込んで蝦蛄の技能『瞬殴打』で決める?いや、さすがにそれはリスクが大きいなぁ。何より水中だと空気を固める系の技能が使えないから機動力が落ちるのも問題ありそうだし…………うーーむ』
放たれ続ける強烈な水のレーザーを避けながら思考する。
正直この『反応速度強化』と目の能力「未来予測」を常に発動して、やっと避けられる程度だから僕としてはかなり疲れる。
長期戦は避けるべきだし、最悪はあの大岩の突破方法を考えた方が賢いやり方かもしれない。
ただこの魚の魔物を倒してから進まないと、帰りの時にもかなり苦労しそうなのも悩ましい。
僕は『反応速度強化』の効力をさらに強め、体感時間を最大まで引き延ばして、擬似的に時間を止め思考を続ける。
この水のレーザーを「未来予測」で避けて観察をしていたけど、僕の頭の中にはいくらか気になることがあった。
一旦それを整理しておこう。
まず、この水のレーザーについて、最初は溜めとか必要もなく連射できるのかと思ってたけど、どうやらそれは違ったみたいだ。
十発撃つ毎に、三秒程度のクールタイムがあって、その後すぐにまた十発連射している。
それを六匹で繰り返してるみたいだ。
さらに、一発一発が放たれる間隔は驚くことに一定。一切の個体差もない。それはまるで、自動で標準を合わせてタイミングになったら連射する機械を相手してるみたいな気分だ。
これが六匹が同タイミングで撃ち始めていれば、十初撃った後の三秒のクールタイムが隙になったわけだけど、話はそうは物事うまくはいかない。
この魚たちはお互いのクールタイムを埋め合わせる様に、最初の発射タイミングをずらしていた。
もし、各個体で発射間隔が異なっていて、尚かつ、その発射間隔が個体毎で一定だったのなら「クールタイムになるまでの時間の最小公倍数」を求めれば対応もできたけど、残念ながらこの魚ではその隙は生まれない。
それと、また違う観点でも気になることがあった。
それはこの魚が水のレーザーを撃ち始めたタイミングだ。
この魚達は僕が技能『尖爪』と『甲化』を使った時から撃ち始めてきた。
その前に『固空』を使っていたはずなのに、それにはなぜか反応はしなかった。
目視してから攻撃開始、と言うならもっと早い段階で目視はされているはず。目で見るのだけがトリガーじゃないのかもしれない。
それに『空蹴り』で避け回る僕を偏差撃ちまでしているんだから、空中の相手を捉えられないわけじゃないだろう。
考えられるとしたら、この大岩に手を出そうとするものを撃ち抜くと言ったものだけど、そんな曖昧な条件なのか甚だ疑問だ。
『ッある一定のリズムで撃って来るとわかってても、この偏差撃ちが厄介すぎるッ!って言うか、感知技能もないのにどうやって僕の行く先がわかるんだろ…………ん?』
そして気がついた。
そうだ。偏差撃ちしてきた時点で気がつけばよかった。
この魚には別に未来を予測する様な技能はない。
あるのは魔毒生成とこの水レーザーの技能だけ。
それは『ステータス』で確認済みだ。
それじゃあどうやって、僕の動きを予測してるのか。
考えられる要因は一つ。
それは『空蹴り』だ。
『空蹴り』は自分のいく先の空気を固めておいて、その固めた空気を蹴り跳躍する技能。それはもちろん、事前にいく先の空気を固めておかなければ使うことはできない。
つまりは向こうがこの『空間を固める技能』を察知できていたとしたら?
その固められた空間を先に撃ち抜くことで偏差撃ちまがいなことができると言うことだ。
この魚はたぶん、視覚と魔力的な何かを探知して撃ってきているんだと思う。
このフロアに入った直後、視認できた生き物の姿は一つ。だけど、僕の魔力は『固空』を使っていた事によって、空気中に広く分散していた。だから僕のことを個として捉え切ることができなかったんじゃなかろうか?
思い返せば射撃が始まったのは、僕が『固空』を解除して、『尖爪』と『甲化』を使った直後。
つまり、「視覚情報と魔力の情報が確実に合わさった瞬間」だったわけだ。
『視覚と魔力で獲物の位置を確実にさせてから、音速超えの技能で確実にしとめる。これはちょっと試す価値がありそうだね』
カラクリが分かってしまえば、対策はいくつか思いつく。
僕の目から観察するにこの魚、視覚だけを頼りにして撃ってきたとしても射撃精度はそんなに悪くはない。
だけど、基本偏差打ちして来ることから、重きを置いているのは視覚よりも魔力だと推測できる。
それなら魔力の痕跡を散りばめて、カモフラージュしてやればいい!
