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27. 攻略『蠱毒の地下迷宮』 第二階層①


 体についたベトベトを一頻ひとしきり洗い流した後、僕は下へと続く穴へと歩みを進めた。


 

 その穴の先には、螺旋階段が続いていた。

 かなりの急勾配きゅうこうばいで、踏面ふみづらの幅もかなりまちまち。たぶん人工的に作られたものじゃなくて、自然に形成されたものなんだろうと思う。



 僕は足元に気をつけながら歩みを進め、何事もなく開けた場所まで出た。

 


 そして僕はその先の光景に目を疑った。



 さっきまでの蟻の巣のような構造とは全く違う。

 そこは所謂いわゆる、毒沼地帯だった。



 だだっ広い空間に、紫色をした毒々しい沼がいくつも点在している。更に、毒沼からはガスが吹き出していて、ポコポコと泡立っていた。

 地面も泥濘ぬかるんでいて、お足元も非常によろしくない。


 

 僕は『固空』を使い空気を固め、その固めた空気の上から辺りを見回す。


 

 このフロアにはさっきまでの様な、虫の大群はいないみたいだ。

 精神衛生的にはさっきまでよりか遥かにましだけど、それとは別に心底ここは地上の生物が来ていい場所じゃないとも感じた。


 

 なんてことない地面の泥濘ぬかるみや水たまりにすら麻痺効果があり、さらに沼から噴き出すガスには睡眠効果があるみたいだ。


 地下迷宮ダンジョンという密室空間。

 僕も『変化』を使って耐性を得ていなければ、五分と経たずに意識を失ってただろう。


 

『とりあえず、ここにも魔物擬まものもどきがいるだろうし『隠密』は必須だね。何がいるかは気になるけど、ステータスは絶ッッ対見ない!』


 

 所々にウネウネした黒くて小さい芋虫みたいなものもいるけど、絶対にステータスは見ない。

 僕は同じてつは踏まない賢い猫なのだ。


 

 そうして空中を歩いていると、カサカサと毒沼に生えていたミズクサのような背の高い植物が音を立てた。

 それと同時に、毒沼の水面も静かに揺らめく。


 

 どうやらこの沼地地帯にも、さっきのコブラ似の魔物擬まものもどきがいるみたいだ。それはつまり、『隠密』を使ってても熱で感知されるという事。


 だけどこの蛇、さっきのフロアににいた同種よりも明らかに感知能力が高い気がする。

 僕は能力のおかげでこの蛇を感知できたわけだけど、この蛇は能力もなしに僕と同レベルでこっちを感知してきている。



 僕は一層のこと警戒心を強め、空中から沼地周辺を観察し続ける。

 


『蛇の相手はそう難しくないけど、そもそもあんまり騒ぎたくないんだよねぇ…………何かウネウネしてる黒くて小さい虫に、沼地から生えてる薄ピンク色のぶっとい植物、っぽく擬態してる何かの『舌』。勘づかれても面倒事にしかならないんだよねぇ』



 僕はゆっくりと他の魔物に気づかれない様に毒沼の上を通ろうとした。



 その時だった。

 植物っぽく擬態していた、薄ピンク色の舌が僕へと迫り伸びてきた。


 

『――ッなるほどね!このフロアの蛇はわばセンサーってわけか!』



 僕はいつも通り技能『尖爪せんそう』と『甲化』によって、爪の切れ味と強度を増させて向かってくる舌へと猫パンチを振るう。


 これまでこの二つの『技能』を使い、切り裂けなかったものはない。


 

 いや訂正、なかった。



 その舌は油の様な液体にまみれ、更に大きくしなっていたこともあってか、僕の爪は舌の表面を滑ってしまった。


 でも効果が全くなかったわけじゃない。

 その舌は僕の猫パンチに弾き返され、毒沼へと戻っていった。



 そしてこの舌攻撃を皮切りに他の沼からも、何本もの舌が僕へと迫り伸びてきた。


 

 迎え撃つのは得策じゃない。


 

