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14. 出会『少女と化猫』


 この世界に希望なんてない。

 周りの大人は私のことを恵まれてるって言うけれど、私はそうは思わない。

 

 夢を抱くことも、将来を望むことも許されない。

 大好きな友達と過ごすことだって許されない。

 

 私はこのどうしようもない不条理な世界に絶望していた。


 

   ***


 

 私の名前はティナ・エイミス。出身はディビナス帝国で、帝都からは離れた町を転々としながら暮らしていた。年齢は今年で十三歳になる。

 

 白銀の髪はお母さんゆずり。

 お母さんは腰近くまで届くストレートで、風になびくその髪は夜空を流れる星の川のような綺麗な輝きを魅せる。

 私もそんなお母さんに憧れて髪を伸ばし始めて、今では肩をちょっと過ぎるくらいまでになっていた。


 癖っ毛のお父さんは「俺に似なくてよかった」なんて冗談を言うけど、私はお父さんゆずりのこの翡翠ひすい色の瞳も好きだった。

 もちろん、そんな事直接お父さんには言えないけどね。



 それから私は、この世界で一万人に一人しか生まれないという「能力者」でもある。



 その能力名は「魔導者」



 私もよく分かってないけど、何となく「普通の人よりも魔法が扱いやすくなる能力」だと思ってる。

 

 お母さんから聞いた話だと、言葉を話せるようになった頃には魔法も使ってたみたい。勿論、そんな昔のことはあんまり覚えてないけどね。

 でも、魔法について真剣に向き合った時期もあったことは何となく覚えてる。

 確か、五歳ぐらいの時だったかな。



 たくさんたくさん勉強した。

 それで、暇さえあればその成果を披露していた。


 

 てのひらから水を生み出して宙に浮かせたり。

 暑い日には、部屋に冷たい空気を作り出して流し込んでみたり。

 地面をいじっててのひらサイズのお城を作ってみたり。

 

 『火』『雷』『鋼』属性の魔法は危ないから使わなかったけど、それでも魔法を使う私を見てお母さんとお父さんは喜んでくれた。

 私はこの瞬間のために生きてたんだって思えて、心が満たされた。



 でも、そんな楽しい日々は長くは続かなかった。



 家族以外の人に魔法を使ってる姿を見られてからというもの、同年代の友達が頻繁に家を訪ねてくるようになった。それまで友達付き合いもあんまりなかったから当時はちょっと驚いた。


 勿論それだけだったなら、よくある話だったと思う。

 問題は別にあった。



 何故だか帝都で魔法研究をしているという大人たちが、私の元を訪れるようになった。お父さん宛でもお母さん宛でもない、私宛のお客さん。

 その人達は私の元を訪れると皆こんなことを言った。



「君の魔法を見せてくれないかな?」

 


 最初の頃はその言葉の持つ意味も分からずに、言われるがままに魔法を披露していた。目の前で魔法を使うと、その人達は満足げな表情を浮かべる。見知らぬ人からでも褒められるのは、正直嬉しかった。


 でも、そんな様子を見つめるお母さんとお父さんの表情は、どこか暗かった。私は少しの違和感を覚えながらも、お母さんお父さんの目の届く中で、お客さんたちのお願いを聞き続けていた。


 

 そんな日々が続き、一ヵ月経ったぐらいのこと。

 私たち家族は引っ越しをすることとなった。



 お父さんは「仕事の都合」って言ってたけど、それが嘘だってことは幼い私でも気がついた。お父さんが私に嘘をついたことに少し胸がキュっとしたけど、当時私は何も言わなかった。きっと、私には分からない理由があるんだって信じてたから。



 けれどこの引っ越しを気に私は、事態が思っていた以上に深刻だった事を思い知る事になる。

 


 それは引っ越してから一日経たず。

 帝都からのお客さんがいつもと変わらず私の元を訪れたのだ。



 もしかしてお父さんお母さんが引っ越し先を伝えてた?


 いやそうじゃないって事はお母さんとお父さんの顔を見ればすぐわかった。お母さんもお父さんも、彼らを門前払いして私を表に出さないようにしてくれた。



 それから何度も。何度も何度も何度も引っ越しを繰り返した。それでも、帝都からのお客さんは一向に途絶えることはない。



「もしお仕事でお困りのようでしたら、帝都来られてはいかがでしょうか?能力者であるティナちゃんの将来を見据えても、悪い話ではないでしょう?諸経費はこちらで負担しますよ」


 

 ディビナス帝国内のどこに移り住んでも。定住せずに宿屋に転々と寝泊まりをしたこともあったけれど。まるで、私たちの動向を監視しているかのように、彼らは私の元を訪れ続けた。



 私もそれにちょっとした気持ち悪さを覚え始めた。


 

 それからというもの、私は同年代の友達と遊ぶことが多くなった。もうあの大人達とは関わりたくなかったから。

 同年代の友達と遊んでいれば、このモヤモヤする気持ちだって忘れらるって思っていた。

 

 

 でも、それすら間違いだった。


 

 それはある日の出来事。


 連日友達と遊んでいたんだけど、毎日毎日魔法を使っていたことや、帝都からのお客さんと鉢合わせしたこともあって心身ともに疲れ切っていた。


 だから、いつも通り「魔法使ってみて!」っていう友達にこう切り返した。

 


 「ごめん。魔法は今日は使えないの……だから、別の遊びにしない……?」



 いつもみんなの言う通うことを聞いてばかりだった私だけど、その日は勇気を出して断った。魔法以外でも私はみんなと一緒に遊べれば、それで良かったから。



 でも、私の言葉にみんなは冷たい目を向けた。


 

