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26. 攻略『蠱毒の地下迷宮』 第一階層②


 あれからなんとか虫達も落ち着いて、僕は忍足で奥へと歩みを進めていた。


 途中全速力で駆け抜けていたこともあってか、かなり奥まで進んで来れている感覚は掴んでいていた。



 奥へ奥へと進むたびに、風の流れのようなものが強くなっていくのを体で感じる。

 多分これは魔力の流れなのかな?



 とか考えようとしたけれど、そんなこと考えられる精神的余裕なんてなかった。



 目を逸らし続けていたけど、僕は天井へと目を向ける。



 さっきの蟻や蜂とは違う。

 今度は蜘蛛が天井びっしり這い回っていた。結構毛深いアシダカの軍曹タイプの蜘蛛のようだ。

 


 もちろん『ステータス』なんて間違っても見る気はない。



 ここに入ってからというもの、虫の大群ばかりで気が滅入めいりそうになる。



『はぁ…………そういえば、人間の頃は家に猫がいたからこう言う大きいタイプは見かけたことなかったなぁ。そうそう、見かけるといえばもっと小さい、ハエトリグモとか。いきなりいるとびっくりするんだけど、よく見るとぴょぴょこしてて可愛いんだよねアレー………………ッダメだ可愛い虫を思い浮かべても誤魔化せる訳ないッ!!グロいッ!!きもいッ!!臭いッ!!あーもう早く村に帰って猫に癒されたいッ!!!』


 

 前世も虫はそんなに得意な部類でもなかったから、常に背中がゾワゾワしてる。いや得意だったとしても、こんな閉鎖空間で数百匹もうじゃうじゃしてたら最早関係ない気もする。



 もし背中に落ちてきたらと思うとビビり散らかすと思う。まぁその点、今の能力のおかげで落ちて来る虫や飛んでくる虫も避けられてはいるだけども。


 

『はぁ落ち着け。もう先は短いはず。もう少ししたら広い空間っぽいし、もしかしたらそこに魔石があるかもしれないしね…………うん。あったら、いいな』


 

 心が疲弊している中歩いていていると、やっと少し広い空間へと出る。相変わらずの真っ暗闇だけど、天井も高く結構見渡しも良い場所だった。


 

 ただ僕が感じてた魔力の流れの元が、ここじゃなくて更に下へと続いていることに少なからず嫌気がさしてくる。


 

『よくある階層式の地下迷宮ダンジョンなのかな?こういう開けた場所でフロアボス的な存在を倒すと、下の階層に潜れる、みたいなー?』


 

 そう呑気に考えていたけれど、ふと天井から何かに見られている視線を感じた。



 僕は天井へと感覚を研ぎ澄ませる。


 

 僕の感覚、おそらく『隠密』技能持ちの巨大なナニカが天井に張り付いてるように感じとれた。なんなら僕の『隠密』にも気づいていて、確実にやれる隙をうかがっているみたいだ。


 

 体長はかなり大きい。大体二十メートル程かな。


 

『先に手を出してもいいんだけど。わざわざ相手立つ意味もないんだよねぇ。何もせずとも下へと続く道は閉ざされてない。つまりはボスを倒さないと下に行けないような仕様じゃないっぽいし』


 

 と思っていたけど、僕のその思いは一瞬にして砕け散った。


 

 襲われない様にゆっくり先へと進んでいると、下へと続く入り口のその周りに、蛇の魔物がウネウネと地面を這いずり周っていた。


 

 顔が平たいタイプの蛇が五匹。

 地上にいた牙大蛇〈ファングスネーク〉のようなアナコンダタイプとは違う。どちらかと言えばコブラタイプの蛇だった。


 

 僕が諦めた要因としては蛇の特性によるものだ。

 地上にいる蛇もそうだけれど、実は蛇系の魔物には『隠密』は通じない。



 『隠密』は目の前にいても知覚できない様に、気配を薄くするような技能だ。

 視界に入っても数秒程度認識できなくなるように誤魔化したり、臭いや音も軽減させたり。いわば、相手の視覚と聴覚と嗅覚を誤魔化す様な技能なのだ。


 