 僕は技能『反応速度強化』によって体感時間を引き延ばし、ゆっくりとその世界を認識する。

 更に「相手の体の動きや癖を見て、数秒先どう行動するかを予測できる」僕の目の能力によって、舌の軌道を予測して空中で回避していく。



 でも、このまま避け続けていても体力を消耗するだけだ。このフロアにはそんなに足の速い生き物はいないっぽいし、もう先を目指してしまうのもいいかもしれない。

 


『よし!このフロアはそんなに広くないっぽいし、さっさとこのまま空蹴りでゴリ押し――ッ!?』


 

 しかしその時、僕の『空蹴り』がからぶった。



 蹴る場所を誤ったわけじゃない。

 空気を固められなかった。



 そして同時に、僕は自分の身に起きている異変を感じ取った。


 

『ッまずい。なんか全体的に技能の効力が薄くなってるッ!?さっきの舌、油分で滑ったのかと思ってたけど、そもそもいつもよりも爪を強化できてなかったのか。恐ろしく微妙な変化、僕でなきゃ見逃しちゃうね、とか思ってる場合じゃないし落下地点見極めないと流石にマズイッ……!』


 

 空蹴りが安定しないなら地面に降りるしかない。

 今使ってる『反応速度強化』は能力との相乗があるからか、まだそれほど効き目は薄くなってはいないのが唯一の救いだ。

 


 僕は全力で意識を集中させ、空蹴りで毒沼への落下だけは回避を試みる。まだ効果が弱まっただけだ。落下の軌道を逸らす程度であれば、まだ可能なはず。


 

 そして毒沼周辺にいる魔物のステータスを確認。

 もう気が付かれているなら関係ない。

 何が起きてるのかの把握は必要だ。



 ――――――――――

 種別:魔物擬〈ノンスター〉

 種族:魔毒喰蛇〈オフィオファガス・トキシクス〉

 技能:『熱探知』『魔毒生成』『筋肉流動』

    『筋圧縮』『毒喰』『尾刃化』『隠密』

 ――――――――――


 ――――――――――

 種別:魔物擬〈ノンスター〉

 種族:魔毒巨蛙〈トキシコンラウア〉

 技能:『魔毒生成』『舌操』『毒油装甲』

 ――――――――――

 

 ――――――――――

 種別:魔物擬〈ノンスター〉

 種族:吸魔蛭きゅうまひる〈ヴィータディプサ〉

 技能:『麻痺毒生成』『魔毒生成』『吸魔』

 ――――――――――

 


 やっぱりあのフロアの最後のところにいた蛇と、それとは別に蛙とひるの魔物がいるみたいだ。



 蛙の技能については体感した通りだし、舌にさえ気をつければ問題はなさそうだけど。


 問題はひるの魔物だ。

 たぶんこの技能『吸魔』というのが、今技能の効きが悪くなっている原因なんだろうと思う。



『…………うーん。ひるにはまだ触れてすらないのに干渉されてるって事は、空気中の魔力?みたいなものを吸い取る技能ってことなのかな?だから空間に干渉するような『空蹴り』や『固空』の効力が限りなく弱まった。逆に僕自身に適応する技能は、使えなくはないけれど少し弱まる程度なのかな?』


 

 しかしここでの長居は非常によろしくない。

 今の時点で技能の効きが悪くなってるんだ。

 ここに留まりすぎて『変化』により得ていた毒耐性が失われてしまうことだけは避けなきゃいけない。



 だけど空蹴りも固空も使えず、しかもこの足元の悪い中だとそもそも――



 付近の毒沼から再び舌が伸びる。


 

 空蹴りを使えれば、上下への回避もできるけれど今は無理だ。そして、足場も悪いし左右回避ですらキツイ。



 僕は再び猫パンチでその舌を弾き返す。

 その舌は僕のパンチに空中を大きくしなり、まるでむちのように軌道を変え、再び僕へと迫ってきていた。


 

『――あっ、これ無理だ』


 

 どれだけ予測できてようが、避けようのない攻撃なんてどうしようもない。横薙ぎに迫るその舌を再び猫パンチで弾き返そうとしたけれど、舌が長すぎて勢いを消しきれない。


 