「……つまんないのー。じゃあまた明日ね」

「少しぐらいいいじゃん。ケチ」

「なーんだ。来て損した。んじゃあもうどっかいこーぜー。じゃあねー」

「能力があるからって調子に乗らないでよね!魔法使わないあんたに価値なんないんだから!」



 頭が、真っ白になった。



 私はそれまで、みんなのことを友達だって思ってた。魔法や能力がなくても遊んでくれるなんてことも疑わず信じてた。


 

 でも、それは違った。


 

 みんなは「私」に会いに来てたんじゃない。

 私の使う「魔法」を見たかっただけで、私の事なんて友達とすら思っていなかった。


 

 家に帰った後は、ひたすらに泣きじゃくった。



 人を信じるのが怖くなった。

 お母さんもお父さんも私の「能力」しか見てくれてなかったらどうしようって、必死に縋りついて不安な気持ちを全部吐き出した。


 泣き喚く私を、お母さんとお父さんは強く抱きしめてくれた。「辛い思いをさせてごめんなさい」って、声を震わせてお母さんは謝っていた。



 何も悪いことなんてしてないのに、どうしてこんな苦しい思いをしなきゃいけないんだろう。私がこんな能力を持ってるばっかりに、大好きなお母さんとお父さんを悲しませて………


 

 「(…………魔法なんて、大嫌いッ……!!こんな私なんてッ……大嫌いだッ……!!)」



 ………………………………………



 そんなことがあっても変わらず、帝都からの来客は途絶える事はない。


 少し前まで大きく見えていたその姿は、分かってしまえば私が友達だと思って居た人達と同じだって事にはすぐ気がついた。


 

「将来は立派な魔法使いかな?」

「冒険者など勿体無い!宮廷魔術師として国に仕えるのが最も理想的だろう」

「いや!こんな能力を持ってるなら研究者の道に進むのが良いだろう」

 


 結局その人たちも私のことを「能力のオマケ」としか思っていない。私はもっと普通の女の子が夢見るように。お花を育てたり、料理を作ったり、そんな平凡なことをしたいのに。



 その人達は私の意思を無視してそんなことを言い続ける。


 この能力がある限り私は、夢を抱くことすら許されない。将来も大人が選択した道をいくだけのお人形として生きていく事になるんだって。



 そう思った時、私の心は完全に折れた。


 

 いつしか私は、家族以外と関わることをやめた。


 

 大人も子供も関係ない。

 他人なんて誰も信用ならない。

 安心できる居場所は家にしかない。



 数ヶ月間、外に日を浴びることすらもなくなった。その頃から、生きることに苦しさを覚え始めた。

 起きてても夢の中みたいに頭がボーっとする。まるで病気でもしてるのかと思うぐらいに体も重い。


 

 お母さんはやつれていく私を見て「少しくらいは外に出たほうがいい」って言って、偶に買い物を頼むようになった。


 まるで罪を犯した悪い人みたいに、フードを深く被ってコソコソと出かける。誰にも関わりたくはなかったし、何より帝都からの大人と出会でくわしたくなかったから。



 そして、限界を迎えたある日私は、息苦さに耐えきれず路地裏へと逃げ込んだ。

 

 お母さんも一緒じゃないから、こんな暗くて細い道に行くのはダメなのは分かってたけど、心が苦しかった。


 

 私はその場でへたり込んだ。


 

 「(…………私は……どこで間違ったんだろう……)」



 そんなこと考えても気分は落ち込むだけだった。


 それからどれぐらいそうして居たかは分からない。

 心の奥ではこのまま悪い大人に連れ去られてしまっても良いなんて思ってたのかもしれない。



 けれど、私の元に現れたのはそんな悪い大人じゃなかった。

 私の足元に何かが通り過ぎる。



 それは、一匹の白黒柄の猫だった。


 

 その猫は膝を抱えてうずくまる私の足元をうろうろして頭を擦り付けた。まるで私の悲しい気持ちを分かってくれてるみたいだった。


 恐る恐る、私はその猫の頭に手をかざして見る。すると、猫の方から『撫でろ!』とでも言うようにてのひらに頭を差し出した。私はゆっくりとその猫の頭を撫でる。


 

 ゴロゴロとその猫は喉を鳴らす。

 とっても気持ちよさそうに私に身をゆだねてくれてる。

 


 なんだか心が軽くなったような気がした。この猫は「魔法」じゃなくて「私」の事を見てくれてる。普通の人にとってはそんな当たり前な事が、とても嬉しかった。

 

 一頻ひとしきり私はその猫を撫でていたけど、こんな人通りの少ないところに長居するのも危ない。そう我に帰り私は手を止め立ち上がる。


 するとその猫はふっと顔を上げた。

『まだまだ足りない』って分かりやすい反応がとても可愛かった。


 

「ありがとう。元気出たよ。また明日も、会えたらいいな」

 


 引っ越しも多かったからここにどれぐらいここに住む事になるのかはわからない。でも、心の底からまた会いたいって思えた。

 この子を家に連れて帰ろうとも考えたけど、これだけ人慣れしてるんだから多分飼い猫か地域猫なんだろうと思って断念した。


 私の言葉が通じたのかは分からないけど、その猫は「ミャー」と鳴き返してくれた。猫の言葉はわからないけど、なんだかそれが『また明日』って言われたような、そんな気がした。


 

「うん。また明日ね」


 

 そう言葉を返すとその猫は満足げに去っていた。


 

最後までお読みいただきありがとうございます!


もし本作について「先が気になる!」「なんか面白いかも?」等思ってくださいましたら、『ブクマ』や下あたりにある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』にて評価をいただけましたら嬉しいです!

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