 対して、蛇にはそれらの感覚以外で、生き物を察知できる身体機能を持っている。



 目と鼻の間あたりにある「ピット器官」と呼ばれるもので、熱源として生物を捉えるのだ。しかも、それがただの身体的機能ではなく、牙大蛇〈ファングスネーク〉の場合は『技能』にまで発展していた。


 

 僕も会得している技能『熱感知』だ。


 

 予想通り僕が蛇を知覚するのと同時に、蛇も『隠密』を貫通して僕を『熱の塊』として認識した。



 この蛇の全長はおよそ五メートル程と言うほど大きくないし、なんなら見た目だけで言えば地上にいた牙大蛇〈ファングスネーク〉の方が凶悪そうに見える。まぁ、僕が『魔毒』耐性あるからそう思えるだけなんだろうけど。



 しかしここで気にしないといけないのが、天井に張り付いている魔物だ。おそらく天井のデカブツは、こちらがこの蛇達を攻撃した隙を狙っているんだろう。

 


『とはいえ結局蛇に勘づかれている今、応戦は回避はできないし早速飛びかかって来るッ!!』


 

 一匹の蛇が僕に飛びかかってきた。

 蛇もかなり反射神経は良い方だけれど、能力持ちの僕には遠く及ばない。

 いや能力持ちじゃなくても、純粋に蛇と猫なら猫の方が反射神経はいいのだ。



 回避も反撃も容易たやすい。


 

 僕は今日何度目かの技能『甲化』と『尖爪せんそつ』により爪強度と切れ味を強化する。

 そして『固空』により、大きくかっぴらいた蛇の口の中の空気を固めた。


 

 蛇は僕に到達する前に、固めた空気にぶつかり一瞬の隙ができた。

 どうやら見た目によらずパワーはあるみたいだ。『固空』でもその勢いは完全に殺せていなかった。

 まぁでもこれでも十分な隙。



 僕は爪で首をね飛す。


 

 しかしその瞬間、僕は違和感を覚えた。

 危機感を覚えて瞬時に『ステータス』を覗く。


 

 ――――――――――

 種別:魔物擬〈ノンスター〉

 種族:魔毒喰蛇〈オフィオファガス・トキシクス〉

 技能:『熱探知』『魔毒生成』『筋肉流動』

    『筋圧縮』『毒喰』『尾刃化』『隠密』

 ――――――――――


 

 野生の魔物がここまで技能持ちなのはかなり珍しいね。まぁ僕が言えたことじゃないけど。


 

 でもこれで、違和感の正体がはっきりとわかった。



 それは技能『筋圧縮』だ。



 この蛇、体は小さいと思っていたけどそれも罠だったみたいだ。

 実際首をね飛ばした感覚が、巨大な魔物を切り刻んだ様な感覚と似ていた。それこそ牙大蛇〈ファングスネーク〉なんかよりもずっと重い肉厚を感じた。


 

 『――ということはちょっとまずいッ!』


 

 そして僕の予想通り。

 僕が首をね飛ばして死んだ蛇の体が、一瞬にして膨れ上がった。

 それこそ数十倍ものサイズ。コレがこの蛇の元の大きさなのだろう。



 全く、力を隠すために身体小さくするとか野生生物の風上にも置かないね!

 まぁ僕が言えた口ではないんだけど。


 

『なるほどね。デカブツに気を取られすぎてても、蛇を甘く見ていると足元をすくわれるってわけね。なんなら僕みたいに一匹殺せたとしても、死体が肥大化してブラインドになってこっちに隙が生まれてしまう………僕の場合は肥大化前にこの性質に気がつけたおかげで蛇や天井のデカブツからも追い討ちは来なかったわけだけど…………あまりにも初見殺し性能が高すぎなのでは?』



 思ってたよりも厄介だ。残りの蛇は肥大化した蛇の死体を陰に、『隠密』を使い身をくらませる。

 こんなことなら先に天井のデカブツを先にやった方が楽だったかもしれない。まぁ言ってもこればかりは結果論だししかたがないか。



 それに、厄介なだけで攻略できないことはない。

 