 僕の胴体に太い舌が巻きついた。


 

 巻きついたその舌を爪で切り裂こうとするけれど、そもそも体制的に引っ掻きづらいし油で滑る。

 油を逆手にとって抜け出そうともしたけど、こっちは何故だか滑りが悪い



 なるほど。舌の表面に細かい毛みたいなのが生えてるね。たぶんそのおかげで逃げられなくなってるみたいだ。

 


『――なんて感心してる場合じゃないッ!』


 

 舌の締め付けが思ったよりキツイ。

 技能『甲化』のおかげで内臓へのダメージは最小限に抑えられてるけれど、問題なのは『その先』だ。



 技能『反応速度強化』を切らして見えるのは、このまま毒沼に引きり込まれ、大蛙に丸呑みにされる未来。

 


 そして更に追い討ちとでも言うべきか。

 僕の体にひるが張り付いた。


 

 元々空気中の魔力を吸い取っていたひるだけど、それが直に張り付いたらどうなるのか。

 そんなのは想像にかたくない。



 技能『反射神経強化』の効きが、どんどん悪くなっているのを感じる。体感時間が徐々に早まる。『尖爪せんそう』による爪の鋭さも失われていき、『甲化』の効きも悪くなったおかげで、体の締め付けが一層強まった。


 

『……ッ結構、まずいかもッ』


 

 心なしか体調も悪くなってくる。

 『変化』で獲得していた耐性が薄くなってきだんだろうけど、たぶんそれだけじゃない。

 もしかすると魔物にとって魔力っていうのは、なくてはならない存在なのかもしれない。


 

 そしてなにより最悪なのが、僕が弱ってきたの好奇としてか、コブラ似の蛇も近づいてきていると言うことだ。



 たとえ苦し紛れに舌から逃れられたとしても、今この蛇を相手取れるのかとは言われれば、正直厳しいと思う。

 


『――ッあぁもうッ!!こんな所で死ぬわけにはいかないっていうのにッ!何とかこのひるをどうにかしつつ、舌をどうにかして体調を回復させつつ、蛇もどうにかできる案はッ……そんな都合のいい案あるわけ、あるわけッ……………』


 

 あった。

 


 今は時間もない。

 技能『反応速度強化』の効力が完全に切れる前に、ありったけの力を『とある技能』へ注ぎ込む。



『そうだよ。何も難しいことじゃあない。吸われているのなら、吸い返せばいいだけだッ!!』



 僕はこのひるが使っている技能『吸魔』を使用する。


 

 僕の能力「上感覚」は触れさえできれば、その対象の持つ『技能』を使う感覚を覚えられる。空中を歩いてる時は、まだこのひるには触れられてはいなかったからこの技能の使い方がわからなかったけど、逆に向こうから張り付いて来てくれたのは幸運だったのかもしれない。



 そして、僕に限っては「コピーはオリジナルには敵わない」と言った事はない。なぜなら僕は『感覚的にどうすればこの技能を最もいい形で使えるか』まで感覚で理解できるから。



 僕がしているのは『模倣もほう』であり『学習』でもある。



 『尖爪せんそう』や『甲化』だって僕が原理を理解して最良の形で使ってる。元の尖爪烏〈クローレイブン〉や空甲虫〈スカイビートル〉よりも、その技能の効果が高いことはすでに検証済みだ。


 

 そして想定通り。

 ひるとの魔力の吸い合いは僕に軍配が上がった。ひるは僕にありったけの魔力を吸われ、干からび僕の体から剥がれる。


 

 ひるからの魔力と空気中からも魔力を吸い取って元気百倍!