僕は技能『尖爪』と『甲化』を解いて、『固空』によって空間を片っ端から固めていく。
それに合わせて『食貯蓄』で蓄えておいた、毒沼フロアに生息していた巨大な蛙から切り離した舌を空中に吐き出した。
厚さ十センチ。
長さ五十メートルの長くて太い舌。
僕は水のレーザーを躱しながら、その舌を僕と同じ大きさほどに切り刻んだ。ちゃんと爪が滑らないように、舌に含んでいた毒油は絞っておいたからそれも問題なし。
更に、切り刻んだサイコロ状の肉塊を溢さないよう『固空』によって空気を固め、数々の受け皿を作り上げ受け止めていく。
実はこの『固空』だけど、これは僕の力の入れ次第でその性質を変えることもできる。
鉄の様に硬くすることもできれば、ゴムの様な柔軟性を出すことだってできる。
今回の場合は『柔軟性』に重きを置いて空気を固めてた。
そうするとどうなるのか。
切り刻まれたサイコロ状の肉片は、その質量によって『固空』で作り上げた受け皿は大きく凹んでいく。
そして限界まで凹んだその瞬間に、僕は『固空』の性質を変化させ『反発力』を最大にした。
『さぁ!飛び交う肉片と僕の見分けがつくかな?』
固めていた空気がまるでトランポリンの様に機能して、大量の肉片が宙を舞う。
それに合わせて僕も跳躍。
更に技能『隠密』を使いながら、様々な柔軟性を持つ『固空』を、まるでパチンコ台の様に設置した。
そして、これが最も重要。
僕は『固空』により空気をシャーレ型に固め、その中に『とある透明な液体』を注ぎ込んだ。
そして想定通り。
魚たちは肉片や『固空』めがけて水のレーザーを放ち続けていた。
水のレーザーによって貫かれた肉は、設置していた『固空』がまるでパチンコの様に機能し、落下軌道を変えて宙を舞い続けている。
僕にも少しは水のレーザーが飛んできてはいるけど問題ない。
『隠密』で限りなく存在感を薄くしているし、何よりさっき空中に貯めておいた『あの液体』のおかげもあって避ける必要さえなくなっていた。
僕が『固空』に貯めておいたのは、さっきの毒沼フロアに生息していた巨大な蛙が分泌した『毒油』だ。
あの魚、湖から僕を視認した上であの射撃精度をしているということは、もちろん水面から空気間に生じる『屈折』まで考慮していると言うこと。
つまり、油を撒いて水と空気とは異なる余計な『屈折』を加えてしまえば、射撃精度は落ちるんじゃないかと言う即席のアイディアだ。
魔力を完全に頼りにされると打ち破られるけど、少しの間の目眩しにはちょうどいい。
後は魚取りの時間だ。
僕は自身を毛繕いをして、口に含んだ毛を技能『固空』により空間に固定させた。
技能『甲化』を使用後に抜けた毛も、少しの間は硬いままでいてくれる。
そして僕は標的である六匹観察し、射撃のクールタイムを見極める。
次のクールタイムがこの魚達の最期だ。
『射抜かれる側が、どんなに怖いものか思い知れ!さっきの蟻の巣フロアにいたスズメバチの技能『飛針』を応用した技能!名付けてッ!……名付けて?……ぬ、抜け毛弾!』
僕はそれぞれ射撃のクールタイムに差し掛かったと同時に、一匹ずつ順に魚達を射抜いていく。
僕の能力「上感覚」があればどれだけ水面が揺らいでいようが、泳ぎ回っていようが全く関係ない。
残念ながら射撃精度は僕の方が上なのだ。
僕の感覚から五匹については頭に命中。
そして残り一匹はあえて致命傷を避け命中させた。
流石にこの水レーザー、技能『圧水射』は覚えておきたいからね。先のことを考えて意図的に生かしておいたのだ。
僕は展開していた『固空』を全て解除する。
さっきの毒沼地帯で『吸魔』によって魔力補充したとは言え、流石に疲労が大きい。こんなに『反応速度強化』と『固空』をフル活用したのは、これまでにはなかったかもしれない。
地上に降りて水面を見る。
水面には僕の毛に射抜かれた五匹の魚の死骸と、残り一匹は水面をピクピクと力無く動いていた。
僕はその残り一匹を直接爪で切り裂いてトドメをさした。
触れさえできれば、体の構造を理解できる。
それが僕の持つ能力「上感覚」の特性だ。
『圧水射』についても使い方はなんとなく理解もできた。
これでこのフロアも完全攻略。
とは言え、ここまで地下迷宮を潜って来たのも含めて、僕は精神的にも疲労しきっていた。
『ここにはもう絶ッッッッ対に来たくない。はやく奥に潜って魔石取って黒一のところに戻るんだ』
そうして僕は半分八つ当たり気味に、目の前の大岩を木っ端微塵に切り裂いて、おそらく最奥であろう次のフロアへと歩みを進めたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
もし本作について「先が気になる!」「なんか面白いかも?」等思ってくださいましたら、『ブクマ』や下あたりにある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』にて評価をいただけましたら嬉しいです!