『残念ながら『熱探知』ができるのは僕も同じだ。やっぱり、蛇たちは背後に周ってきてるね。でも、これ僕だからこの短時間で蛇の探知をしながら上に注意をはらったり、肥大化に対処できたりしてるけど、普通に攻略しようと思ったらこれどうやって…………なんて、そもそもこんな洞窟にたった一人で潜る様な命知らずいる訳ないのか、ハハハ』

 


 そして次の瞬間。

 間髪入れずに『隠密』使いながら、四匹の蛇達は一斉に僕の背後から飛びかかってきた。


 

『さっきと同じことをすれば、仕留められなくはないんだけど……………』



 四匹が一斉にかかって来るということは、つまりこれが上のデカブツの襲撃のタイミングと見ていいだろう。じゃなきゃわざわざ『隠密』でその巨体を隠している意味がないからね。


 

 僕は『固空』を蛇の前に展開し少し勢いを落とさせる。更に爪で蛇四匹の頭を切り裂くように、水平に引っ掻きつつ、空蹴りによって軽く後ろへと下がった。


 しかし後ろに下がったことで蛇相手には致命傷までは与えられず、軽く目や鼻に少し深めの傷を残せた程度。でも今は蛇のことはどうでもいい。



 やろうと思えばいつでもやれる。



 僕はさらに追撃を見越して、次の空蹴り予定の空気を固めた。


 

 丁度その次の瞬間のことだ。

 天井から白い糸の様なナニカが放線状に降りかかってきた。


 

『やっぱりこのタイミングでくるよねぇ』


 

 完全に掴んでいたタイミング。

 その白い何かから逃れるのはそれ程難しくはなかった。



 僕は丁度さっき固めておいた空間を足場に空蹴りし、更に真上へと空蹴りをする。



 その間僕は視界の端で蛇達の動向を捉えていた。



 『隠密』がそもそも通じない蛇達もその攻撃は察知していたようだけど、頭を傷つけられて反応しきれなかった一匹がその白いナニカに直撃し、その結果蛇の体は溶けていった。


 おそらくかなり強い酸性なんだろう。

 残る三匹はといえば、なんとかその白いナニカの直撃は避け生き残ったようで、また『隠密』を使って身を潜めた。



 僕は空蹴りで天井付近まで近づき、そのデカブツの魔物を視認した。

 


 

『白い謎の粘着質な物質を飛ばせ魔物……なるほどね。道中で見かけたのはコイツの幼体ってわけね』

 



 それは巨大な毛深い蜘蛛だった。

 元の世界で例えると、タランチュラとかそういう系統の蜘蛛っぽさを感じる。



 僕は『ステータス』でその正体を確認する。


 

 ――――――――――

 種別:魔物擬〈ノンスター〉

 種族:溶壊大土蜘蛛〈ライシス・テラフォサ〉

 技能:『溶壊糸生成』『溶壊液生成』『隠密』

    『麻痺毒生成』

 ――――――――――

 


 天井に張り付いていたそれは、僕が天井付近まで近づくや否や、蜘蛛は地面に向かって飛び跳ね逃げた。



 どうやら正面からのお相手は好みじゃないみたい。



 あの蜘蛛大きくはあるけど、その分動きとしてはそこまで機敏さはないようだった。



 正面からであれば残り三匹の蛇の方が怖い気もする。



 

 ひとまず僕は『固空』によって空中に止まった。



 あまり上に行きすぎるのもダメ。

 『隠密』で誤魔化している様だけど、しっかりと糸が張り巡らされてる。しかも何が性格悪いって、明確に視認できるほどの糸もあれば、僕が目を凝らさないと視認が難しいほどの細い糸もあるということ。


 

 太い糸に気を取られて、細い糸を見逃して体が真っ二つになんてこともなくはないのだろう。

 


『ここまで大きい蜘蛛の魔物とは初めて戦うけど、やっぱり見かけ倒しかな』


 

 僕はあえて上に空蹴りし、天井に張り巡らされた蜘蛛糸を切り裂く。



 やっぱり、かなり強い酸性。『甲化』で硬くしていようが溶けるものは溶ける。



 でもこれでいい!