 だけどこれで終わりにはしない。

 僕は間髪おかずに、舌を巻き付けてきているこの蛙へ向けて技能『吸魔』を全力で使用する。



 そして僕はこの『吸魔』の感覚で確信した。

 この沼地地帯の支配者が、このフロアで最も小さなひるであるということを。

 


 このひるの生息域は毒沼周辺だけであり、毒沼の中では生きていけない。

 更に技能『吸魔』も「空気中」と「触れている対象」、「地表にいる生物」の魔力を吸い取るものであって、「水中」や「毒油」には適応されないようだった。それは今さっき蛙へ『吸魔』を使ったおかげで確証を持てている。



 そしてこのフロアに生息している蛇と蛙は、今も全く毒沼の中から顔を出そうとはしない。



 そこで繋がる一本の道筋。



 つまりこの蛇と蛙は、この技能『吸魔』に適応しきれていないんだ。



 だから蛇もこっちが弱るそぶりを見せない限りは毒沼から顔を出そうとはしなかったし、蛙だってその体長は二十メートルはあるはずなのに、その巨体を沼の外へ現そうとしない。

 更に舌を技能『毒油装甲』で守っていたのもいい証拠だ。

 


 さて、種が割れてしまえばどうと言うとはない。

 ここから反撃開始だ。

 


 僕は五十センチほどの自身の体を、技能『変化』により半分程にしぼませる。そしてその一瞬で『固空』によりその失われた分の体積を補う。

 更に、僕はこの舌をジップロックに収納する様に周りの空気を固めた。


 

 どれだけ舌がヌメヌメしていようが、滑る逃げ場を失わせてしまえば関係ない。



 僕は牙大蛇〈ファングスネーク〉の技能『鋭牙』により、巻きついていた舌に牙を通す。

 今度は滑ることはなく、しっかりと僕の牙は舌を貫通した。



 ここからやることはたった一つだ


 

 僕はその大きな舌を咥えたまま、空蹴りによって大きく上へと跳躍する。


 そしてその巨大な蛙は、僕に舌を引っ張られて毒沼から引きり出され宙を舞った。



『キャッチッ!アンドッ!』



 僕はその宙を舞う蛙に対して空蹴りで距離を詰め、更にその巨体を『固空』によって空中に固定させる。

 これで準備は整った。


 

『――リリーース!!』


 

 『固空』によって固定した舌を根本から切り離す。

 加えて僕は、その巨体を毒沼へと全力で蹴り飛ばした。



 ――ザバァァァァァァン



 蛙は毒沼へそのまま勢いのまま落下し、大きな毒の飛沫しぶきをあげる。



『敵を感知するための蛇。力を失わせるひる。そして捕食者である蛙。相変わらず殺意が高いけど『吸魔』さえ何とかできてしまえばどうってことないね!まぁ、何とかできる生き物は相当限られてるだろうけど』



 ひるはまだいるけど『吸魔』を覚えた今問題じゃないし、蛇はそう簡単には毒沼から顔を出さない。



 これでもう何も怖いものはない。



『空蹴りも固空も『吸魔』のおかげで元のレベルで使えてるし、このまま奥へ進んでしまおう。たとえ舌が伸びてきても、今の僕なら普通に避けられるしね』



 危機を乗り越えてほっと一安心したのも束の間、僕は自身の体を見てまた気分が落ち込んだ。



『はぁー……今度は毒油でギトギトぉ……また水浴びしておきたいところなんだけど、『吸魔』もずっと使ってられないしさっさと奥へ進もう』


 

 僕は毒沼から伸びる舌を空蹴りでかわしながら、更に奥へ空を駆ける。


 

 このフロアの構造はいうなれば瓢箪型ひょうたんがただ。蛙、ひる、蛇の潜むこの広いエリアの先には、小さい入口を経て少し小さめなエリアが続いているようだった。



 僕はトコトコ短い手足で先に進み、その人一人分程の小さい入り口まで辿り着いた。

 この先もどうせ殺意マシマシの魔物擬まものもどきが控えてると思うと気分が重たくなる。



 けれどそんなことで足を止めてはいられない。

 今この瞬間にだって、黒一は魔毒に侵されて苦しんでいるんだから。



 僕は意を決して、その小さな入り口へと歩みを進めた。


 

最後までお読みいただきありがとうございます!


もし本作について「先が気になる!」「なんか面白いかも?」等思ってくださいましたら、『ブクマ』や下あたりにある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』にて評価をいただけましたら嬉しいです!

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