 

 僕は『変化』によりまた身体を三倍ほどに肥大化させ、牙大蛇〈ファングスネーク〉の技能『筋肉流動』によって両脚を膨らませる。


 更に、さっきコブラ型の蛇を切り裂いて覚えた『筋圧縮』により、足へ移動させた筋肉を更に凝縮させる。



 僕は全力で地面へ向けて空蹴りをし、まっすぐ蜘蛛のデカブツへと向かう。



 もうどこへも逃すつもりはない。



 蜘蛛は逃げられないのを察したのか、将又はたまた反射的なのか一本の太い糸を僕に向けて飛ばした。



 ここまできたら次に何がくるかは感覚で理解している。


 

 僕は向かって来る一本の極太糸を体を捻り避け、空蹴りにより更に距離をつめていく。



 そして残り数メートルとなった時。

 僕の予想通り、さっきと同じ様な放射状の蜘蛛糸を僕へと放った。



 今度は距離も近く僕も勢いづいていた。

 僕にとっても、逃げ場はどこにもない。


 

『獲物を仕留める瞬間が一番の隙になる。それはお前が一番よくわかってたはずなのにね……相手が僕だったことを後悔すると良いよ』


 

 こっちは最初から逃げ場なんて必要としていないんだ。天井のお前の糸を裂いた時点で、お前の溶壊液への耐性はついているんだからね。


 降下中に太い糸をわざわざ避けたのは、お前の糸が僕に通用すると思わせるためのブラフ。



 確実にやれるこの距離まで近づくためのね。



 僕は蜘蛛糸を真正面で受けながら蜘蛛の体を切り裂く。


 

 そして切り裂いた瞬間、体に溜まっていた溶壊液が周囲に飛び散った。

 体が溶壊液と蜘蛛糸まみれになるけど、結局耐性持ちの僕には同じ事だ。


 

 そして隠れていた残り三匹の蛇も、ここぞとばかりに天井から降ってきた。



 体を回転させ、尾を刃に変えてまるで鞭のように尻尾を僕へと振りかざす。



 溶壊液に加えてダメ押しのつもりなんだろうけど。


 

 この蛇がこの溶壊液への耐性を持ってないことは既に見ている。ならば今ここで、物理的に迎え打つ必要なんて一切ない。


 

 今僕の足元は溶壊液だらけなんだから。



 僕は空蹴りで横に素早くかわす。



 そして念には念を。

 僕は蜘蛛の死体の背にまわって、後ろ足で落下する蛇へと蹴り飛ばした。



 溶壊液と蜘蛛糸まみれのその死体を。


 

 ――ジュワァァァァァァァ


 

 蛇は蜘蛛も死体に直撃。

 その後、何かが溶ける様な音と苦しむ様な音が聞こたけれど、その音は徐々に静かになっていった。



 今日一番かもしれないため息がもれる。



『…………うぅぇぇ……体がベトベトっ。もう毛並みには結構気を遣ってるっていうのにさぁ!!うわ口に入ったっ……苦っ……最悪っ…………一回食貯蓄で貯めた薬草水で体洗おうっ』


 

 半ば萎えに萎えになりながら、ひとまず石柱を一本切り倒し、中をくり抜いてお風呂を組み立てる。

 そこに巨呑蛙〈ヒュージトード〉の技能『食貯蓄』でためていた薬草水を満たす。



 残念ながらお湯を沸かす技能はもってないからどんな季節でも冷水風呂だ。



 

『これはもう帰ったら黒一を思いっきり可愛がってやる!まったく…………はぁ、さっさと水浴びして先に進もうか』


 

 今この間にも黒一は苦しんでいるんだ。

 ゆっくりしている時間なんてない。



 僕はひとしきり汚れを落として、撥水性の持つ身体へと変化した後、次の階層へと向かうのだった。

 


最後までお読みいただきありがとうございます!


もし本作について「先が気になる!」「なんか面白いかも?」等思ってくださいましたら、『ブクマ』や下あたりにある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』にて評価をいただけましたら嬉しいです!

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